パリ五輪2024 Paris2024 開催経費 89億ユーロ(約1兆5000億円) Tokyo2020を下回る 高額チケット批判殺到

“Games where everyone can participate”を掲げてパリ夏季五輪大会開催 開催経費は89億ユーロ(約1兆5000億円) Tokyo2020を下回る
セーヌ川開会式 出典 Paris2024
開会式聖火点灯  出典 IOC Media

 パリ五輪2024は、7月26日から8月11日まで開催され、32競技329種目が行われ、参加選手数はTokyo2020より約600人少ない1万500人に絞った。男女それぞれ5250人で、五輪史上初めて男女同数の大会となる。日本選手団は史上最高の409名、JOC(日本オリンピック委員会)は、金メダル20個、メダル総数55個を目指す。
 前回のTOKYO2020は、新型コロナのパンデミックの影響で無観客試合となったが、コロナも収束して、再び満員の観衆を前にして熱気を取り戻した五輪大会となる。大会期間中には約1500万人以上の観光客がパリを訪れ、チケットの販売枚数は史上最高の880万枚以上に達する。
 主要競技会場は、セーヌ川に沿って集中的に行われ、エッフェル塔やグランパレ、コンコルド広場、アンバリッド廃兵院などのパリを象徴する歴史的ランドマークが利用される。
 異色なのはサーフィン会場、タヒチのティーポオで開催され、史上初の海外開催となる。
 合計41(39)の競技会場が整備されるが、95%が既存または仮設施設利用する。新設はアクアスティックセンター(Aquatics Center/Sant-Denis 6000席 アーティスティックスイミング、飛び込み、水球)とスポーツクライミング( Le Bourget Climbing venue/Saint-Denis)の2競技場のみだ。
 オリンピック選手村は、パリ北部のサンドニに約20億ユーロ(約3200億円)を投じて建設された、約70%が民間資金で、公的資金は6億5000万(約1000億円)ユーロが投入された。
 大会期間中は約14000人の選手や関係者の宿泊施設となる。大会終了後は2220戸以上の一般市民用の住居と770戸以上の高齢者や学生向けの住居が設けられ、医療施設や学校も整備されて約6000人が暮らすニュータウンとなる。また約6000人が働くオフイススペースも整備される。

 開催経費は、インフレの影響で当初予算から約35%増加し、組織委員会予算で約44億ユーロ(約7400億円)、競技会場やインフラ整備を担当するオリンピック施設庁(SOLIDEO)予算で約45億ユーロ(約7600億円)、合計89億ユーロ(約1兆5000億円)程度とされている。
 ちなみにTokyo2020では組織委員会経費が7210億円、国や東京都が9230億円、計1兆6440億円(V5 2021年12月)、当時の為替レートで換算すると約126億ユーロで、Paris2024は史上最高額となったTokyo2020を大幅に下回ることになる。
Paris2024の最大の課題は警備体制、テロの脅威から大会開催をどう守るか
出典 Inside the Games
 Paris2024の最大の課題は警備体制、テロの脅威から大会開催をどう守るかである。
 フランスは、毎日、約4万5000人のフランス警察と治安部隊、2万~3万3000人の民間警備員、約1万5000人の軍隊を動員する。欧州各国や中東カタール、韓国などの約40カ国から1750人の国際警備要員も派遣される。セーヌ川沿いの建物の屋上には治安部隊のスナイパー、爆弾処理班、戦闘ダイバーも配置される。
 最大で7万5000人の警備要員が動員され、平時の治安警備としてはフランスの歴史上最大規模となる。
 警備経費の膨張も悩みの種で、3 億 2,000 万ユーロ (約450億円)に増加したが、ウクライナ戦争の泥沼化に伴う治安情勢の悪化で、さらに増額する可能性が大きい。
 一方、フランスの国内情報機関DGSIも警察や治安部隊を支援するために、特別なオリンピック情報センターを設立し、総力戦でテロ対策にあたる。
 テロの脅威からParis2024をどう守るか、フランス警備当局に最大の試練が待ち構えている。
追加競技は、ブレイクダンスが初採用
 開催都市が選べる追加競技は、ブレイクダンスが初採用された。スケートボード、スポーツクライミング、サーフィンはTokyo2020に続いて採用したが、野球・ソフトボールと空手は実施しない。若い世代の重視を強調した戦略だ。
出典 Paris2024
Paris2024の最大のハイライト、史上初のセーヌ川(River Seine)開会式
Paris2024の最大のハイライト、史上初のセーヌ川開会式 出典 Paris2024
 Paris2024の最大のハイライトは、史上初のセーヌ川(River Seine)で開催される開会式、206 の国と地域の選手や関係者、6000から7000人を乗せた85隻(当初計画は160隻)以上のボートが、セーヌ川を約6km(4マイル)を約40分間かけて航行、ルートにあるパリのランドマーク、ノートルダム寺院、ルーブル美術館、オルセー美術館、ポンヌフ(パリ最古の橋)、コンコルド広場、グラン パレ、エッフェル塔を通過する史上、最も華やかな開会式になる。 当初計画では「開かれた大会」を目指して、空前の60 万人以上の観客動員を計画したが、警備の難しさから32万6000人程度に半減された。
 パレードの出発地点のオステルリッツ橋(Pont d'Austerlitz)から最終地点のエッフル塔前のイエナ橋(Pont d'Iena)の間の川岸下部エリアはチケットの購入が必要な10万4000席の有料席、川岸上部エリアは組織委員会の招待者専用無料席、22万2000席が設置される。当初計画にあった市民が自由に出入り可能な席は無くなった。
 セーヌ川沿いには観客のためにルートに沿って 80 の巨大なスクリーンが設けられる。セーヌ川沿いの住宅やビルなどがからチケットを持たない20万人が観戦すると見ている。
 開会式の芸術監督はフランスの演出家トーマス・ジョリー氏が務める。パラリンピックの式典の芸術監督も担当する。詳細は明らかにされていないがフランスの多様な文化的景観を反映させて、伝統と現代の要素が融合したものになるという。
 式典の振付師モード・ル・プラデッ氏は、パレードルート沿いのすべての橋に登場させ、音楽とダンスで選手団を歓迎すると発表。式典には合計3,000人のアーティストが参加するが、そのうち400人を動員する。 全員がダフネ・ビュルキがデザインしたユニークな衣装を身にまとうという。
 フランスのテレビ司会者で衣装監督のビュルキは、ドレスメーカー、ヘアスタイリスト、メイクアップアーティストのチームを監督する。持続可能性への取り組み、新しいデザインに加えてヴィンテージやリサイクル素材を使用する。世界のファッション界をリードするフランス、どんなコスチュームで登場させるのか注目だ。
 セーヌ川のパレードに引き続き、エッフェル塔の向かいにあるトロカデロ広場(Trocadéro square)では120人の海外首脳や政府関係者が参列して式典が行われる。
 またコンコルド広場(Concorde square)や市内各所にはイベント広場が設置され、パリ市内は五輪一色に染まる。
 Paris2024のエスタンゲ会長は、「オリンピック史上最も壮観でアクセスしやすいセレモニー」になるだろうと語った。まさに世界に冠たる観光都市、パリを前面に押し出した大会となる。
コンコルド広場の開会式イベント  出典 Paris2024
唯一新設したアリーナ、オリンピック・アクアスティック・センター(Aquatics Center/Sant-Denis 6000席) 出典 Paris2024

パリの代表的な歴史遺産 グランパレ(Grand Palais) 1990年パリ万博会場として建設 4億6600ユーロ(約760億円)をかけて大改修 フェンシングとテコンドーの競技会場 出典 Paris2024  

シャネルが2500万ユーロの協賛金を改修費用に拠出  出典 Chanel

異例の展開 2024夏季大会招致
マクロン仏大統領とバッハIOC会長  出典 IOC Media
 Paris2024が決まったのは、極めて異例の展開の中で行われた。
 2024年夏季五輪大会に最終的に立候補したのは、ブダペスト、ローマ、ロサンゼルス、パリの4都市だった。パリは1924年パリ五輪から100周年の節目の年の開催を目指した。
しかし、暴騰する開催経費の懸念や住民の反対運動などでブダペスト、ローマが相次いで撤退し、結局残ったのはロサンゼルス、パリの二都市となってしまった。
 国際オリンピック委員会(IOC)は、住民の理解が得られず五輪大会の開催地に手を挙げる都市がいなくなることに危機感を抱き、立候補したパリとロサンゼルスを24年と28年の2大会の開催都市に振り分ける異例の同時決定を行った。
 IOCはどちらの都市が先に開催するかは、二つの都市で話し合うことを求め、その結果、「100周年」を掲げるパリが24年、ロサンゼルスが28年開催で決着した。
 IOCのしたたかな戦略が浮かび上がる。
仏総選挙は左派連合が最大勢力に、マクロン大統領の与党連合は大敗第二党 極右第3勢力に後退 連立の行方混迷か
マクロン仏大統領 Paris2024の開会式、7月27日前に仏政局は大混乱 出典 France24
 7日に決選投票が実施されたフランス国民議会(下院、定数577)の総選挙で、野党の左派連合が最大勢力に躍進した。マクロン大統領率いる与党連合との候補者調整が奏功し、議会第1勢力の座が有力視された右翼「国民連合(RN)」を土壇場で失速させた。いずれの党も過半数に届かず、政局の混迷が長期化する恐れが強まっている。
 総選挙は、6月上旬の欧州議会選で与党連合がRNに大敗を喫したことを受け、マクロン氏が下院を解散し、実施された。内務省の確定結果と仏紙ルモンドの集計によると、左派の政党連合「新人民戦線(NFP)」は最大勢力となる182議席を獲得。与党連合は168議席で、解散前の250議席から大幅に減らした。一方、一時は単独過半数をうかがう勢いと伝えられたRNと右派の共闘勢力は143議席にとどまった。
 窮地に立たされたマクロン大統領は、極右と極左を除いた幅広い連立を目指すとしている。Paris2024開幕まで50日を切った。
出典 Paris2024
高額批判殺到 Paris2024のチケット
 Paris2024組織委員会は、1350万枚(約1000万枚は一般市民に売り出し)のチケット販売で約12億7000万ユーロ(約2100億円)(ホスピタリティパッケージを含む)の収入を得ることを想定、これは組織委員会予算の約44億ユーロ(約7260億円)の約3分の1に相当する。組織委員会の予算を黒字にするためには、スポンサー収入(12億2600万ユーロ)と並んでチケット収入の確保は必須となっている。その結果、2012ロンドン大会や東京2020を上回り過去最高の高額チケットになったと批判が集まっている。
 Paris2024では"Games Wide Open" を掲げて多くの市民にオリンピック競技を観戦してもらいたいとしてチケットの価格設定をしたとしている。
 この象徴として100万枚のチケットが24ユーロ(約4000円)で提供される。しかし約半数は国が買い上げて地域社会に割り当てられ、一般市民向けに販売されるのは約半分にとどまる。一般市民向けの販売されるチケットのほぼ半分は50ユーロ(約8250円)になるとした。
 組織委員会のエスタンゲ会長は、「大規模なコンサートを見に行くと、チケットは数百ユーロかかる。遊園地に行ってもほぼ同じだ」とし、「オリンピックは100年に一度。地球上で最も偉大なチャンピオンであり、価値がある」と述べた。
 またエスタンゲ氏は、セーリング、7人制ラグビー、ゴルフ、フットボールのチケットはまだ24ユーロで、あらゆるスポーツで24ユーロのチケットが100万枚あるとした。そしてパリ2024大会は第1段階で販売されたチケットの平均コストが74ユーロ(約1万2210円)で、チケットの50%、500万枚のチケットは50ユーロ(約8250円)以下だと、「2012年のロンドンよりも『高くはない』」と語った。
 チケットの販売は158の国と地域で行われ、3分の2はフランス国内である。

 セーヌ川開会式の座席の価格は90ユーロ(約1万4850円)から2,700ユーロ(約17万5500円)。開会式のチケットは合計7万枚が販売される。
 VIP スタンドの価格はフロアで 5,500 ユーロ (約90万円) 以上、最高価格はクルーズ船からセーヌ川のスポーツ代表団を間近で見ることができるプレミアムシートで25000ユーロ(約375万円)。

 2023年3月、仏メディアが実施した世論調査では、フランス人の82%がパリ2024年のチケットは高すぎるとし、79%が発券プロセスが煩雑すぎると考えていることが明らかになった。
 批判が集まっているのは980ユーロ(約16万1700円)で販売された陸上競技のチケットである。
 世界陸連のセバスチャン・コー会長は、Paris2024noチケットは「高価」であるとし、「私たちのスタジアムがオリンピックに参加する余裕のある人だけでなく、私たちのスポーツを愛する人々で満たされることが重要だ」述べた。選手の家族が来年の五輪でキャリア最高の瞬間を逃すのではないかと懸念していると述べた。
 その一方で、「たとえチケット代が高価であっても、スタジアムを満員にするために全力を尽くすのが私の責任だ。Paris2024が国際競技連盟にとってもファンにとっても最も費用がかかる大会になることを受け入れなければならない」と弁護した。
出典 Paris2024
 第1段階の売り出しは、2023年2月23日~3月11日まで、300万枚が発売された。
 チケットの購入申請者は、同時に 3 つのイベントの入場券を購入することが義務付けられた。第1段階で325万枚のチケットパッケージを販売を達成、これは目標数字を25万枚上回った。
 チケットの価格は、格安の24ユーロ(約4000円)が13%、100ユーロ(約1万6500円)未満が70%、200ユーロ(約3万3000円)未満は4.5%で、数百万枚が50ユーロ(約8250円)程度だった。
チケット売り出しプロセス 出典 Paris2024
 第2段階は5月11日に開始、全スポーツの150万枚のシングルチケットと開会式と閉会式を発売した。約10%が15万枚を24ユーロで販売し、200ユーロ(3万3000円)以上のチケットが10パーセントある。第一段階と第二段階で、発売される1000万枚のチケットの内、約半分が販売されることになる。
 ブレイキング、スケートボード、BMXの決勝戦のチケットは50ユーロ(約8250円)、手に入る。バスケットボールの決勝戦では、 95 ユーロ(約1万6000円)陸上競技では、最高料金が980ユーロ(約16万円)の3つのセッションがあり、特別な夜の陸上競技は125ユーロ(約20万円)である。
 セーヌ川開会式の座席の価格は90ユーロ(約1万4850円)から2,700ユーロ(約17万5500円)、スタッド・ド・フランスでの閉会式は250ユーロ。
 第3段階は2023年11月30日に開始、パリ地域のイベントの37万枚以上を含む40万枚のチケットが発売された。これまでに約1000万枚の内、約720万枚が売れている。
 発売されたチケットは、サーフィンを除く全種目で、1/3 は 50 ユーロ以下、ほぼ 2/3 は 100 ユーロ未満の価格である。
  40 万枚のチケットのうち約3万枚が陸上競技、2万4千枚がテニスである。
 組織委員会はパラリンピックのチケット280万枚の販売する計画だと発表した。
出典 Paris2024
 最終段階の売り出しは2024年4月に開始、25万枚を売り出した。半数以上が100ユーロ未満で、その中に24ユーロのチケットが約2万枚含まれる。
・ベルサイユ宮殿の庭園で行われる馬術イベントは9000枚、24 ユーロから 420 ユーロ
・アクアスティック・センターの水泳は 15万000枚、価格は 24 ユーロから 980 ユーロ
・ベルシー アリーナの体操競技は 1万枚、24 ユーロから 690 ユーロ
・エッフェル塔スタジアムでのビーチバレーボールは3万5000枚、24ユーロから420ユーロ
・ローランギャロスでのテニスは 1万2000枚、24 ユーロから 420 ユーロ
・グラン・パレの柔道は2000枚、24ユーロから380ユーロ
・ サンカンタンアンイブリーヌ競輪場のトラックサイクリングは2000枚、24ユーロから380ユーロ
・パリ南アリーナ(ポルト・ド・ベルサイユ)の卓球は 1万2000枚、 24 ユーロから 280 ユーロ
・セーヌ川での開会式は90ユーロ、スタッド・ド・フランスでの閉会式は250ユーロ

 物価高騰で開催経費が増加し、収支のバランスを維持するのに苦戦するParis2024、チケット収入をあてにせざるを得ない中で、高額チケットの批判の市民の反発は頭が痛い深刻な問題である。根源的な問題は毎回、肥大化するオリンピック大会、スリム化に舵を切らなければ解決策は見当たらない。Paris2024では史上最高の870万枚のチケットが売り出された。
Paris2024開催経費 経費減で仏に財政「痛手なし?」格付け会社が予測
 米格付け会社S&Pグローバル・レーティングが公表した報告書で、Paris2024はフランス財政に長期的な痛手を及ぼす可能性は低いとの予測を示した。Paris2024は競技会場の95%は既存施設か仮設を使い、車両削減で輸送の費用を抑えるなど国際オリンピック委員会(IOC)が定める五輪改革の新指針に沿ってコスト減に努力した。
 Paris2024の開催経費は約90億ユーロ(約1兆4700億円)。2020東京大会は、大会終了時の為替レート(1ユーロ=約130円 2021年8月)では、総額約100億ユーロ(1兆3500億円 V4[2019年12月 1年延期前の見込み額)として、2020東京大会は下回る見通しとしている。
 IOCによるとパリ大会ではチケットやテレビ放送権、広告の収入が約42億ユーロの見込みで、運営費用の96%を賄えるという。観光客のホテルやレストラン利用などによる税収増も予想され、開催経費をまかなうことになる。
 開催経費は、世界的なインフレの影響を受けて。インフラ費用の予算は当初の計画に比べて37%増え、運営予算も2019年の予測より15%膨れ上がった。
出典 Paris2024