平昌冬季五輪は“5Gオリンピック” 韓国の戦略 ICT”五輪で先を越された東京五輪

平昌冬季五輪は“5Gオリンピック” 韓国の戦略 ICT”五輪で先を越された東京五輪
出典 PyeongChang2018 5G White Paper
 開会式で握手を交わした韓国の文在寅南大統領と北朝鮮の高官代表団、南北北統一旗を掲げて入場行進を行った合同選手団、話題を独占した女性応援団、韓国と北朝鮮の融和ムードは平昌冬季五輪の象徴となった。一方、ドーピング問題も大会に影を落とした。ロシア・オリンピック委員会は、組織ぐるみのドーピング違反で五輪から締め出され、ロシアの選手は「ロシアからの五輪選手(OAR)として参加したが、国旗や国歌の使用は認められなかった。そして、日本選手団は冬季五輪では過去最高の13個のメダルを獲得して大活躍、様々な話題と感動を残して、平昌冬季五輪は、2月25日に閉幕した。
 日本国内での五輪中継番組の視聴率は、メダルラッシュに沸いて、フィギア・スケートの33%を最高に、カーリング、スキージャンプ、スピードスケート、ショートトラック、開会式などは軒並み20%を超えた。隣国韓国の開催で時差がなかったこともあり、事前の予想を覆し極めて好調だった。
 韓国は、平昌冬季五輪を開催するにあたって掲げたテーマは、“ICT五輪”、第五世代移動通信5G、超高繊細テレビUHD、モノ・インターネットIoT、人工知能AI、VR(Virtual Reality)の5つの分野で、世界最先端の“ICT五輪”を実現して、“Passion Connected”をスローガンに掲げ、世界各国にアピールする戦略である。
 “ICT五輪”は、2020東京五輪で、今、日本が総力を挙げて取り組んでいるキャッチフレーズだ。“ICT五輪”は、平昌冬季五輪に、先を越された感が否めない。
(上)2位の李相花を抱きしめる小平奈緒選手 (下)南北合同女子ホッケーチーム
出典 POCOG2018
“ICT Olympic”を掲げた平昌冬季五輪(KT Pavilion)  出典 KT

5G移動通信に挑んだ平昌冬季五輪
 韓国テレコム(Korea Telecom)は、国際オリンピック委員会(IOC)と第五世代5G移動通信ネットワークを平昌平昌冬季五輪で構築し、競技中継で利用するとともに、大会関係者や観客にサービスすることで合意した。
 世界で初めて5G通信ネットワークのサービスが平昌冬季五輪を舞台に実現したのである。
 五輪競技中継では、5G移動通信の登場で、ボブスレーのソリからの高画質映像のライブ・サービスが実現した。
 平昌のアルペンジア・スライディング・センターにあるボブスレー競技場では、5G移動通信ネットワークが整備され、時速140キロの高速でコースを滑降するソリ(Sled)の先端に4K POV(Point of View)カメラを取り付けて高画質の映像を撮影し、“遅延ゼロ”の超高速で送信し、臨場感あふれた迫力のある映像サービスに初めて挑む。
 但し、伝送はHD画質に留まるとしている。
コースを滑走するボブスレー PyeongChang2018 POCOG
ボブスレーのスレッド(そり)に取り付けられた4K POVカメラで撮影された映像  出典 Olympic Channel IOC
⇒Exclusive 4K POV Bobsleigh run Olympics Channel IOC
Olympics Channel/Youtube

 5G移動通信サービスは、アイスアリーナやスピードスケート競技場、ホッケー競技場、オリンピック・スタジアムのある江陵オリンピック・パーク(Gangneung Olympic Park)やソウルの光化門広場(Gwanghwamun)エリアでも構築され、大会関係者や観客、ソウル市民に対象に、ギガビットで低遅延の5Gでライブ・ストリーミング映像にアクセスできるようにした。世界に先駆けて5Gサービスが実用化されたのである。
韓国は、“5G”が平昌冬季五輪のレガシーにするとして、世界各国に強力にアピールしている。
第五世代移動通信5G
 5Gは、高画質の映像など大量のデータを、低遅延(low latency)、超高速度で送信することができる次世代の無線通信技術だ。
 現在使用されている第4世代移動通信、4Gと比較して、1000倍のデータ通信量、10Gbpsという100倍の通信速度、ほとんど“ゼロ”に近い低遅延、100倍の同時接続の性能が実現される。AIロボット、自動走行自動車、ビックデータ、UHDなどの高画質映像、IoT機器の爆発的増大などで、移動通信の通信量は飛躍的に増えるとされている中で、5Gは次世代のICT社会の実現に必須のバックボーンである。日本を始めて、アメリカ、ユーロッパ各国、中国、韓国の企業がその開発競争に凌ぎを削っている。5Gの展開で世界の主導権を握れるかどうか、各国の“生き残り”がかかった競争である。
出典 情報通信審議会資料
出典 情報通信白書 総務省

五輪の舞台に登場したIntel 情報通信分野で主導権
 平昌冬季五輪で構築された5Gのプラットフォームやプロセッサー、コンピューター、それに5Gテクノロジー、FlexRANは、アメリカのIT企業、Intelが全面的に提供した。クラウドサービスの運営に使用されるサーバーもIntelが準備した。
 Intelと提携した韓国テレコム(Korea Telecom)は、韓国で最大の通信企業、光ファーバー網や移動通信ネットワークを構築した。
 Samsungもこの陣営に加わり、5G対応タブレットを開発、約1100台の試作機を製造して、競技場やパビリオンで5Gパワー体験サービスを行った。 
 平昌冬季五輪では、Intelが全面的に五輪大会に登場したのが注目される。
 Intelは、2018年平昌冬季五輪、2020東京五輪、2022年北京冬期五輪、2024年パリ五輪オリンピックのTOPスポンサーになり、五輪大会で通信関連機器やシステムを優先的にサービスする権利が認められている。
 TOPスポンサーとして初舞台となる平昌冬季五輪で、Intelは韓国テレコム(Korea Telecom)やサムスン電子(Samsung)と提携して、平昌冬季五輪を“5Gのショーケース”にするという戦略を立てて、全力を挙げて取り組んだのである。
5G Intel 出典 Intel
Intel at the 2018 Olympics: 5G Olympic Vision

サムスン電子(Samsung)が開発した5G対応タブレット  出典  Samsung

5Gネットワークで、新たな映像中継サービスを開始
 5G移動通信の構築で、新たな五輪中継映像サービスが登場した。
韓国テレコム(Korea Telecom)は、Intelと連携して、360度のVR(Virtual Reality)映像サービスを実現した。VR(Virtual Reality)は、視聴者があらゆるアングルから競技を楽しむことができる次世代の映像技術である。
 リオデジャネイロ五輪でもVRサービスは試験的に行われたが、平昌冬季五輪では、OBSは初めてVRコンテンツをホスト映像として世界のライツホルダーに配信した。
OBSが配信した360°VR映像サービス   出典 NHKピョンチャン2018 360°VR

 さらに新しい競技中継技術も登場した。
 マルチアングルの映像を任意の時間で選択して視聴できる、「タイムスライス」(time-sliced views of skaters in motion)、選択地点の疾走シーンが視聴可能な「オムニビュー」(OMNI VEIW)、高速で移動する選手や物体から高画質のUHD映像でライブ中継する"Sync View"と呼ばれる新たなサービスである。

 フィギアスケートとショートトラック競技が行われた江陵アイスアリーナには、100台の小型カメラが設置して、選手の動きをさまざま角度から撮影し、合成して連続して見せる新たな映像技術、「タイムスライス」(time-sliced views of skaters in motion)に挑んだ。
100台のカメラは、リンクの壁面に一定の間隔で設置され、動きの速い被写体の決定的なシーンを、アングルを動かしたい方向に順番に連続撮影していく。
 撮影された画像は、一枚一枚切り出して合成し、連続して見せる映像技術である。高速で移動する被写体の動きを、少しづつアングルを変えて、スローモーションのように見せるというインパクトあふれた映像表現が可能だ。映画「MATRIX」で、この映像テクノロジー(映画ではパレットタイムと呼ぶ)で撮影されたシーンが評判を呼び、新たな映像技術のとして注目されている。
ま た観客は、さまざまなアングルのカメラを選択し、自由に撮影時間を選んで、選手の動きを見ることができる。
 「オムニビュー」(OMNI VEIW)では、多数のカメラを配置し、さまざまなアングルやポイントからの映像を、視聴者が自由に選択して、リアルタイムで見ることができる。競技結果、順位、選手のプロフィールなど情報もサービスされる。
 クロスカントリーでは、全長3.75キロメートルのコースに、17台のカメラを設置し、撮影した選手の姿を5Gネットワークで伝送し、観客は自分の見たいポイントのカメラを選んで、疾走している選手の姿を見ることができる。
 バイアスロンなどでは、選手のユニフォームに装着したGPSセンサーの位置情報を5Gネットワークで送信し、観客はスマートフォンで選手の位置などをリアルタイムで確認できるサービスも行われた。
 視聴者は、見たい選手を自由に選択し、選手が今、どこにいるかがリアルタイムで確認しながら、ライブ・ストリーミングで走行シーンを楽しむことができる。
 「シンクビュー」(Sync View)では、POV(Point of View)カメラを、選手のヘルメットやユニフォーム、スレッド(ソリ)などに取り付けて、選手視点での競技をライブで中継する技術である。ボブスレーではソリの全面にPOVカメラや5G無線通信のモジュールとアンテナを設置して、高速で迫力ある映像をライブでサービスする。
 UHD(4K)などの高画質で撮影されライブで伝送する新しい映像サービスを支えているのが、超高速の5Gネットワークである。Samsungは5G対応のデモ機を開発して、タブレットPCを各競技場に約200台を配置し、新しい映像サービスの醍醐味を観客に楽しんでもらうサービスを展開している。

 またドローンや小型カメラで会場を撮影し、選手や大会関係者、群衆を、顔認証技術を使用して解析して、データをリアルタイムでオリンピックのセキュリティ・コントロール・センターに送信し、セキュリティ管理に使用することも可能だとしている。
アルペンジア・スライディングセンター クロスカントリー  出典 IOC
フィギアスケートでサービスされた「タイムスライス」(time-sliced views of skaters in motion) 出典 Olympic Channel/IOC
スノーボードでサービスされた「タイムスライス」 出典 Intel

5G移動通信ネットワークを整備した韓国テレコム(Korea Telecom)
 こうした5Gネットワークの設営のために、韓国テレコム(Korea Telecom)は、35,000本の光ファーバーを敷設し、250,000のデバイスを使用して、5,000 個所のアクセスポイントやデータセンターを設置して5G移動通信ネットワークを整備した。
 韓国の5GネットワークのプラットフォームはIntelが構築し、2016年2月に第一世代のプラットフォームが、6GHzとミリ波を使用して構築された。そして2017年、4x4 MIMOの第二世代のプラットフォームが整備された。
 そして、2018年平昌冬季五輪でIntelの第三世代のプラットフォームが登場した。
 新しいプラットフォームは、3GPPに基づいて、5G NR規格をサポートして構築され、IntelのゲートアレイのFGPA回路とCorei7をプロセッサーとして組み込んで構築された。
 5Gの使用周波数帯域は、3GPP NRとの相互運用性を図り、600-900MHzや3.3-4.2GHz、4.4-4.9GHz、5.1-5.9GHz, 28GHz、そして39GHzの帯域を使用してテストを繰り返した。
 そして最終的には、28GHzを使用し5G実用サービスを実施した。
 5G基地局の装置は、96素子(48素子×2)のMassive Mimoを設置し、帯域幅は800MHz(100MHz×8)を使用し、ピークデータレートは5GBpsだった。
平昌冬季五輪で使用したSamsung製の5G基地局(28GHZ)

 OBSの最高技責任者のStotieis Salamouris氏は、「第五世代5Gネットワークは“進化”ではなく“革命”だ。」とし、 「4Gネットワークでは、どうしても遅延が生じるが、5Gは遅延がほとんどゼロに近い。遅延が生じる原因は、モバイル端末などの通信ではなく、爆発的に増えているIoT(Internet of Things)や自家用車のインターネットで、今後もさらに激増し、4Gネットワークで処理できる処理量を超えることは明らかだ。これまでの映像伝送の技術は、何年にもわたって開発された独自仕様のシステムが混在していて、統合された伝送技術はない。これに対し、 5Gの機能はオープンで幅広く普及が可能だ。高画質の映像を“遅延ゼロ”で伝送できる5Gは、マラソンや自転車競技、ヨットなどの競技中継やヘリコプターやドローンを使用した空撮ライブ中継の伝送技術に最適だ。次世代の放送技術の要になるだろう」と話している。
韓国 5G周波数オークションで携帯電話事業者3社に3.5GHz/28GHz帯割当て決定
 2018年6月15日、韓国科学技術情報通信部は、2019年3月の5G商用サービス開始に向けて、携帯電話事業者に対し、5G周波数オークションを実施した。
 今回のオークションは、5Gで活用する二つの周波数帯(3.5GHzと28GHz)で実施し、世界初の「5G周波数オークション」として注目を浴びた。
 具体的な周波数範囲は3.5GHz帯が3420.0~3700.0 MHzの280MHz幅、28GHz帯が26500.0~28900.0 MHzの2400MHz幅、合計で2680MHz幅である。
 周波数の割当方法はオークションで、入札単位とブロック数は3.5GHz帯が1ブロックあたり10MHz幅で28ブロック、28GHz帯が1ブロックあたり100MHz幅で24ブロックである。
 1社あたり最大でそれぞれ10ブロックまで取得を認めており、3.5GHz帯が最大100MHz幅、28GHz帯が最大1000MHz幅まで取得できる。
 3.5GHz帯および28GHz帯ともに2018年12月1日より有効になり、有効期限は3.5GHz帯が2028年1月30日まで、28GHz帯が2023年1月30日までと設定されている。
 最低入札額合計は3.5GHz帯が2兆6,544億ウォン(約2,686億円)、28GHz帯が6,216億ウォン(約629億円)で、合計3兆2,760億ウォンとした。その結果、オークションの合計落札価格は3兆6,183億ウォンで決着した。

 3社の落札内容は、3.5GHz帯では、SKテレコムは100MHz幅で1兆2,185億ウォン(約1218億円)、KTは100MHz幅で9,680憶ウォン(約968億円)、LG U+は80MHz幅で8,095億ウォン(809億円)だった。
 28GHz帯では、SKテレコムは800MHz幅で2,073億ウォン(約207億円)、KTは800MHz幅で2,078憶ウォン(約207億円)、LG U+は800MHz幅、2,072億ウォン(約207億円)となった。
 
 今回のオークションでは1MHz幅当たりの最低落札価格はこれまでと比べて最も安く設定された。特にモバイルで初めて利用される高周波数帯の28GHz帯については、現時点では使い勝手も含めて不確実性が大きい点が考慮され、利用期間を5年と短く設定し、価格は大幅に引き下げた低い水準で設定された。
 3社の中で、SKテレコムは帯域幅の拡張ができる3.5GHz帯にこだわり、他社より高い応札価格で落札した。周波数は12月1日から利用が可能となる。キャリア3社は8月までに機器事業者を選定し、秋にはネットワーク構築に着手する
 一方、商用サービス開始で提供される5Gサービスの利活用についてはまだ具体的な内容があまり明らかになっていない。韓国では国を挙げて、「世界初」の低遅延・大容量・多数接続の5Gサービス開始を目指して総力を挙げている。



 
AI、5G、ドローンが支えた平昌冬季五輪開会式
 2月9日、江陵オリンピック・スタジアムで開催された平昌冬季五輪開会式は、韓国と北朝鮮の合同選手団の入場行進や、キムヨナの聖火点灯などで世界中の視聴者を沸かせた。
開会式の演出を手がけたヤン・ジョンウン監督は、メインプレスセンターで行われた「開閉会式メディアブリーフィング」で、「今回の開会式は一つの 『冬の物語』のように簡単に皆が共感できる平和の話を見せる」とし「5人の子供たちが時間旅行を通じて古代神話から出発し、人と自然が共に調和をなす場面を見て試練と苦痛を乗り越え、平和の未来へ向かう旅程を描く」と説明した。そして「開会式は人の価値に注目するが、先端技術も公演に組み合わせる」とし「人工知能(AI)と5G(5世代)技術、ドローンなどを活用したパフォーマンスを開会式公演で確認できるだろう」と胸を張った。
今や、開会式・閉会式は、AIや5Gなどの先端技術を駆使した演出が必須となってきた。平昌冬季五輪開会式 出典 PyeongChang2018 POCOG
平昌冬季五輪開会式 出典 PyeongChang2018 POCOG

1218台のドローンで開会式の夜空を飾ったIntel
 2月9日に開催された平昌冬季五輪の開会式、1218台のドローンが夜空に五輪マークを描く“ドローンショー”登場し、世界の人々の眼を引き付けた名場面となり、ギネスブックの世界新記録にも登録された。
しかし、結局、“ドローンショー”はライブでは展開できず、事前に収録した映像を使用するという事態となった。
平昌五輪スタジアムで行われた開会式の当日に、五輪組織委員会のサイバー攻撃を受けたのがその原因とされている。
韓国メディアなどの報道によると、開会式が始まる45分前の9日午後7時15分ごろから、組織委内部のインターネットやWi-Fi(ワイファイ)が数時間、ダウンするというトラブルに襲われた。 このため開会式では予定していた小型無人機(ドローン)を飛ばすことができず、事前に録画した映像を使用したという。
国際オリンピック委員会(IOC)の広報担当者は「ドローンを制御するロジスティックを直前で突然変更したため、ドローンを飛行させるとこができなかった」とドローンの飛行は中止したことを認めた。システム障害の原因は明らかにしなかったが、サイバー攻撃の影響を示唆した。

 この“ドローンショー”には、インテルの「クラウド・ドローン飛行技術」が使われた。ドローンの位置を上下左右センチメートル単位で把握して伝える位置測定技術と、各ドローンの間で情報を交わす通信技術が総動員され、Intelの卓越した技術力を誇示した。
使用された1218台のドローンは、“Shooting Star drones”と呼ぶIntelが開発した無人飛行体(unmanned aerial vehicle  UAV)で、重量は330グラム、6インチのローターを備えている。機体は、Intel Falcon 8+をベースに開発した。Falcon 8+の市価は、3万5000ドル(約385万円)ほどの高価格の最高機種だ。
 開会式で使用されたドローンは、エンタテインメントで使用するためにで開発された機種で、機体には40億色の色彩が表現可能なLEDライトが取り付けられ、夜空を背景に、LEDの光で、あらゆるアニメメーションを表現することができる。
 今回のオペレーションでは、1人のオペレータで、1台のコンピューターで1218台のドローンを制御するという。

 Intelは、2014年から多数のドローンを群集飛行させるプロジェクトを始め、2015年中国のドローン会社、ユニーク(Yuneec)に6000万ドル(約66億円 1ドル=110円)を投資し、2016年にはドイツの自動パイロットソフトウェア開発企業、アセンディングテクノロジーを買収した。インテルが半導体とは距離があるドローンに関心を持つのは、ドローンから派生するICT分野の成長の可能性に注目しているからだとされている。
  ドローン・クラウド飛行技術は山火事や地震などの自然災害、作物のモニタリング・管理などの農業の分野、建設工事や地図制作など幅広い分野に適用が可能だ。
ドローンの用途も配送・撮影・防犯・救助・測量などに拡大している。特に衛星利用測位システム(GPS)とセンサーを利用して正確な位置情報に基づいて、多くのドローンを同時に制御する技術は、自動運転自動車か交通管制システムにそのまま適用可能だ。
 Intelがドローン事業に力を入れているのは、ドローンのハードウェア事業に乗りだすのではなく、あくまでコンピューティング・ソリューションのための投資と分析されている。
Intelは、五輪という世界的なイベントでドローンやバーチャルリアリティ(VR)など先端技術力を誇示し、単にパソコンの半導体企業ではなく、総合情報技術(IT)企業というイメーへの脱皮を図っているのである。
PyeongChang2018の開会式の夜空飾るドローン・ショー 出典 ABC News
PyeongChang2018の開会式の夜空飾るドローン・ショー 出典 ABC News
Intel Experience the Team in Flight at PyeongChang 2018
Intel/Youtube
Shooting Star drones 出典 Intel HP

VRにも乗り出したIntel
 今回の五輪で注目されたIntelのもう一つの技術はVRを活用した各種スポーツ競技の「VRライブ中継」である。平昌冬季五輪では、Intelが開発した“Intel True VR”が導入され、双方向の360度全方位映像をライブでサービスした。VR小型カメラを競技場の随所に設置しさまざまなアングルからの競技を撮影して配信する。 視聴者は、競技場に行かなくても、臨場感あふれた観戦体験を得ることができる。
 平昌冬季五輪のホストブロードキャスター、OBSは、冬季五輪大会では初めて、このVRコンテンツをホスト映像としてライブで配信した。音声はナチュラルサウンドに実況キャスターのコメント(英語)を加えている。開会式・閉会式を始め、アルペンスキー(滑降・大回転)、ジャンプ、フリースタイル(モーグル)、スノーボード(ビックエア・ハーフパイプ・スロープスタイル)、クロスカントリー、スケルトン、リュージュ、フィギアスケート、ショート・トラック、アイスホッケー、カーリングなどの16競技、合計55時間を1日1競技以上をサービスした。
 NBCユニバーサルはNBC Sports VR appを立ち上げ、このVRコンテンツを全米の視聴者に配信した。
 NBC Sports VR appのVRコンテンツを視聴するには、Windows Mixed Reality headsets、Samsung Gear VR、 Google Cardboard、Google Daydream and compatible iOS or Android devicesが必要で、NBCユニバーサルのケーブルテレビか、衛星放送、IPTVの契約をしなければならない。あくまで、ケーブルテレビ、衛星放送、IPTVなどの付加サービスなのである。
 NBC Sports VR appでは、ライブストリームされたVRコンテンツを、1日間は再放送を行い、翌日以降は、それぞれの競技をハイライト・コンテンツに編集してサービスする。
 一方、NHKは、「ピョンチャン2018」のホームページで、360度VR映像を「360°ライブ」(ライブストリーミング)と「見逃しハイライト」(VOD)でサービスした。日本国内であれば誰でもが利用可能なフリーサービスである・
 VRサービスによって、視聴者は平昌のオリンピック・ワールドを自由に飛び回りながら、五輪競技場のバーチャル体験を楽しむことができるようになった。VR時代の幕開けを告げる平昌冬季五輪だといえるだろう。
Intel True VRカメラ
アルペンスキー競技場に設置されたIntel True VRカメラ

⇒Intel True VR at Olympic Winter Games PyeongChang 2018
Intel/Youtube

 Intelは、放送・コンテンツ分野にも乗り出して、VR専門会社、VOKE買収するなど積極的な姿勢をとり、2019年には米主要放送局と協力して、双方向全方位360度VR放送を実現させた。 Intelは「好みに合わせ視聴者が選択可能な映像技術の導入で、スポーツ競技視聴方式に革命を起こす」としている。

 IntelがドローンやVRなどに対する投資に力を入れているのは、成熟期に入ったパソコン市場から抜け出し、新しい成長動力を見いだそうという企業戦略を抱いているからである。成長が期待できる第5世代通信、5G市場で主導権を握るという狙いもあるだろう。5Gは膨大なデータを迅速に処理するインフラとして第4次産業革命を率いる核心技術とされている。
 VR機器・ドローン・自動運転車・モノのインターネット(IoT)などにIntelが開発したチップやデバイス、ネットワークソリューションを組み込み、これらの機器がつながるプラットホームも掌握するという戦略である。
 世界初の5G技術を公開した平昌冬季五輪は、こうした Intelの戦略を明らかにする格好の舞台となった。
平昌冬季五輪のレガシーとして5G Networkを挙げている 出典 PyeongChang2018 POCOG
韓国テレコムが平昌に設置した5G Village

現代自動車、ソウル~平昌間の高速道路で自動走行実証実験
 世界各国の自動車企業は、次世代の自動車、自動走行車の開発に凌ぎを削っている。
 現代自動車は、平昌五輪で自動走行自動車のトライヤルを成功させ、世界に一歩先んじた。
 現代自動車は、平昌冬季五輪開催に先立って、ソウル~平昌間の高速道路、約190キロメートル区間で最高速度、時速100~110キロメートルの自動走行実験を成功させた。 
 この自動走行実験は、レベル4(米国自動車工学会[SAE]基準)で行われ、5Gコネクテッドカーの次世代水素電気自動車ネクソ3台とジェネシスG80自動運転車2台で行った。 レベル4は、ドライバーは同乗するが、車の走行は自動制御される。
 自動走行車両5台は、京釜高速道路のサービスエリアを出発して、新葛(シンガル)JCを経て永東(ヨンドン)高速道路に入り、大関嶺(テグァンリョン)ICを抜けて最終目的地の大関嶺まで走行した。高速道路を走る間、車線の変更や前方車両追い越し、7個のトンネル通過などがスムーズに行われた。
 現代自動車は平昌冬季五輪・パラリンピックの期間に、5Gコネクテッドカーを利用して、選手団、大会関係者、観客などを対象に、平昌市内の競技場の周辺を往来する自動運転試乗体験を実施した。 
 現代自動車は2021年までにレベル4の都心型自動運転システムの商用化を推進し、2030年までには完全自動運転技術を商用化する計画だ。
ソウル~平昌間の高速道路を走行する自動走行自動車   出典 現代自動車

“ICT五輪”のキャッチフレーズを奪われた2020東京五輪
 平昌冬季五輪組織委は、平昌五輪のもう一つの名称を「世界最初のICT五輪、平昌」に決め、韓国のICT技術力を全世界に発信する舞台にするとしている。第4次産業革命の核心となる5Gサービスをはじめ、モノのインターネット(IoT)、超高画質映像(UHD)、人工知能(AI)、バーチャルリアリティ(VR)、拡張現実(AR)など、最先端技術が五輪期間中に公開される予定だ。
 韓国テレコム(Korea Telecom)は、SamsungやIntelと協力して、「平昌冬季五輪5G広報館」を江陵オリンピックパークで、開会式に先立って、1月31日に開館した。
 韓国の5G技術力や人工知能(AI)、バーチャルリアリティ(VR)を世界にPRするためである。
 2020年東京五輪も、“ICT五輪”のキャッチフレーズを掲げているが、平昌冬季五輪に先を越されていしまった。
2020年東京五輪まで残された時間は、後2年余り、平昌冬季五輪をこえる“ICT五輪”をどう構築するのか、日本の真価が試されている。