
IBC Transmission Room Paris2024 出典 OBS
- International Transmission and Delivery
- テレビ、ラジオ、デジタル・プラットフォーム、ソーシャルメディアなどのライツホルダー(MRHs)が大会開催都市から自国の放送オペレーション拠点に、映像・音声信号を送信するツールは、光回線(SDI/IP)、衛星、クラウド、インターネットなどである。
かつては、衛星送信が主流だったが、高速・大容量の光ファイバー網が世界各地に普及するとともに、光回線が主力になった。NBCユニバーサルやBBC、ZDF/ARD、フランスTV、CMG(中国)などの大手の放送機関や日本のNHK/民放系列局は、専用光回線をブッキングしてオペレーションを行う。衛星送信はバックアップ回線として使用されることが多くなった。
東京五輪2020から、OBSは“OBS Could”サービスを開始し、クラウドを利用したライブ配信に乗り出した。以後、北京冬季五輪2022、Paris2024とクラウド・ライブ配信が主力になりつつある。
一方、デジタル・プラットフォーム、ソーシャルメディアは、自営の専用IP回線を利用したり、データ容量が軽い場合はインターネット公衆回線を利用するなどで対応する - Sattelite Transmission MDS(Multi-Distribution-Service)
Sattelite Farm 出典 Paris2024
- OBSは、世界中の4つの衛星を利用して、Multi-Channel Distribution Service(MDS)を構築している。
世界5カ所程度に設置されたPoint-of-Presence(PoP)でMRHsはMDSと通して国際映像・音声信号を受け取ることができる。PoPからそれぞれのMRHsの放送オペレーション拠点までは、MRHsが調達する専用光回線を利用して伝送する。
PoPのロケーションは大会ごとに変わる。
Paris2024では、Paris1/Paris2、Frankfurt、Miami、Tokyoの5カ所に設置した。ネットワークの処理速度は100Gbps、処理容量は4.2Tbps以上としている。
PoPステーションの中から回線環境の良好な2か所を選び、International Access Networkのポイントを設営する。
MRHsは自営で衛星伝送の送受信設備を設置して、通信衛星を利用して自国の放送局に伝送することも可能で、かつてはこの方式が主流だった。
国際衛星伝送は、機材の設営が大がかりで、回線料も高額なので、光回線に取って代わられ、最近はほとんど使用されなくなった。
一方、国内の伝送では、テレビ局はSNG (Satellite News Gathering)送受信システムを保有しているので、SNG伝送を行うことも多い。光回線のバックアップとしても利用されている。
- OBSは、世界中の4つの衛星を利用して、Multi-Channel Distribution Service(MDS)を構築している。
- MDS(Multi-Distribution-Service) 五輪配信の主力コンテンツ
Multi-Distribution-Service 出典 Paris2024
- マルチ・チャンネル配信サービス(MDS Multi-Distribution-Service)は、競技や開会式・閉会式などのセレモニー、イベントを、英語のコメントやグラフックスが入っている「完プロ」コンテンツでライブ配信するサービスで、13チャンネルが配信(12×Sorts Channel,1×Olympic News Channel)されている。 フルターンキー・サービス(Full Turnkey Service)のMDSは、放送機関やデジタル・プラットフォームなどのライツホルダー(MRHs)がそのまま放送やサービスに使用可能(Ready-to-Air)なコンテンツである。競技会場のウオームアップ・エリアのアスリートの様子(behind-the-scenes)やミックス・ゾーンの選手インタビューも含まれる。 MRHsは、開催都市のIBCに機材や要員を派遣しなくても自国の放送拠点で五輪放送オペレーションが可能になる。 MDS は4つの衛星配信を使用して、アジアや欧州・中東・アフリカ地域(EMEA)に向けて、暗号化(encrypt)された信号で配信され、60の国・地域で、240カ所程度のMRHSダウンリンク・ポイントが設けられている。 MHRsがMDSを利用するためには、OBSへのSubscriptionが必要。 東京五輪2020からはOBS Cloudでもサービスされるようになった。MDSは、費用対効果が高く、MRHsの放送オペレーション・スタイルを一変させた。MRHsは開催都市に派遣する機材や要員を最小限に抑えて、自局で放送オペレーションを行うことが可能になる。MDSを利用したMRHsはParis2024では70余りに達した。経費がかかる現地派遣が抑えられて多額の経費が節約可能になるMDSは中小規模の放送機関やデジタル・プラットフォームなどのMRHsに歓迎されている。
- Content+
- Content+は、OBS Cloud上でサービスするOBSの主力コンテンツ・デジタル配信プラットフォームである。RHBsは、大会期間中に制作された全ての映像や音声コンテンツにアクセスできる。
Paris2024では、OBSはすべてのコンテンツをOBS CloudでMRHsにサービスすることを開始した。競技やセレモニー、イベントのライブ中継や選手のインタビューや会見、選手のウオームアップ・エリアなどの舞台裏素材(bihind-the-scenes)、独自制作ショート・ストリー・クリップ、ソーシャルメディア用素材、MCF Feedなどで構成され、デジタル・プラットフォームを重視したサービスである。Paris2024では約17,000本の素材が配信された
この内、Content+の中核となっているショート・ストリーでは、Paris2024では9000本をサービス。配信はすべてOBS Cloudで行われた。
映像コンテンツは、放送、デジタル・プラットフォーム、ソーシャル・メディアなど多様なMRHsのニーズに応じて、3 つの異なる解像度(4KUHD/HD/デジタル)で、IP/SDIの双方のフォーマットでサービスする。50/59.94の方式変換もサポートする。Paris2024では初めて4KUHD でもContent+を配信した。オーディオ・パッケージも配信される。
デジタル・プラットフォームやソーシャル・メディアに対しては、ダウンロード際に、データ容量が軽いインターネット・プロトコの映像、スマホ向けの縦長映像などもサービスされる。
MHRsは、ライブ中継コンテンツについては、低解像度ファイルをほぼリアルタイムで参照しながら、競技やセレモニーの本線コンテンツを取得できるようになった。
MHRsはコンテンツの一部をマークして、ライブ中継を継続中にも、ポストプロダクションのニーズに合わせて必要な素材をダウンロードすることが可能、ハイライト・コンテンツの制作が瞬時に可能になる。
Content+を利用するには、MHRsはOBS へのSubscriptionが必要となる
Paris2024では世界中の17 の RHBs と4つの通信社が、Web ベースのインターフェイスを通じてこれらのクリップをダウンロードするフル・サービスに加入した。この内、2つのRHBsは、4KUHD/HDRの配信サービスを利用した。
Content+は、MRHsのリモート制作ワークフローの効率化にメリットが大きく、Content+の配信を利用することで、MRHsの負担軽減につなげることが可能になる。 - Olympics Channel News(OCN)
- IOCがRio2016大会後に立ち上げた24時間サービスされる“ready-to-air”コンテンツのOTTサービス。OBSが制作するアスリートなどの特集企画コンテンツ、関連ニュース、競技のハイライト、過去の大会のアーカイブ映像、五輪以外の国際大会のライブ中継などを提供する。
OBS Cloudで160超の国と地域に配信する。視聴者はPC,タブレット、スマホなどで直接、視聴可能で、Youtube、X、Insragramなどでもサービスされる。スマホ世代の若者にターゲッツを合わせたコンテンツ編成を行う。11の言語のナレーション・字幕付きの「完プロ」サービスで、マドリードのOBS本部内の拠点でリモート制作される。
MDSでも配信されるので、MRHsはそれぞれのニュース・番組やインターネット・サービスで使用することも可能。
ナチュラルサウンドの音声トラックもあり、11の言語以外の国・地域では、自国の言語でのリメークが可能。英語以外のインタビューは英語の通訳が付くが、オリジナル音声の利用も可能。すべてのインタビューにはスクリプトが付く。グラフィックスはOBSグラフィックを使用している。
コンテンツとコンテンツの間の“dead air”はなくRHBsは連続してサービスに利用できる。60分のコンテンツの場合、15分、30分、45分、59分4回、コマーシャル挿入用のタイミングがある。
・OCN Headline
毎日12時から23時まで、毎正時に5分間のハイライト・ニュースをサービスする。“ready-to-air”コンテンツ。
・OCN Head Line
毎日、サービスされる1時間の競技ハイライトとインタビューのコンテンツ。
・OCN Features
競技の“Behinde the Scenes”や競技場のプロフィール、歴史的映像、アスリートのB-rollコンテンツなどで構成する2~3分のコンテンツ
・OCN Mixed Zone Interview
協議終了後にMixed Zoneを通過するすべてのアスリートやコーチ、監督のインタビュー。インタビューに答える人が英語の場合は英語でサービス、英語以外なら、英語の現場通訳付きでサービス。
・Spors Clip Highlight
OBSが制作するハイライト・クリップ。約1時間30分のコンテンツで、OBSグラフィック入りの“Deirty”コンテンツ。ナレーションやスクリプトはない。
- MCF(Multi-Clip-Feed)
Multi-Clip-Feed 出典 Paris2024
- 多様な映像素材を配信するMCF(Multi-Clip-Feed)も充実させて各放送機関のリモート・プロダクション体制を支援する。スロー映像素材、別線カメラ素材、b-roll素材(補足映像、風景、資料映像)などやBehind the scenes素材(選手団の競技場到着、ウオームアップエリア、監督・コーチ・選手のリアクション、観客や競技場の雰囲気等)、Mix Zoneインタビュー素材、ビューティカメラ素材、会見素材などをライブ配信する。中継番組やニュースで使用される放送機関向けの「素材フィード」である。VandA+Package で、4つの衛星配信(MDS)とOBS Cloudでサービスされる。
- OBS Olympic Video Player (OVP)
- オリンピックビデオプレーヤー(OVP)は、デジタルプラットフォーム、Websites、Social Media向けの高度なマルチプラットフォームビデオプレーヤー。中小規模のMRHs向けのフルターンキー・サービス。ライブ・ストリーミングとVODで、OBS
Cloudで配信される。
Paris2024で初めて4KUHDライブストリーミングを実施、すべての競技中継がUHD(4K)とHD画質でライブとオンデマンド配信が行われ、ハイライト素材もサービスされる。Rio 2016初めてサービスを開始された。 OVPはMRHsがコンテンツをそのまま放送に使用することも可能(Redy-to -Air)で、競技やセレモニー、イベントなどのライブ・セッションや、ハイライト、ショート・ストーリー・クリップがナレーショや解説付きでサービスされるフルターンキー・サービス(Full Turnkey)である。
またRHBsが自由にカスタマイズ可能なホワイトラベルソリューションの映像素材も提供し、360度VR素材も配信。 MRHsは独自のコンテンツや映像素材、ライブコメントなどを追加しオリジナル・コンテンツを制作してサービスすることも選択できる。
発展途上国などの中小規模の放送機関やデジタル・プラットフォームなどは、自社で配信サービスを受ける放送機器や要員を準備することが負担になっているが、こうした労力や経費が大幅に削減可能になる。
- Olympic Channel
- オリンピックチャンネル(Olympic Channel)は、OTTサービスのインターネットテレビ・チャンネルで、2016年8月、リオデジャネイロオリンピック閉幕にあわせて開局した。スローガンは“Where
The Games Never End”。
国際オリンピック委員会(IOC)のOlympic Channelウエッブサイドなどでインターネットを通じて視聴者に直接、提供される。
五輪大会期間中だけでなく、365日24時間のサービスで、12の言語バージョンがあるが、ナレーション音声は英語。
運営はスペイン・マドリードにあるIOCの関連企業、Olympic Channel Services S.L.。
Olympic Channelは、オリンピックへの若者の関心が薄らいできたことに危機感を抱いたIOCの改革案の一つとして誕生した。若者にオリンピックの魅力をアピールするに重点を置き、既存のメディアの放送が、比較的メジャーな競技のみに集中し、マイナーな競技が取り上げられないという現状への対策を目的としている。過去の大会映像、ドキュメンタリー等のオリジナル番組やオリンピック以外のスポーツイベントなども配信している。
Olympic Channelは、公式ウェブサイトやモバイルアプリでサービスされるほか、Amazon Fire TV、Android TV、Apple TV、Roku等でも配信されている。
世界の国と地域の放送局等と提携して、Olympic Channelをローカライズして地域版を立ち上げたり、各放送局の配信サービスにコンテンツを提供したりする場合もある。各放送局はローカライズするにあたって、いくつかのコンテンツは自国言語のナレーション(オリジナルは英語)を付けてサービスする。
・映像方式 HDTV (1080i 16:9)
・言語 英語、アラビア語、イタリア語、韓国語、スペイン語、ドイツ語、日本語、ヒンディー語、フランス語、ポルトガル語、ロシア語、中国語。
(ウエッブサイトの構成は12言語だが、ナレーションは英語)
- VandA Package
- VandA Packageは、OBS(オリンピック放送機構)がライツホルダー(MRHs Media Rights-Holders TV/Radio/Digital)に国際映像・音声信号(ITVR)を配信するコア・サービス。五輪大会期間中のすべての競技中継や開会式・閉会式などのセレモニー、イベントをライブでHD(3G)と4KUHD(12G)、IP(18Mbps/2.4Mbps)で配信する。さらに開催地の複数の場所に設置されるビューティ・カメラ映像、オリンピック・ニュース・チャンネル(OCN)、その他のスペシャル・フィードをサービスする。HDで82Feeds、4KUHDで81Feedsがサービスされた。(Paris2024)・HD VandA Package(SDI)(3G-SDI 50Hz/59.94Hz) HD VandA Package(IP)・UHD VandA Package(12G-SDI) UHD VandA Package(IP)・IP VandA Package(18Mbps/2.4Mbps) またVandA+Packageは、Mult Clips feeds(MCFs)をMRHsに配信する。 28Feeds、合計2350時間がサービスされた。(Paris2024) さらにVandA Flex Packageでは、MRHsがカスタマイズしたパッケージで配信サービスを受けることができる.
