- ドローン・イノベーションでミラノ・コルティナ2026の中継サービスを飛躍的にレベルアップ
出典 Olympicscom
息を呑むようなドローン映像は、2026年ミラノ・コルティナ冬季オリンピックの主役の一つとして登場し、視聴者をかつてないほど冬季オリンピックの光景、音、そして高空飛行のアクションに没入させる。
AIも駆使した最先端の放送技術で、自宅でアスリートの臨場感にあふれたパーフォーマンスを楽しめ、驚異的なスピードをリアルに「体感」し、高度なスキルを「実感」することが可能になった。
今年のミラノ・コルティナ2026の映像戦略は、「Movement in Sport(スポーツにおける動き)」というコンセプトに基づいて、ホストブロードキャスターのOBS(オリンピック放送機構)が推進し、これが大会を象徴する創造的なインスピレーションとなった。
OBSの幹部は「アスリートの動きを捉えることが大切なのです」とし、「結果だけでなく、スピード感、戦術、テクニック、そして競技環境も捉えることが重要。時にはスローモーションで複雑なディテールを映し出すこともあれば、アクションの中心にカメラを据えることも必要だ」と述べている。
- ドローン・カメラはソチ冬季オリンピック2014で使用開始 ミラノ・コルティナ冬季五輪2026では飛躍的に進化したFPVドローン
出典 Olympicscom
ドローン・カメラが導入されたのは、2014年ソチ冬季オリンピック、以来、大会ごとにその機能と操縦技術は飛躍的に向上し、用途は拡大している。
パリ五輪2024では、FPVドローン(First-person-view drones)がマウンテンバイクの生中継に導入され、世界中のファンにかつてない臨場感あふれる映像を始めて提供した。
2026年ミラノ・コルティナで冬季オリンピックが開催され、屋内外の会場全体に15機のFPVドローン(First-person-view drones)が配備された。
飛行カメラの速度と機動性が向上し、高速伝送の安定化、遅延の低減、解像度の向上などを実現して、冬季オリンピックの高画質のライブ映像を初めて配信することが可能になった。
リュージュやスケルトン、アルペンスキーやフリースタイルスキー、スピードスケート、スノーボードなど、競技中の選手のスピードで追うことができるようになったことで、視聴者のオリンピック体験は大きく変革した。
FPVドローンはライブスポーツ映像制作において最も強力なストーリーテリング・ツールの柱になった。
- 「視聴者がまるでスキーヤーの背中に座っている」ような臨場感
出典 OBS
FPVドローン中継システムを運用するのはOBS、中継映像は世界各国の放送機関やデジタル・プラットフォーム(MRHs)にライブで配信した。配信を受けるMRHsは、視聴者サービスの向上させる取り組みだとして歓迎している。
NBCオリンピックチームのモリー・ソロモン(Molly Solomon)エグゼクティブ・プロデューサーは、「視聴者がまるでスキーヤーの背中に座っているような映像が生み出される。スケーターのすぐ後ろにいるような感覚になる。だから、アスリートの視点が味わえる。それに、何よりも重要なのはスピードとダイビングだと思う。今秋、アメリカのアルペンスキー選手たちに映像を見せたのですが、彼らは、これまで見た中で一番、視聴者にアスリートの動きを理解してもらえる映像だと言ってくれた」と語る。
またOBSのヤニス・エクサルコス(Yiannis Exarchos)CEOは「テクノロジーはますます私たちに多くの機会を与えてくれる」とし、「しかし、オリンピックはテクノロジーを披露する場ではない。世界最高のアスリートたちのストーリーを、最も効率的に、そして最も魅力的な方法で伝えるための場を見つける場である」とした。
FPVドローン・ライブ中継映像 出典 Tver/IOC
- 「3次元」映像をもたらすライブ中継カメラ FPVドローン(First-person-view drones)
出典 Olympicscom
競技中継は主に2つの視点で行われる。1つは、安定した地上からの視点を提供する固定カメラまたは半固定カメラ、もう1つは、スムーズで直線的なトラッキングショットを提供するケーブルカメラ、クレーン、ヘリコプターである。
そして新たに登場したがFPVドローン(First-person-view drones)、真の「3次元」映像をもたらすライブ中継カメラである。
OBSは、ミラノのアリーナやドロミテ山脈の競技コースで25機のドローンを運用した。そのうち15機はFPVドローンである。
冬季オリンピックにむけて新たに開発されたFPVドローンは、2台のビデオカメラを搭載し、オペレーターが1台のビデオカメラを見ながらドローンを操縦、ディレクターと映像技術者が放送品質の2台目のカメラで映像を撮影する。ドローンの操縦する映像カメラと映像を撮影するカメラを分離させて、しかも一体運用させる新たなドローン中継カメラである。競技者と同じ目線で、ダイナミックなスピード感あふれる迫力満点の映像を視聴者は満喫できる。
FPVドローン(First-person-view drones)は、重さわずか9オンス(約270グラム)で、最高時速75マイル(約120キロ)で飛行可能。スポーツ中継は通常、固定カメラまたは半固定カメラで横から、あるいは上から撮影するが、FPVドローンは、安全で邪魔にならない距離を保ちながら、選手の真後ろを飛行する。
FPVドローン・ライブ中継映像 出典 Olympics Channnel
- 新たなドローン・クルーの登場
出典 OBS
以前のオリンピックと比べて進歩したのは技術だけではない。ミラノ・コルティナで進化を遂げているのは、ドローン・オペレーター・チームである。これまでの大会ではまだ初期段階だったスキルとテクニックを、この数年間で磨き上げた。
ドローン・チームは、パイロット(操縦者)、ディレクター、映像技術者の3人のスペシャリストで構成され、専用の通信チャンネルを介して連携しながら飛行経路、タイミング、技術調整を制御する。ドローン・チーム、中継映像制作を行うOB-VANに搭乗する総合ディレクターやVEなどの技術スタッフと常に連絡を取り合い、天候や光の状況に合わせて明るさや色などを調整するビデオ・フィルターをリアルタイムで運用する。その結果、コースの地形に関わらず、鮮明な高画質の映像の中継が可能になる。
アルペンなどの屋外競技では、コースの近に、バッテリー充電ステーション、予備ドローン、受信機、デュアル・モニターを備えた暖房付きサポート・キャビンを運用拠点として設営する。操縦者、技術者、ディレクター、そして迅速なバッテリー交換のためのピットクルーが構成されオペレーションにあたる。
FPVドローンはスピードと操縦性を確保するために極力軽量化している。そのためバッテリーは最小限の重量にするために小型にしたため、選手2人が滑走するのに十分な時間しか持たず、バッテリー交換のために頻繁に基地に戻らなければならない。バッテリー交換を迅速かつ容易に行えるようにドローンは設計されている。
このシステムにより、チームはドローンの映像信号がレースの状況を的確にとらえるように、リアルタイムの制御が可能になる。
屋外競技では、ドローン・パイロット(操縦者)は高所から操縦し、接近時と離陸時の両方で選手の視線を常に確保することで、高速走行時でも正確な追跡を実現する。
競技を熟知していないとFPVドローン中継はできない。ドローン・クルーは、事前に取材する競技について徹底的に訓練を受ける。
中には、元ノルウェー代表のジャンパーでスキージャンプを取材しているヨナス・サンデルのように、元競技選手である操縦者もいる。彼は他のアスリートと共に、FPVドローンで競技を撮影することを専門とする制作会社を設立した。
米国では、元米国代表アイスダンサーのジョーダン・コーワンがスケートカメラワーク会社「オン・アイス・パースペクティブズ」を設立した、フィギュアスケートの氷上カメラオペレーターを務めている。
操縦者はバーチャルリアリティゴーグルを装着 出典 OBS
「アスリートはそれぞれ加速の仕方も飛び方も違う」とFPV)ドローンの担当技術者は語る。「こうした微妙な違いを理解していないと、チャンスを逃したり、ドローンが選手を追い抜いたりする。2枚のスキー板で140メートルも空中を舞い上がるアスリートの姿は、信じられないほど素晴らしいものだ。視聴者も、まるで空中にいるかのような感覚を味わってほしいのだ」している。
操縦者は、徹底的な訓練に加え、選手と観客の安全を確保し、競技の邪魔をしたり競技を妨害したりしないよう、IOCの厳格な規則を遵守しなければならない。例えば、競技中はドローンが選手の前を飛行することは決して許されない。
- ドローンから基地局への映像伝送は最新の伝送テクノロジー、COFDMを導入
出典 Olympicscom
COFDM(Coded Orthogonal Frequency Division Multiplexing)
符号化直交周波数分割多重方式は、強力な符号化誤り訂正機能に加え、所定のチャネルを多数の直交サブチャネルに分割するマルチキャリア変調が最大の特徴である。周波数領域で、各サブチャネルで単一のサブキャリアを使用し、データ・ストリームをいくつかのサブデータ・ストリームに分解してデータ・フロー・レートを分解し、これらのサブデータ・ストリームを使用して各サブキャリアを個別に変調する。
各サブキャリアの並列伝送により、単一キャリアへの依存が軽減され、耐マルチパス フェージング能力、耐コード間干渉 (ISI) 能力などが大幅に向上。
COFDM 技術を使用すると、遮蔽物、視界が見えない、高速移動環境下での広帯域高速伝送を真に実現できる。これは現在世界で最も先進的で最も有望な変調技術である。
■OFDM 技術の利点
1、市街地、郊外、ビルなど見通しの悪い環境や遮蔽物のある環境での使用に適しており、優れた「回折・透過」能力を発揮する。
COFDM無線画像機器は、そのマルチキャリアおよびその他の技術的特性により、「見通し外」および「回折」伝送という利点がある。都市部、山間部、建物の内外およびその他の目に見えない環境でも可能。全方向性アンテナは通常、トランシーバーとレシーバーの両端で使用される。
2、高速モバイル伝送に適しており、車両、船舶、ヘリコプター/ドローン、その他のプラットフォームに適用できる。
従来のマイクロ波や無線LANなどの機器は、送受信側の移動通信を独立して実現することができず、特定の条件下でのみ移動点から固定点への通信を実現できる。そのシステムには多くの技術的なつながりがあり、エンジニアリングが複雑で、信頼性が低下し、コストが非常に高くなる。
COFDM 機器の場合、追加のデバイスは必要なく、固定-移動、移動-移動使用を実現でき、車両、船舶、ヘリコプター/ドローンなどの移動プラットフォームへの設置に非常に適している。高い信頼性と高いコストパフォーマンスを実現した伝送方式である。
3、一般に4Mbps以上の高速データ伝送に適しており、高品質のビデオとオーディオの伝送に対応。
カメラの要件に加えて、高品質のビデオとオーディオには、エンコード・ストリームとチャネル・レートに対する非常に高い要件があり、COFDM テクノロジーの各サブキャリアは、QPSK、16QAM、64QAM などの高速変調と合成チャネル・レートを選択できます。通常は 4Mbps を超える。MPEG2 では、 4:2:0、4:2:2 などの高品質コーデックを送信でき、受信側の画像解像度は 1080P に達し、放送画質を満たす。
4、複雑な電磁環境において、COFDM は干渉に対して優れた耐性を持つ。
シングルキャリア・システムでは、単一のフェージングや干渉によって通信リンク全体に障害が発生する可能性があるが、マルチキャリア COFDM システムでは、ごく一部のサブキャリアのみが干渉されるが、誤り訂正符号で訂正できる。低水準のビットエラー率を保証する。
- FPVドローンは特注品
FPVドローン 出典 OBS
スポーツ中継に使用されるFPVドローンは特注品で、プロペラを上部ではなく下部に搭載した逆ブレード設計により、空気力学的効率が向上して、よりスムーズな飛行曲線を実現させる。これは、急な下り坂やタイトなターンで選手を追跡する際に特に重要になる。バッテリーは迅速な交換が可能な設計で、通常、選手2回分の走行で交換が必要になる。機体重量を軽減させるために可能な限り小型のバッテリーを搭載させた。
出典 IOC
- AI技術が本格デビュー ミラノ・コルティナ
ストロボ・スコープ画像 モーション・スライス撮影 出典 Olympicscom
FPVドローン中継だけでなく、ミラノ・コルティナ大会では、視聴者は、強化されたオン・スクリーン分析などAIを活用した新しい映像機能の恩恵を受ける。これは、以前のオリンピックから飛躍的に進歩した技術である。
映画「マトリックス」で使用された次世代360°リプレイシステム(360° replay systems)は、ビデオをリアルタイムで瞬時に変換し、スローモーション(slow motion)のラップ・アラウンド映像(wrap-around footage)を作成し、競技の決定的な瞬間をあらゆる角度から分析できる。AIが生成するストロボ・スコープ(Stroboscope : 連続写真)分析は、高速の動きを個々のフレームに分解し、画面上のグラフィックはアルペンスキーやボブスレー、リュージュの滑降ラインなどを瞬時に追跡する。フィギュアスケートでは、オンエアのグラフィックでジャンプの高さ、滞空時間、速度など、即座に得られるパフォーマンスデータが計測されて同時に表示される。テレビの視聴者は、競技場の観客よりも多くの詳細な情報を得ることができ、より迫力のあるアクションを体験できる。
- 壮大なアルプスの景色は、ショーの主役を奪う
出典 OBS
ダイナミックなFPV撮影に加え、風景やトランジション・シーン(映像移行シーン)の撮影には、最大10機の従来型ホバリング・ドローンも不可欠である。ホバリング・ドローンは、スロープスタイル・コースの広大な雰囲気や、アルプスの雄大な景色を捉えることができる。一方FPVは、アスリートのアクションにダイレクトに飛び込んで映像を捉える。これら2つは互いに補完し合い、一方が背景を提供し、もう一方が没入感を高める。
OBSの担当者は、「ステルヴィオ、トファーネ、アンテルセルヴァといった多くの競技会場は、それぞれの競技において象徴的で、神聖な存在と言えるほどで、何世代にもわたるチャンピオンを輩出してきた」と指摘し、「そして、会場そのものも重要。活気に満ちた国際的なエネルギーに満ちたミラノの中心都市から、コルティーナ、ボルミオ、リヴィーニョ、プレダッツォ、テゼーロといったアルプス山脈の町々まで、それぞれが豊かな個性と歴史を持っているが、OBSの役割は、これらすべてを中継に織り込み、視聴者がどこから視聴していても、その体験に没入感を感じてもらえるようにすることである。それがオリンピックの魔法であり、私たちが常に目指していることである。」
従来のヘリコプターによる空撮映像にFPVドローンを統合することで、オリンピック放送の新たなステージが始まる。アスリートたちのパーフォーマンスへのかつてない没入感を生み出し、ストーリー・テリングが可能になり、視聴体験をよりダイナミックで魅力的なものへと変貌させる。
冬季オリンピックはエキサイティングなイベントだが、息を呑むほど美しいコルティナ・ダンペッツォ(Cortina d'Ampezzo)とイタリア・ドロミテ山脈(Dolomite Mountains)の雄大な景色も、その壮大さを一層引き立てる。
FPVドローン映像は、これらの景色を鮮やかに再現する。例えば、女子スーパー大回転(Super Giant Slalom)などのダウンヒル競技のコースの頂上にある、切り立った岩壁の間にあるこのコースを象徴する急勾配のシュート(chute)、トファーナ・シュッス(Tofana Schuss)を滑空するシーンの映像などだ。
オリンピックのたびに、アスリートたちは過去の偉業を凌駕しようと奮闘する。こうしたアスリートの姿を、OBSはドローン映像とAI分析を駆使して、これまでにない高度のイノベーションと没入感をもたらすための、数多くの取り組みを実施したが、ドローン中継はその象徴のツールとなった。
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