「木と緑のスタジアム」 新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体作成/日本スポーツ振興センター(JSC)提供
- 新国立競技場新デザイン 「木と緑のスタジアム」A案に決定 大成建設・梓設計・建築家の隈研吾氏のチーム 新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?
- 「伝統的な和を創出」 収容人数は6万人、総工費約1489億9900万円、完成は19年11月末
2015年12月22日、政府の関係閣僚会議(議長・遠藤五輪相)は、新国立競技場の整備で2チームから提案されていた設計・施工案のうち、「木と緑のスタジアム」をコンセプトにしたA案で建設することを決めた。
安倍総理大臣は、「新整備計画で決定した基本理念、工期やコスト等の要求を満たす、すばらしい案であると考えている。新国立競技場を、世界最高のバリアフリーや日本らしさを取り入れた、世界の人々に感動を与えるメインスタジアム、そして、次世代に誇れるレガシー=遺産にする。そのため、引き続き全力で取り組んでいただきたい」と述べた。
その後に会見した遠藤利明五輪担当相は、これまで非公表だったA案の提案者は、大成建設・梓設計・建築家の隈研吾氏で構成するチームだと明らかにした。したがってB案は竹中工務店・清水建設・大林組の共同企業体と日本設計・建築家の伊東豊雄氏のチーム。
日本スポーツ振興センター(JSC)が関係閣僚会議に報告した審査委員会(委員長=村上周三東京大名誉教授)の審査結果は、A案が610点、B案が602点だった。A案は工期短縮の項目で177点(B案は150点)と高い評価を得たのが決め手となった。注目されるのは、デザインや日本らしさ、構造、建築の項目ではB案が上回っていることである。B案に参加した建築家の伊東豊雄氏は採点結果の妥当性について疑問を投げかけている。
また、白紙撤回された旧計画を担当した女性建築家のザハ・ハディド氏は、事務所を通して声明を発表し、「新デザインはわれわれが2年かけて提案したスタジアムのレイアウトや座席の構造と驚くほど似ている」とし、「デザインの知的財産権は、自分たちが持っている」と主張した。さらに「悲しいことに日本の責任者は世界にこのプロジェクトのドアを閉ざした。この信じ難い扱いは、予算やデザインが理由ではなかった」とし、建設計画見直しへの対応を批判した。
採用されたA案は、木材と鉄骨を組み合わせた屋根で「伝統的な和を創出する」としているのが特徴。地上5階、地下2階建てで、スタンドはすり鉢状の3層として観客の見やすさに配慮。高さは49・2メートルと、旧計画(実施設計段階)の70メートルに比べて低く抑えた。総床面積19万4010平方メートル、収容人数は6万人(五輪開催時)。総工費は約1489億9900万円、工期は36か月で、完成は19年11月末である。
一方採用されなかったB案の総工費は、「純木製の列柱に浮かぶ白磁のスタジアム」を掲げ、地3階、地下2階建てで、スタンドは2層、高さは約54.3メートル、総床面積18万5673平方メートル、収容人数は6万8000人。総工費は約1496億8800万円、工期は34か月で、完成は19年11月末である。
「木と緑のスタジアム」 技術提案書A案のイメージ図 新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体作成/日本スポーツ振興センター(JSC)提供
作成 IMSSR
技術提案書A案のイメージ図 伊東・日本・竹中・清水・大林共同企業体作成 JSC提供日本スポーツ振興センター(JSC)提供
ザハ・ハディド案(当初案) 日本スポーツ振興センター(JSC) 国際デザイン・コンクール 出典 JSC見直し縮小案 出典 JSC
- 疑問! 新国立競技場の収支とライフサイクルコスト
- 今回、実施された新デザインの公募の基本方針は、2015年7月7日に公表された「1550億円」の“仕切り直しの建設計画”で定められた。“仕切り直しの建設計画”では、毎年の収支見込みはどうなっているのか、明らかにされていない。建設経費削減のためにイベント開催、コンベンション機能などの五輪後の収益事業を支える機能はすべて取りやめた。その結果、収支の目論見も変わり、「多角的な事業展開で自立した運営」という当初の目標は、“風前の灯”だ。収支が赤字になったら誰が責任を持つのか?
また、長期修繕費(ライフサイクルコスト)がどの位必要なのかも公表されない。新国立競技場は、建設後50年、100年先の次世代に、レガシー(未来への遺産)として残すスタジアムだろう。そのためには5年ないし10年ごとに保守・改修工事や大規模改修工事を定期的に行わないと施設は維持できないのは常識である。誰が長期修繕費を負担するのか?
今回、提案された2案とも、明治神宮外苑の周囲の環境に配慮したデザインで、木材をふんだんに使った構造は、どこか法隆寺や縄文遺跡を彷彿とさせて「ぬくもり」感があふれ、国民から好感を得られるのではという印象だ。
しかし、採択されたA案(大成建設・梓設計・建築家の隈研吾氏のチーム)には、維持管理費の縮減に対するコンセプトは提示されているが、一体、完成後50年に長期修繕費も含めて後年度の経費負担はどうなるのかが示されてない。ちなみに採択されなかったB案(竹中工務店・清水建設・大林組の共同企業体と日本設計・建築家の伊東豊雄氏のチーム)では、具体的な経費が提示されていて、竣工後50年間の維持管理費は長期修繕費や毎年の運営費(人件費なども含む)も合わせて約1822億円、毎年約36億4000万円としている。
A案の建設計画を評価するにあたっては、五輪後50年間、さらに100年間の収支や維持管理費や長期修繕費の見通しもしっかり視野に入れて再検証するのが必須であろう。新国立競技場の次世代の負担がどうなるか、忘れてはならない。
新国立競技場の完成予想図。環境に配慮して高さが当初案より5メートル低い70メートルになった 出典 日本スポーツ振興センター
- “迷走”を繰り返した新国立競技場 ザハ・ハディド当初案 大幅縮減 「2520億円」
- 2015年7月7日、日本スポーツ振興センター(JSC)は「有識者会議」で、新国立競技場の改築費は、当初よりも「900億円」多い「2520億円」になることが決まった。スタンド工区が1570億円、屋根工区が950億としている。膨大な建設費に批判が集まるなか、5年後に向けた計画が進められることになった。
会議にはメンバー12人が出席したが、デザイン案を決めた国際デザイン・コンクールの審査委員長を務めた建築家の安藤忠雄氏は欠席した。
JSCは、新国立競技場について斬新なデザインの象徴となる「キール・アーチ」は残すが、開閉式の屋根の設置を先送りにし、可動式の観客席を着脱式にするとしている。 この結果、約「260億円」を削減し、スタンド本体の総工費を「1365億円」と見積もったとしている。一方で、「キール・アーチ」のための資材費や特殊な技術が必要な工費の負担増で「765億円」、建設資材や人件費の高騰分が350億円(約25%増)、消費増税分が40億円、合わせて約「1155億円」の経費が増えたとしたとしている。差引で約「900億円」増額としたのである。2014年5月の試算から増加したのは約「「1155億円」、何と1000億円を超えていたのである。
また、開閉式の屋根を大会後に設置したあとの収支計画も明らかにし、黒字額は前回は「3億3千万円」としたが、今回は約10分の1の年間「3800万円」に大幅に縮小された。また屋根の設置時期については明らかにしなかった。
このほか、完成後50年間で、修復・改修費が前回の試算より400億円増えて、1046億円に膨れ上がったことを明らかにした。
計画は全会一致で承認され、新国立競技場の工事は、10月に着工し、2019年5月の完成を目指す。
これだけ批判を浴びている新国立競技場の建設計画が、12人の「有識者」によって前回一致で承認されたのは“唖然”という他ない。「有識者」とは一体何だろうか? 数名は異論を示してもしかるべきだと思うが如何? 更にこのデザインを選定した国際デザイン・コンクールの審査員長、安藤忠雄氏は今日の会議を欠席している。ザハ・ハディド氏のデザインを選定に自信があるなら、胸を張って出席して主張して欲しかった。それが“一流”の建築家だと筆者は思うが……。 - 新国立競技場の総工費「1550億円」 決定
出典 新国立競技場整備計画再検討のための関係閣僚会議 2015年7月17日
政府は関係閣僚会議を開き、総工費を「1550億円」とする新しい整備計画を決定した。
再検討後の建設計画がポイントは次の通りである。
▽総工費の上限は、「2520億円」に未公表分を加えた「2651億円」と比べて、約「1100億」円余り削減して「1550億円」とする。
▽基本理念は、「アスリート第一」、「世界最高のユニバーサルデザイン」、「周辺環境等との調和や日本らしさ」。
▽観客席は6万8000程度とする。
▽サッカーのワールドカップも開催できるように、陸上トラック部分に1万2千席を設置し、8万席への増設を可能にする。
▽屋根は観客席の上部のみで「幕」製とする。
▽「キールアーチ」は取りやめる。
▽観客席の冷暖房施設は設置しない。
観客の熱中症対策として休憩所や救護室を増設する。
▽陸上競技で使用するサブトラックは競技場の近辺に仮設で設置する。
▽総面積は旧計画の22万2000平方メートルから約13%減の19万4500平方メートルに縮小する。
▽VIP席やVIP専用エリアの設置は“最小限”にする。
▽スポーツ博物館や屋外展望通路の設置は取りやめて、地下駐車場も縮小する。
▽競技場は原則として陸上競技、サッカー、ラグビーなどのスポーツ専用の施設とする。但し、イベントでの利用も可能にする
▽災害時に住民らが避難できる防災機能を整備する。
▽工期は、2020年4月末とする
▽設計・施工業者を公募する際に2020年1月末を目標とした技術提案を求め、審査にあたって、工期を目標内に達成する提案に評価点を与えて優遇し、工期を極力圧縮することに努める。
▽財源については、“先送り”をして、多様な財源の確保に努め、具体的な財源負担の在り方は、今後、政府が東京都などと協議を行い、早期に結論を出す。
▽9月初めをめどに、設計から施工を一貫して行う「デザインビルト」方式を採用して、入札方式は「公募型プロポーザル方式」とし、応募の資格要件を課した上で、事業者を「公募」で募集する。
政府は「約1千億円の削減幅」をアピールして、国民の理解を得たいとしているが、「約1千億円」を強調したいがために、旧建設計画の「2520億円」は見せかけの“粉飾”経費で、計上すべき経費だが別枠にしていた「131億円」を組み入れて、実は「2651億円」だったと認めるという醜態を演じた。自ら杜撰さな予算管理をなりふり構わず認めたのには唖然である。
それでも、「1000億円超」とされているロンドン五輪や北京五輪のオリンピックスタジアムの建設費に比較しても、「1550億円」はまだ破格に高額で国民の批判が収まるかどうか不透明である。
また、削減幅「約1千億円にこだわったことで、周辺工事や関連経費などで、整備費に入れないで“隠した”経費があったり、労務費や資材費が値上がりするなどして、実際には「1550億円」が更に膨らむ懸念がどうしても残る。また焦点の「2015年1月」完成を目指した場合は、総工費は「1550億円」の上限は維持できるのだろうか? 不安材料は依然として残る。
- 飛びぬけて高額の建設単価 新国立競技場「1550億円」
- 安倍首相の決断で、「2520億円」から「約1100億円」削減して「1550億円」になったと聞くと、かなり建設費が削減されて適切になったと誤解する人が多いが、実はこれは“大間違い”である。
大規模な建造物の建設費が適正であるかどうかを全体として把握する最良の手法は、「坪単価」で見るとというのが常識である。
新国立競技場を他のスタジアムと「坪単価」で比較してみよう。
新国立競技場は、最終案の「1550億円」(延べ床面積19万4500平方メートル)とザハ・ハディド案を踏襲してゼネコン2社が積算した「3088億円」(延べ床面積22万4500平方メートル)の「坪単価」を計算した。 「1550億円」では、265.5万円、「3088億円」では、なんと453・9万円となった。スタジアム建設の「坪単価」では、唖然とする高額だ。
現在では国内最大規模の日産スタジアムの「坪単価」は155.7万円、サッカー専用スタジアムとては東アジアで最大規模のさんたまスタジアムは105.5万円、屋根を備えている京セラドーム大阪は122・8万円である。
可動式屋根や「キール・アーチ」を取り止め、電動式可動席や観客席冷房装置も設置を止めても、「坪単価」は破格の265.5万円、あきれるほどの高額なスタジアムである。
一体、どんなコスト管理をしたのだろうか?
「1550億円」やはっぱり納得できない。
- 五輪終了後の収支計画はどうなっているのか?
- 「2520億円」の建設計画を決めた際に、日本スポーツ振興センター(JSC)では、可動式屋根設置後という“条件付き”で、年間で、収入40億8100万円、支出40億4300万円、3800万円の黒字という収支見込みを公表している。世論の批判をかわすための“帳尻合わせ”だという批判も多い。
旧国立競技場の維持費は約7億円、この建設計画では約6倍近くの40億円超に膨れ上がる。
実は、「3800万円の黒字」はすでに破たんしているのが明らかになっている。
日本スポーツ振興センター(JSC)では、完成後50年間に必要な大規模修繕費が約1046億円に上るという試算を公表した。年間約21億円の巨額な経費である。大規模修繕費は、建築物を維持管理するために必須の経費、なんとこの経費を別枠にしているのである。杜撰な収支計画には唖然とさせられる。
「1550億円」の仕切り直しの建設計画では、収支見込みはどうなっているのか、まだ不明である。可動式屋根の設置は取りやめたことで当初の目的であったイベント開催も可能な“多機能スタジアム”は挫折した。五輪後の収入の目論見は白紙撤回されているはずだ。一方、施設全体を縮小したので経費は多少、削減されているだろう。ともあれ新しい建設計画を評価するためには、五輪後の収支見通しが必須だ。
それとも新国立競技場の運営は「民間に委託」としているので、政府としては、収支のメドは関知しないというだろうか? しかし、仮に五輪後の新国立競技場の収支が赤字を余儀なくされたら、そのツケは、国民に回されるのだろう。
新国立競技場 整備完成時(開閉式遮音装置等設置後)収支見込み 日本スポーツ振興センター(JSC) 2015年7月7日
- 「収入40億8千万円」、「支出40億4千万円」、「黒字3800万円」への疑問
- 2015年7月、建設計画の決定にあわせて新国立競技場の年間の収支見込みも公表され、開閉式屋根を設置した場合という条件付きで、収入が40億8100万円、支出が40億4300万円、3800万円の黒字が確保できるとした。また建設後50年間に必要な大規模改修費(ライフサイクルコスト)については、約1046億円に上るという試算を明らかにした。年間に換算すると約21億円という巨額の経費が必要となるのである。大規模改修費は収支見込みに含まれていない。
今の国立競技場の収入・支出はいずれも年7億円程度で、事業規模は6倍近くに膨れ上がる巨大施設となるのである。
新国立競技場の収入見込みを見ると、大規模なスポーツ大会(サッカー20日、ラグビー5日、陸上11日)が年36日、そのほかのイベントで年44日、合計年80日の開催で、3億9400万、コンサートなどのイベントが12日(6億円)開催される想定で、6億円の収入を計上。旧国立競技場でのコンサートの開催実績はこれまで年2日程度だったが、「屋根がある大規模会場は珍しくニーズは高い」(JSC)としている。
プレミア会員事業では、年間540万円や360万円のVIPボックスや、年間6万円から15万円の会員専用シートなど収入で12億3300万円、ビジネスパートナーシップ事業では、企業の広告料収入を、ゴールドが年間1億5千万円で3社、シルバーが7200万円で5社、パートナーが4800万円で10社、合わせて11億6100万円を見込んでいる。
その他、ホールやバンケットルームなどを利用したコンベンション事業で2億5700万円、フィットネス事業で1億9800万円、物販・飲食で1億9100万円、次世代パブリックビューイング事業で8900万円を見込んでいる。
ビジネス競技場を企業の広告に利用できる権利の使用料などで10億9千万円(ビジネスパートナーシップ事業)、コンベンションの開催で1億8千万円(コンベンション事業)を見込む。
さらに次世代パブリックビューイング、フィットネス、物販・飲食事業などで収入を見込んでいる。
一方、支出では人件費が1億9900万円、管理運営委託費が18億6300万円、その内保守管理業務は9億2800万円、警備業務は5億1100万円、清掃業務は3億7300万円、屋根及び開閉式遮音装置維持管理業務は1100万円、可動席維持管理業務は300万円である。
焦点の修繕費は10億8600万円、試算時(2014年8月)の建設資材価格や労務費単価を前提に算出している。
その他、水道光熱費や租税公課などが支出に加わる。
大会終了後の新国立競技場の収支は大幅赤字“必死”
焦点の年間の収支見込みについては、昨年夏の試算では「収入38億4000万円」、「支出35億1000万円」、「3億3000万円」の黒字としていた。今回の収支目論見では、開閉式屋根を設置した場合という条件付きで、「収入40億8100万円」、「支出が40億4300万円」、「3800万円」の黒字と試算した。支出が増えたのは完成後にかかる修繕費が6割増の年10億円となったためだとしている。それに合わせて収入見込みを約2億円増やし、無理やり、黒字にしたという印象があるが、とにかく“不明瞭”である。 わずか「3800万円」の黒字という試算は、「赤字」としたら厳しいを浴びるので、なにやら帳尻合わせの感が拭い去れない。
- 1日で撤回した新国立競技場の収支見通し 収入「50億円」、支出「46億円」で「4億円黒字」
- 2013年11月28日、日本スポーツ振興センター(JSC)は、初めて新国立競技場の収支見込みを公表した。収入が約「50」億円、これに対して支出は約「46億円」とし、約「4億円」の“黒字”としている。膨れ上がった建設費への批判を和らげようとしたのがその狙いだった。
収入の内訳は、企業の展示会やイベントで14億円、年間シート契約で12億円、コンサートで12億円、その他12億円としている。開催される競技やイベントの種類は、サッカー20日、陸上競技11日、ラグビー5日、コンサート12日を中心に、年間48~57日の開催日数を見込んでいる。
支出については、旧国立競技場の維持費約7億円と比較して、約6.5倍に膨れ上がる。
スポーツやコンサートなどのイベントで、8万人を動員できるイベントは、年間、一体何回位あるのか、高額な会場利用費を負担できるイベントはどの位あるのか大いに疑問である。
さらに6.5倍近くに膨れ上がった維持費に唖然とさせられる。
維持管理費が高くなる理由は、可動式屋根の維持費やサッカーやラグビーではグランドにせり出す1万5千席の可動席の施設メンテナンス費用が主なものだ。さらに1回・数千万円や1億円ともいわれるピッチの芝の張り替えを年2回する費用も必要となる。
余りにも“甘い”目論見での「4億円黒字」想定であった。
- 翌日変更 収入「45億円」、支出「41億円」
- 翌日の2013年11月29日、日本スポーツ振興センター(JSC)は、新国立競技場の収入を約「45億円」、年間維持費を約「41億円」、との見通しを自民党の無駄撲滅プロジェクトチーム(PT、座長・河野太郎衆院議員)のヒアリングで示した。
収入と支出を、それぞれ5億円削減し、「4億円」の“黒字”は“維持”するとしている。
収支予想の“甘い”見通しに批判が殺到し、収入、支出を圧縮して“つじつま合わせ”をしたという疑念も生まれる。
また赤字が出ても税金を投入せず、自助努力で運営させることを確認した。
さらにJSCの示す総事業費に、JSCが移転して延べ床面積を現在の約2倍となるJSCビル建設費用が含まれていないとして、PTは文部科学省に事業全体の費用と上限を示すよう指示した。
これを受けて、文科省では、平成26年度の補正予算でJSCの施設整備費として、すでに約200億円を計上した。この予算の趣旨は「オリンピック競技大会における過去最多を越えるメダル獲得数」を狙う選手育成強化費と説明されている。しかし、約200億円の内訳は、現国立競技場解体費用が70億円、残りの約130億円はJSCの本部移転費用等だといわれている。JSCの本部を移転することが「メダル獲得数増」にどうつながるのか。もし本当にそうなるとしたら、文科省とJSCは説明できるのだろうか?
- そして再び縮小 収入「38億円」、「支出35億円」、「黒字3億円」
- 2014年8月19日、日本スポーツ振興センター(JSC)は、五輪終了後の収支計画を発表し、スポーツ大会やコンサートなどによる収入を「38億4000万円、維持管理費などの支出を「35億1000万円で、年間「3億3000万円」の黒字を確保できる見込みという試算を公表した。
今の国立競技場の収入・支出はいずれも年7億円程度で、事業規模は5倍超に膨らむことになる。
JSCは「多角的な事業展開で自立した運営を目指したい」としている。
一方で、毎年の支出とは別に、完成から50年後までに大規模改修費として「656億円」が必要として、JSCは、早くも 「改修時は国に補助金を要請したい」とした。
オフイスビルやマンションなどは、5年ないし10年ごとに保守・改修工事を行わないと建築物は維持できないのは常識である。高層ビルや巨大な建築物では、その経費は高額になることは容易に想像できる。
新国立競技場の維持管理費に一体どの位かかるのか、誰が負担するのか、さらに不透明になった。
計画では新国立競技場で年間に大規模なスポーツ大会(サッカー20日、ラグビー5日、陸上11日)が36日(3億8000万円)、コンサートが12日(6億円)開催される想定で、9億8000万円のイベント収入を計上。コンサートの開催実績はこれまで年2日程度だったが、「屋根がある大規模会場は珍しくニーズは高い」(JSC)としている。
そのほか、年間最高700万円のVIP室や会員専用シートの契約料で12億5千万円(プレミアム会員事業)、競技場を企業の広告に利用できる権利の使用料などで10億9000万円(ビジネスパートナーシップ事業)、コンベンションの開催で1億8000万円(コンベンション事業)を見込んだ。
さらに次世代パブリックビューイング、フィットネス、物販・飲食事業などを行う。
支出では電気設備や機械の修繕費として6億3000万円、年間2回の張り替えを含む芝の管理費として3億3000万円などを計上した。
新国立競技場の収入と支出は更に圧縮され、「収入45億円、支出41億円」は、それぞれ7億円と6億円、減額された。
世論の厳しい批判を浴びて見通しを修正したと思われる。再び見通しの“甘さ”が問われる結果となった
それにしても、毎回示される収支は、10%近い黒字になる“不自然さ”はつきまとう。果たしてこの見通し通り運営できるのだろうか、疑問は晴れない。
早くも、可動式屋根の建設は、大会終了後に“先延ばし”することが明らかにされている。上記の“屋根付き”を前提にしている収支目論見はすでに破たんしている。
遮音効果があり、雨もしのぐグランド上部の開閉式屋根は、五輪開催後、コンサートなイベントの利用を増やすために計画されている。 日本スポーツ振興センター(JSC)では、“屋根なし”の場合、収入で10億8000万円の減、収支差で8億6千万円の減としている。
- 屋根完成まで赤字 すでに“赤字”宣言
- 2015年6月30日、下村博文文部科学相は、閣議後の記者会見で、設置を先送りした開閉式屋根がない期間、運営収支が赤字になる見通しを示した。また、「JSC(事業主体の日本スポーツ振興センター)が直接、管理運営をするのは能力を超えたことと思う」とも述べ、五輪・パラリンピック後は民間に委託し、収支改善を目指す方針を明らかにした。
2015年7月、総工費「2520億円」の建設計画を公表した際に、屋根を設置しない場合は、「38億円」、支出「44億円」、赤字「6億円」とし、屋根を設置した場合は、収入が「40億8100万円」、支出が「40億4300万円」で、かろうじて「3800万円」の黒字になるとした。
屋根のない新国立競技場は、赤字「6億円」と試算していたのある。
屋根がない期間は騒音問題の配慮などからコンサートは想定通り開けないし、屋根の工事期間は競技場が使えなくなるため赤字になるとした。
屋根を設置するれば、黒字が期待できるとしたが、屋根の設置時期や設置費用についても五輪後の経済状況にもよるとして明らかにしなかったが、下村文科相は「屋根は作れば絶対に黒字になるという計算はできる」と自信を示した。
民間委託については有識者による検討会議を設置し、大会終了後すぐ実施できるよう議論を先行させとした。また下村文科相は「国民の税金の負担にもならないように考えるようにしたい」としている。
新国立競技場の維持費は、「35億円」では到底収まらず、修復・改修費なども含めると年間「70億円」とする指摘する専門家もいる。年間維持費は毎年の収支にものしかかり、「3800万円」の黒字は吹き飛んで新国立競技場の収支は“赤字”になるのは必至で、次世代に“赤字”負担が重しとなって受け継がれる。
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になる懸念は一向に収まらない。
- 長期修繕費(ライフサイクルコスト)1046億円はどうする?
- 2015年7月7日、日本スポーツ振興センター(JSC)は新国立競技場の建設費を「2520億円」になることが決めた際に、長期修繕費が完成後50年間で、400億円増えて、1046億円に膨れ上がったことを明らかにした。
年間で換算すると約21億円という巨額な経費である。
新国立競技場は、建設後50年、100年先の次世代に、レガシー(未来への遺産)として残す施設だろう。そのためには5年ないし10年ごとに保守・改修工事や大規模改修工事を行わないと維持できないのは常識である。
日本スポーツ振興センター(JSC)では、「独立行政法人は一般的には独立採算を前提としないため、法人の業務の実施に必要な資金として、国から運営費交付金や施設整備費補助金等が措置されている」として、新国立競技場の管理運営費について赤字になった場合は、国が責任を持つとしている。長期修繕費についても国の資金をあてにしている。
日本スポーツ振興センター(JSC)では、新国立競技場の維持管理・運営事業については、民間活用の導入を図り、民間ノウハウを最大限に発揮させることで、事業収入の拡大、維持管理・運営の効率化による事業支出の削減を行うとしている。しかし、「黒字」の実現性は未知数である。
果たして新国立競技場を今回の企画案のどちらかで建設したら、果たしてその施設の維持管理に一体どの位かかるのか、収入はどの程度確保可能なのか、収支はどうなるのか、巨額の長期修繕費は誰が負担するのか、さらに不透明さを増している。
やはり新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になる懸念は拭い去れない。
- 巨額の後年度負担が次世代に”
- 建設後50年間に必要な大規模改修費を前回より「400億円」増やして、約「1046」億円と見積もった。高層ビルや公共施設など大規模な構築物は、修復・改修を常に積み重ねていかないと快適な環境は保てないのは常識だろう。通常はこうした経費も収支計画に組み込むのも常識だ。
官公庁の施設マネジメントを行う一般財団法人建築保全センターは、大規模な建築物などの五十年間の長期修繕費について、「すべき修繕、望ましい修繕、事後保全」は建設費の百五十四パーセント、「すべき修繕、望ましい修繕」同九十六パーセント、「すべき修繕」同五十一パーセントとしている。
「事後保全」とは、建造物や設備にトラブルが発生したら、その都度、修理、修復、設備更新を行う修繕作業である。
新国立競技場の場合、可動式屋根や可動式観客席、芝生養生システムや空調設備などの最新鋭設備、他の官公庁の施設に比べて、保守修繕費がかさむのは明らかであろう。
「すべき修繕、望ましい修繕」のケースでは、建設費とほぼ同額の「2419億円」、「すべき修繕、望ましい修繕」のケースでは、「3880億円」が、今後50年の長期修繕費として見込まれているのである。
また鹿島建設では、建築物は竣工後から解体廃棄されるまでの期間に建設費のおよそ3~4倍の経費が必要で、竣工時に長期修繕計画を作成し、計画的に修繕更新を行うが重要としている。 この試算では、「2520億円」の施設を建設すると「7560億円」から「1兆80億円」の後年度負担が、今後50年間に発生することになる。
JSCでは、約「1046億円」でさえ、早くも、ギブアップして、国に財源確保を要請している。
競技場など“箱もの”は、建設費だけ調達すればよいというわけにはいかない。巨額の後年度負担を次世代に着実に残すことになる。
- 新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)第一号か? 巨額の負担を次世代に残してもいいのか?
- 2020年東京大会のキャッチフレーズは「DiscoverTomorrow(未来をつかむ)」である。
新国立競技場の建設にtotoの財源を充当する方針が進められているが、totoは、地域スポーツ活動や地域のスポーツ施設整備の助成や将来の選手の育成など、スポーツの普及・振興に寄与するという重要なミッションがある。Totoは“スポーツ振興くじ”なのである。仮にtotoを財源に1000億円を新国立競技場の建設に拠出するとしたらtotoの創設精神に反するのではないか?
オリンピックの精神にも反するだろう。IOCの“レガシー”では、開催地は、大会開催をきっかけに国民のスポーツの振興をどうやって推進していくのかが重要な課題として問われている。東京大会の“レガシー”は、どこへいったのだろうか?
東京大会コンセプトは「コンパクト」、繰り返し強調しているキーワードである。過去からの資産を大切にしながら明日に向かって進んでいく都市の姿を世界に伝えていくとしている。
2013年9月、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたIOC総会での2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致演説は何だったのだろうか。
“新国立競技場”のキャッチフレーズ、「『いちばん』をつくろう」は実現できるのか?
新国立競技場が“負のレガシー”になる懸念が更に増している。
次回の「新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(4)」では、新デザインの維持管理費、長期修繕費、ライフサイクルコスト、収支見込を整備計画から詳細に検証する。