東京五輪2020 巨額の負担が次世代に 日本は耐えきれるか?

 

東京五輪2020 ライフサイクルコスト 競技場施設の維持管理費 巨額の負担が次世代に 日本は耐えきれるか?
 2016年10月5日、日本スポーツ振興センター(JSC)は、新国立競技場の完成後50年間の維持管理費が年間約24億円、総額約1200億円との試算を明らかにした。新国立競技場の建設費は約1645億円、50年間の維持管理費はその額に並ぶほどの巨額に達するのである。
 新国立競技場の工事を請け負っている大成建設などの共同企業体(JV)が現時点で大まかな数字を算出した。警備、清掃、水道光熱費など日常的なかかる費用と、定期的に行う大規模改修費を加えて算出した。
 JSCによると、昨年白紙撤回されたザハ・ハディド氏デザインの旧計画では日常的な維持管理費は年間約40億円で、これ以外に50年間の大規模改修費が約1046億円との試算をしていた。取り壊された旧国立競技場の年間約7億~8億円だった。
 新国立競技場など競技場施設を建設すると、初期費用の建設費だけでなく、完成後50年~60以上に渡って維持管理費が発生する。さらに5年、10年ごとに施設のリニューアルや大規模修繕を行わないと施設の環境は維持できないのは常識である。
 最近は、国や地方自治体では、道路や橋、建物などの社会資本のインフラ投資を行う際は、初期投資経費、完成後の維持管理費、修繕費、更新費、大規模改修費、そして廃棄処理費なども加えたライフサイクルコストという概念を導入して、インフラ投資の妥当性を検証する材料にしている。
 小池都知事も海の森水上競技場競技場を見直すにあたって、「恒久施設」案では328億円の建設費まで削減可能としたが、建設後の修繕費が65年間で計約294億円が必要となると試算した。修繕費に年間の維持管理費3億2500万円とされる維持管理費の65年分、計約210億円を加えると、65年間のライフサイクルコストは約500億円と大幅に建設費を超えるだろう。その結果、小池都知事は「仮設レベル」で298億円で建設する案を選択した。 、「恒久施設」案の328億円と「仮設レベル」の298億円を比較すると、約40億円程度と差はわずかだが、ライフサイクルコストで比較すると巨額の差が生まれるのである。
 競技場など“箱もの”は、建設費だけ調達すればよいというわけにはいかない。巨額の後年度負担を次世代に確実に残すことになることを忘れてはならない。
 キーワードは「持続可能な開発」(Sustainable Development)である。小池東京都知事と都政改革本部上山特別顧問 4者協議トップ級会合 2016年11月29日
脚光を浴びているライフサイクルマネジメント(LCM)
 2012年12月2日、中央自動車道上り線笹子トンネルの山梨県大月市側出口から約2キロメートルの地点の天井板が突然崩落し、通行車が次々と下敷きになり、9名が犠牲になるという大惨事が起きた。
天井板は約110mに渡ってV字型に崩落し、重さ約1.2tの天井板が通行車に直撃した。
この事故で、老朽化した社会資本の維持管理に係る問題点が浮き彫りとなった。
道路、橋、港湾、上下水道、公営住宅、病院、学校などの社会資本は、建設後50年で“耐用年数”を迎えるとされている。 高度成長期以降に整備、建設された膨大な量の社会資本が2020年までに、一斉に「50年」を迎える。

[建設後50年以上経過する施設の割合の例]
道路橋 : H24年3月 約16%  10年後 約40%  20年後 約65%
河川施設:H24年3月 約18%  10年後 約30%  20年後 約45%
トンネル: H24年3月 約24%  10年後 約40%  20年後 約62%
港湾岸壁: H24年3月 約7%  10年後 約29%   20年後 約56%
(国土交通省 「社会資本の維持管理・更新に関し当面講ずべき措置」)

 国土交通省では、所管する社会資本を対象に2020年までの維持管理・更新費の推計を行った。
 それによると、2011年度から2020年度までの50年間に必要な更新費は約「190兆円」で、社会資本への投資水準を横ばいと過程すると2037年の時点で維持管理・更新費すら賄えなくなる可能性があるとしている。
(国土交通省 平成23年国土交通省白書)

 一方、財務省では、財政の視点で、社会資本の維持管理問題に取り組んでいる。
 これからの社会資本整備のあり方について、「厳しさを増す財政事情の下、社会資本の整備水準の向上や今後の急速な人口減少を踏まえれば、今後の社会資本整備に際しては、一層の重点化を図るとともに、計画的かつ効率的に進める必要がある」とし、「費用の増加が見込まれる社会資本の維持管理・更新に当たっては、それぞれの管理主体が人口減少やコンパクトシティ化等を見据え、インフラ長寿命化計画(行動計画)等を策定し、これに基づき効率的に対応していかなければならない」とした。
さらに新規投資については、「我が国にとって必要とされる国際競争力強化や防災対策であっても、費用対効果を厳しく見極め、厳選する必要がある」としている。
(社会資本整備を巡る現状と課題 財務省主計局 平成26年10月20日)

 老朽化が加速する膨大な量の社会資本をどうやって維持管理するのか、更新工事の体制はどうするのか、厳しさを増す財政や加速する少子・高齢化社会を抱える中で、その悩みは深刻だ。社会資本の整備には、後年度負担も念頭に置いた戦略的なマネージメントが必須になっている。
 その中で生まれた概念がライフサイクルマネイジメント(LCM)である。
ライフサイクルマネジメント【LCM:Life Cycle Management】
 ファシリティの企画段階から、設計・建設・運営そして解体までのファシリティの生涯に着目して計画、管理を行なう考え方。ファシリティに依存する効用の最大化、ライフサイクルコスト(LCC)の最適化、資源やエネルギー消費・環境負荷の最小化、障害や災害のリスクの最小化を目標とする。例えば、施設を建替えずに改修しながら使用し続ければ、建替え時の解体費用と新設費用が節約できることに加え、それらに係る二酸化炭素排出量も大きく削減可能で、地球温暖化に大きく貢献することになる。
このような観点からも、施設の生涯にわたる効用・損失を最大化するためには、施設の長寿命化は不可欠であり、大幅な用途の変更が必要になる場合もある。
(参照 日本ファシリティマネジメント推進協会:FMガイドブック)
官公庁の施設の“ライフサイクルコスト”(LCC)試算
 官公庁の施設マネジメントを行う一般財団法人建築保全センターは、大規模な建築物などの五十年間の長期修繕費について、「すべき修繕、望ましい修繕、事後保全」は建設費の百五十四パーセント、「すべき修繕、望ましい修繕」同九十六パーセント、「すべき修繕」同五十一パーセントとしている。
 「事後保全」とは、建造物や設備にトラブルが発生したら、その都度、修理、修復、設備更新を行う修繕作業である。
 新国立競技場の場合、可動式屋根や可動式観客席、芝生養生システムや空調設備などの最新鋭設備、他の官公庁の施設に比べて、保守修繕費がかさむのは明らかであろう。
 この目論見で、新国立競技場の今後50年間の長期修繕費を試算してみると、「すべき修繕、望ましい修繕」のケースでは、建設費とほぼ同額の「2419億円」、「すべき修繕、望ましい修繕」のケースでは、「3880億円」が見込まれているのである。
(参考 国土交通省大臣官房官庁営繕部監修,財団法人建築保全センター編集・発行,財団法人経済調査会発行『建築物のライフサイクルコスト』[平成17年])
ライフサイクル・マネージメント
 建築保全センターは「建物のロングライフ化」のために、定期的に保全工事を的確に行う必要性を強調している。時間の経過と共に、建物の様々な性能・機能が劣化し、その維持のために保守工事や大規模修理が必要となるほか、時代と共に変わる要求水準を満たすために大規模更新工事が求められている。
 
(出典 一般財団法人 建築保全センター 建築等のライフサイクル・マネージメント)

 また建築保全センターでは、標準的な建物の「ライフサイクルコスト」のシミュレーションも公表している。
 「鉄筋コンクリート造 地下1階地上5階建」のビルで、耐用年数を「60年」と想定した。
 「企画設計コスト」を0.6億円、「建設コスト」を14.2億円、合わせて14.8億円を初期費用とし、「点検・保守等のコスト」、「修繕・改善コスト」、「光熱水等のコスト」、「他運用管理コスト」、「廃棄処分コスト」を試算した。
 その結果、「ライフサイクルコスト」は、初期費用も含めて86.9億円になるとした。初期費用の5.87倍に上る経費である。
 

(出典 一般財団法人 建築保全センター 建築等のライフサイクル・マネージメント)

鹿島建設の“ライフサイクルコスト”試算
 また鹿島建設では、建築物は竣工後から解体廃棄されるまでの期間に建設費のおよそ3~4倍の経費が必要で、竣工時に長期修繕計画を作成し、計画的に修繕更新を行うが重要としている。 この試算では、「2520億円」の施設を建設すると「7560億円」から「1兆80億円」の後年度負担が、今後50年間に発生することになる。
 JSCでは、約「1046億円」でさえ、早くも、ギブアップして国に財源確保を要請している。
 競技場など“箱もの”は、建設費だけ調達すればよいというわけにはいかない。巨額の後年度負担が次世代に着実に残ることになる。

(運営管理とLCC 鹿島建設)

 新国立競技場の「ライフ・サイクル・コスト」(LCC) 「1兆円超」 建築家試算
 建築エコノミストの森山高至氏が新国立競技場について「ライフ・サイクル・コスト」(LCC)を試算したところ、1兆円を超えることして、「財政的に恐ろしい未来が待ち受けている」と警告している。
森山氏の試算によると、新国立の整備費を2520億円とすると、建設から解体まで1兆80億~1兆2600億円としている。五輪後に設置するとされる開閉式屋根の費用約300億円、資材施工費の高騰分を20%とすると、さらに増えて「天文学的な数字」となるという。解体までの50年間の物価上昇等を見込むと、「後世の国民を苦しめることになるだろう」と森山氏は指摘した。
(出典 2015年7月10日 スポーツ報知)

大規模改修費「1046億円」では維持できない?
  社会資本としえ整備される建築物は、条件によって差はあるが、概ね初期建設費用の最低でも同額から1.5倍の長期修繕費が必要とされ、更新費や修繕費に加えて、維持管理費も含めるた“ライフサイクルコスト”は、4倍以上とされている。
 2020年東京オリンピック・パラリンピックで整備する競技場施設は、新国立競技場の1645億円だけはなく、各競技場の施設の建設や整備で2241億円を拠出する計画だ。今後50年間の負担は、約3000億円以上、“ライフサイクルコスト”で見ると、約1兆5000億円程度という巨額の負担になる。
 一方で、道路、橋、港湾、上下水道、公営住宅、病院、学校などの高度成長期以降に整備、建設された膨大な量の社会資本が2020年までに、一斉に更新時期の「50年」を迎え、2020年までの維持管理・更新費は約「190兆円」とされている。すでに巨額の負担が国の財政にのしかかっている。
 2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催期間は、オリンピックで17日(サッカーの予選は除く)、パラリンピックで13日、その後、50年以上使い続ける“レガシー”(未来への遺産)にしなければ意味がない。
 一過性でなく、確実に後年度負担が生まれる社会資本の新規投資には、それなりの“覚悟”が必要である。
 「持続可能な開発」(Sustainable Development)を忘れてはならない。
 次世代の人たちに“胸を張って”「これが東京五輪の“レガシー”(未来への遺産)だ」と自信を持って言える計画にしたいと思うのは筆者だけであろうか?
定義項目3
説明項目3が入ります。
募集職種
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