東京五輪 混迷を繰り返した四者協議~組織委・東京都・国・IOC~

 

五輪開催経費圧縮に動いた小池都知事 森会長との対立激化 五輪巨大批判でIOC窮地に
東京都知事選 小池百合子氏の選挙運動 出典 小池百合子X
「最近では1兆、2兆、3兆と。お豆腐屋さんじゃない。五輪にかかるお金でございます」。東京都知事選に立候補した元防衛相の小池百合子氏は選挙期間中の街頭演説で聴衆にこう呼びかけた。
 2016年7月31日、東京都知事選が投開票されて小池百合子氏が対立候補に大差をつけて圧勝、初当選を果たした。
 小池都知事は、「都政改革本部」を設置して、調査チームの座長に上山信一慶応大教授を起用して、五輪開催経費の縮減に乗り出した。
 2016年9月29日、調査チームは、素早く作業を行い、2か月程度の検証を終え、「結果から申し上げると今のやり方のままでやっていると3兆円を超える、これが我々の結論です」とする報告書を小池都知事に提出した。
 そして、東京都が巨額の経費を投入する海の森水上競技場、有明アリーナ、オリンピック・アクアスティックセンターの整備計画の見直しを提言した。
 これを受けて、小池都知事は、3つの競技会場の抜本的な見直しに動き始めた。
 これに対し、組織委員会の森会長は、激しく反発し、東京五輪の準備作業は暗礁に乗り上げた。小池百合子東京都知事 森喜朗組織員会会長
バッハIOC会長 小池都知事VS森会長の対立激化に危機感  小池都知事との会談に
 小池百合子東京都知事と森喜朗大会組織委会長との対立激化で混迷が深刻化している中で、2020東京五輪大会の準備態勢に危機感を抱いた国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は、急遽、来日して両者の仲介の乗り出すことになった。
 2016年10月18日、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は東京都庁を訪れ、小池都知事との会談に臨んだ。
 バッハ会長は、国、東京都、大会組織委員、IOCで構成する「四者協議」を設置することを提案、小池氏は「五輪会場の見直しは今月中に結論を出し、さまざまな準備を進めていきたい」と述べ、11月に開催することに合意した。
 東京都庁で行われた会談は、当初は、冒頭のみ報道陣に公開する予定だったが、小池都知事の要請で異例の全面公開となった。殺到した取材陣は合計139人、午後2時過ぎに行われたこともあって、民放の情報番組では生中継で会談の模様を伝えた。
 東京五輪開催の“舞台”で繰り広げられたまさに“小池劇場”の最大の見せ場となった。
バッハIOC会長と小池都知事 2016年10月18日 出典 東京都 知事の部屋

小池知事がコスト削減説明 バッハIOC会長は理解示す 四者会合開催で合意
 バッハ会長との会談の冒頭に、小池都知事は「3兆円」に膨れ上がったとされる開催費用のコスト削減について、「(競技場)の見直しについては80%以上の人たちが賛成をしているという状況にある。都政の調査チームが分析し、3つの競技会場を比較検討した。そのリポートを受け取ったところで、今月中には都としての結論を出したい。オリンピックの会場についてはレガシー(未来への遺産)が十分なのか、コストイフェクティブ(費用対効果)なのかどうか、ワイズスペンディングになっているのか、そして招致する際に掲げた『復興五輪』に資しているかがポイントになる」と述べた。
 これに対し、バッハ会長は、小池都知事が五輪開催に際して掲げているコンセプト、「もったいない」を受けて、「“もったいない”ことはしたくない。IOCとしてはオリンピックを実現可能な大会にしたい。それが17億ドル(約1770億円)をIOCが(組織委員会に)拠出する理由だ」と語った。これに対して小池都知事は親指を挙げて笑顔で答えた。
 そして、バッハ会長は、コスト削減を検討する新たな提案として、「東京都、組織委員会、日本政府、IOCの四者で作業部会を立ち上げ、一緒にコスト削減の見直しを行うということだ。こうした分析によってまとめられる結果は必ず“もったいない”ということにはならないと確信している」と「四者協議」の開催を提案した。 
これに対して小池都知事は、「来月(11月)にも開けないか」と応じ、東京都、大会組織委員会、国、IOCによる四者協議の開催が事実上決まった。森喜朗組織委会長も国もいない場で五輪見直しの競技の枠組みが決まったのである
 また抜本的な見直しの検討が進められている焦点の海の森水上競技場については、会談に中では、長沼ボート場や彩湖の具体的な候補地は出されなかった。
 これに対してバッハ会長は、海の森水上競技場の見直しを暗に牽制した。

都政改革本部 五輪調査チーム調査報告書 Ver.0.9 “1964 again”を越えて 2016年9月29日

 小池都知事は、都政改革本部が主導して海の森水上競技場など3会場の抜本的な見直しをまとめ、東京都が主導権を握ってIOCや競技団体と協議を行うという作戦だったと思える。
 ところがバッハIOC会長は、経費削減という総論には賛同しながら、具体的な方策については、「四者協議」の設置を提案して、東京都、組織委員会、政府、IOCの四者で競技場の見直し協議を行うことを提案したのである
 開催経費削減については、海の森水上競技場でいえば、小池都知事と都政改革本部が「長沼ボート場」移転案を掲げたことで、あっという間に、整備費用が約491億円から約300億円に、なんと約190億円削減されることになりそうだ。小池都知事が動かなかったら、東京都民は約190億円ムダにしていたところだ。さらに東京都が再試算すると、オリンピック アクアティクスセンターで約170億円、有明アリーナで約30億円、3施設を合わせて最大で約390億円削減できる見通しとなったとされている。
 約390億円は巨額だ。これも小池都知事の大きな“功績”、東京都民は“感謝”しなければならないだろう。

「四者協議」の作業部会開催 IOCの意向で一切、非公開
2016年11月1日から3日まで開かれた第一回「四者協議」の作業部会は、国際オリンピック委員会(IOC)の意向で、一転して完全非公開とし、「会合の内容については一切公にしない」という密室の場の会議となった。しかも、完全非公開を決めたのは、国際オリンピック委員会(IOC)と組織委員会と相談して決めたとしている。
一方、小池都知事は、「基本的に公開すべきだ」と苦言を呈した。11月中に行われる予定の四者協議トップ級会合はオープンにするとバッハIOC会長の了解を取り付けた小池都知事の立場は丸つぶれである。

「3兆円」は「モッタイナイ」!
 「3兆円」、都政改革本部が試算した2020東京オリンピック・パラリンピックの開催費用だ。オリンピックを取り巻く最大の問題、“肥大化批判”にまったく答えていない。
 東京でオリンピックを開催するなら、次の世代を視野にいれた持続可能な“コンパクト”なオリンピックを実現することではないか。「アジェンダ2020」はどこへいったのか。国際オリンピック委員会(IOC)は、2020東京大会を「アジェンダ2020」の下で開催する最初のオリンピックとするとしていたのではないか。「世界一コンパクな大会」はどこへいったのか。開催費用を徹底的削減して、次世代の遺産になるレガシーだけを整備する、今の日本に世界が目を見張る壮大な施設は不要だし、“見栄”もいらない。真の意味で“コンパクト”な大会を目指し、今後のオリンピックの“手本”を率先して示すべきだ。
 小池東知事は、リオデジャネイロ五輪に参加して帰国後、日本記者クラブで会見して、2020東京五輪大会の開催にあたって、「もったいない Mottainai」というコンセプトを国際的に発信していきたいと宣言した。
 絶対に「3兆円」は「モッタイナイ」! 
 ともかく五輪改革の舞台は、「四者協議」に場に移った。
「四者協議」の実務者作業部会開催 前面に出た東京都 影に追われた大会組織委員会 存在感が無い国 見直しの結論の方向性は出さず
 東京オリンピック競技会場の見直し案などを議論する「四者協議」トップ級会合に先立って、実務者レベルで事前調整をする実務者会合が、2016年11月1日から3日までの3日間に渡って行われた。経費削減に向けて会場整備の見直しに向けて、国、都、IOCで激しい駆け引きが行われた。
 会合には、クリストフデュビIOC五輪統括部長や東京都調査チーム統括の上山信一特別顧問、武藤敏郎組織委員会事務総長、IOCのアスリート委員のコベントリー氏や組織委員会のスポーツディレクターの室伏広治氏らオリンピックのメダリストも参加した。
 2日目の会合では、都政調査チームの上山信一特別顧問が、東京都のボート・カヌー、水泳、バレーボールの3つの競技場の見直し案を説明した。
 国際オリンピック委員会(IOC)と組織委員会は会場変更については慎重な姿勢を示しているとされている中で、会合では、ボート・カヌーとバレーボール競技場の見直し案について激しい議論が行われた。
 この内、海の森水上競技場については、海の森水上競技場の選定に深くかかわった国際ボート連盟の担当者も出席し、大会運営の専門的な立場から意見を述べたが、見直し案の結論の方向性は議論されなかったとされている。
またIOCの出席者からは、施設、輸送、警備費など経費が高額な組織委側の見積もりに対し、IOCから甘さを指摘する意見や、レガシー(遺産)となる部分については、地方自治体の費用負担も必要との意見も出たとされている。
 実務者会合に出席したクリストフデュビIOC五輪統括部長は、会合終了後、記者団に、「とても良い会合だった。3日間の協力について満足している。特定の方向性を打ち出すというよりも事実をつかむための情報交換を行った。東京都民や東京都にとってレガシーを残すための努力はどんなものでも歓迎する。(長沼ボート場や横浜アリーナの)選択肢は残っている。作業部会の目的は決定することではない。決定は4者協議の代表が今月末に行う」と述べ、今回の作業部会では競技会場の見直しの方向性は決めず、作業部会で出た議論を文書にまとめた上で、結論は11月30日に行う予定の四者協議のトップ級会合で出すとした。
 これに対して、小池都知事は、「東京都として複数の案を示した。東京都とIOCが同じ舞台で直接会話し、同じ考えを共有できた。大変に敬意を表したい」の述べ、東京都が国際オリンピック委員会(IOC)と直接、話し合いができる場ができたことを評価した。これまで、国際オリンピック委員会(IOC)は大会組織委員会を窓口に大会開催計画を話し合って、事実上、決めてきた。 「四者協議」が始まったことで、東京都がIOCの「交渉相手」として加わったことで、大会組織委員会の影が薄くなった。 大会組織委員会は“主導権”を失い、東京都が表舞台に躍り出た。

* 11月29日開催される四者協議トップ級会合は、「テクニカルグループミーティング関する報告とまとめ」と「今後については公開され、「議事整理」は非公開としていたが、小池都知事の直前の提案ですべて公開に変更
実務者作業部会再開 隔たりは埋まらず難航 結論はトップ級会合に先送り
 2016年11月27日、東京都、政府、組織委員会、IOC=国際オリンピック委員会の4者協議作業部会が再び開かれ、競技会場の見直しや開催経費削減などについて議論が行われた。
 作業部会はIOCのデュビ五輪統括部長、都の調査チームの上山信一慶応大教授、組織委の武藤敏郎事務総長などが出席し出席非公開で行われ、焦点のボートとカヌー、バレーボール、水泳の3つの競技会場を中心に、6時間に渡って議論が行われた。競技会場の見直しについては、東京都の提案を元に、11月初めの第一回会議で課題の洗い出しが行われ、その後、候補となっている会場の視察や費用の分析が進められてきた。
 会議終了後、IOCのクリストフ・デュビ五輪統括部長は「各競技会場について詳細に検討した結果をトップ級会合に提示する。その場で最終的な決断するのか、さらに検討を求めるかは彼ら次第だ」と述べ、トップ級会合で最終的な“結論”を出すとしたが、先送りされる可能性も示唆した。一方、小池都知事も「決まるものは決まるかもしれないし、決まらないものは先に送ることになるかもしれない。明日の協議次第だと思っている」と先送りの可能性について述べている。仮に海の森水上競技場や有明アリーナが、計画は変更されるにしても予定通り建設されることになれば、それと“引き換え”に、小池都知事はIOCや組織委員会に経費削減策の具体策を求めることになるのは必至だろう。
 最終的な“結論”に至るかどうかの主導権は小池都知事に握られているのである。
 29日のトップ級会合は公開予定で、民放の午後の情報番組やNHKでは生中継も行われる。
 3会場のうち、バレーボールは当初計画の有明アリーナ(江東区)新設、横浜アリーナ(横浜市)活用の2案を中心に最終調整している。最も時間を費やして議論をしたとされている。東京都案としてバレーボール会場に急浮上した国立代々木競技場は、結局、議題には上がらなかったとされ、事実上、代々木案は消滅したと見るむきもあるが、トップ級会合で浮上する可能性もあり、議論は難航しそうだ。ボート・カヌー会場は湾岸部に新設する海の森水上競技場を仮設施設として整備する方向が有力、大会開催後の利用の見通しについても議論された。オリンピック アクアティクスセンターは、観客席を計画の2万席から1万5千席に削減する案が検討されたが、特に異論はなかった模様だ。
 また、大会経費を抑える新たな仕組みについて具体策の検討が行われた。資材を安く調達したり、第三者による専門家チームが費用の妥当性を検証したりするなど、民間の手法を取り入れる方針だ。
 東京大会の開催費用については、東京都の調査チームは総予算が“3兆円”を超える可能性があるとしたが、四者協議作業部会は、“2兆円”との試算のをまとめ、トップ級会合に報告する予定だ。IOCは組織委の資材調達費用が高すぎる点などを見直し、経費削減を指示していたと伝えられている。
 これでようやく東京大会の開催経費の総額が初めて公式に明らかにされることになった。しかし、これが開催経費問題の“終着点”ではなく、これから開催経費の具体的な項目を個別に厳しくチェックし、経費削減をさらに図る努力が必須だ。これまでの予算管理の“青天井”体質とは決別しなければならない。
(参考 朝日新聞 読売新聞 毎日新聞 NHK 時事通信 2016年11月28日)
四者協議トップ級会合 開催経費「2兆円」 IOC同意せず 海の森水上競技場、アクアティクスセンターは新設 バレーボール会場は先送り
 2016年11月29日、東京大会の会場見直しや開催費削減などを協議する国際オリンピック委員会(IOC)、東京都、大会組織委員会、政府の4者のトップ級会合が、東京都内で再開され、焦点の3競技会場について、ボートとカヌー・スプリント会場は計画通り海の森水上競技場を整備し、水泳競技場はアクアティクスセンター(江東区)を観客席2万席から1万5000席に削減して、大会後の「減築」は止めて、建設する方針を決めた。オリンピック アクアスティック センター 出典 Tokyo2020
 一方、バレーボール会場については、有明アリーを新設するか、既存施設の横浜アリーナを活用するか、最終的な結論を出さず、12月のクリスマスまで先送りすることになった。しかし横浜アリーナの活用案は、競技団体の有明アリーナ意向が強いとして、「かなり難しい」(林横浜市長)情勢だ。
 都の調査チームがボート・カヌー会場に提案していた長沼ボート場は、ボート・カヌー競技の事前合宿地とすることを、コーツIOC副会長が“確約”し、小池都知事も歓迎した。
 海の森水上競技場は当初の491億円から300億円前後に整備費を縮減。アクアティクスセンターは座席数を2万から1万5000席に減らし、大会後の減築も取りやめたことで当初の683億円から513億円に削減された。
四者協議トップ級会合 メディアに公開して開催 2016年11月29日 出典 Tokyo2020
小池都知事 四者協議トップ級会合 2016年11月29日 出典 Tokyo2020
開催経費「2兆円」 IOC同意せず
 高騰が懸念されている開催経費について、組織委員会の武藤敏郎事務総長は「総予算は2兆円をきる」との見通しを示し、「これを上限として、予算を管理しなければならない」とした。
 これに対し、IOCのコーツ副会長は「2兆円が上限というのは高過ぎる。それよりはるかに削減する必要がある」と述べ、さらに削減に努めるよう強く求めた。
 またコーツ副会長は、会合終了後、記者団に対し、組織委員会が示した2兆円という大会予算の上限については組織委員会が示した2兆円という大会予算の上限については、「特に国際メディアの人に対して」と注釈を付けた上で、「IOCが2兆円という額に同意したとは誤解してほしくない」と、了承していないことを強調した。その理由については、「大会予算は収入とのバランスをとることが大切で、IOCとしては、もっと少ない予算でできると考えている。現在の予算では、調達の分野や賃借料の部分で通常よりもかなり高い額が示されているが、その部分で早めに契約を進めるなどすれば、節約の余地がある」と述べた。
“肥大化批判” IOC存続の危機
 国際オリンピック委員会(IOC)もその存在を揺るがす深刻な問題を抱えている。オリンピックの“肥大化”批判である。巨額な開催経費の負担に耐え切れず立候補する開催地がなくなるのではという懸念だ。
 2024年夏季五輪では、立候補地は、当初は、パリ、ボストン、ローマ、ブタペスト、ハンブルだった。この内、ボストンは、米国内での候補地競争を勝ち取ったが、市長が財政難を理由に大会運営で赤字が生じた場合、市が全額を補償することに難色を表明、立候補を辞退した。その後、ロサンジェルスが急遽、ピンチヒッターで立候補することになった。ローマは新しく当選した市長が、財政難を理由に立候補撤退を表明、「オリンピックを招致すればローマの債務はさらに増える。招致を進めるのは無責任だ」とした。しかし、組織委員会は活動継続を表明し混乱が続いている。ハンブルグでは招致の是非を問う住民投票が行われ、巨額の開催費用への懸念から反対多数で断念した。
 結局、立候補地は4つになった。2008年(北京五輪)の立候補地は10、2012年(ロンドン)は9、2016年(リオデジャネイロ五輪)は7、2020年(東京)は6で、2008年の半分以下に激減した。さらに悲惨なのは、冬季五輪で、2018年(平昌五輪)は3、2022年(北京)は、最終的には北京とアルマトイ(カザフスタン)だけで、実質的に競争にならなかった。しかし、このほかに、ストックホルム(スウェーデン)、クラクフ(ポーランド)、リヴィウ(ウクライナ)、オスロ(ノルウェー)の4か所が立候補を申請したが、いずれも辞退した。
 ストックホルムは、1912年夏季五輪を開催し、冬季五輪が開催されれば史上初の夏冬両大会開催地となるはずだった。2014年1月にスウェーデンの与党・穏健党は招致から撤退する方針を発表した。ボブスレーやリュージュの競技施設の建設に多大な費用がかかる上、大会後の用途が少ないことなどを理由に挙げている。
クラクフ は、ポーランド南部に位置する旧首都、開催地に選ばれれば同国初の五輪開催となる。2014年5月に行われた住民投票で、反対票が全体の7割近くを占めたため、招致から撤退した。
 リヴィウは、ウクライナ西部の歴史的な文化遺産が数多く残る都市である。開催地に選ばれれば、同国で初の五輪開催となる。しかし、2014年6月に緊迫化すウクライナ情勢で立候補を取りやめると発表した。
ノルウェーは、1952年にオスロオリンピック、1994年にリレハンメルオリンピック開催している。2013年9月に住民投票を行い、支持を得られたことで立候補を表明した。しかしIOCの第1次選考を通過していたにもかかわらず2014年10月、招致から撤退する方針を明らかにした。ノルウェー政府が巨額の開催費などを理由に財政保証を承認しなかったとされている。
 開催費用の巨額化で、相次ぐ立候補撤退、このままでは、やがてオリンピック開催を立候補する都市はなくなるとまで言われ始めている、国際オリンピック委員会(IOC)は、オリンピックの存在をかけて改革に取り組む必要に迫られているのである。
「アジェンダ2020」を策定したバッハIOC会長
 2013年、リオデジャネイロの国際オリンピック委員会(IOC)総会で、ロゲ前会長と交代したバッハ会長は、オリンピックの肥大化の歯止めや開催費用の削減に取り組み、翌年の2014年の「アジェンダ2020」を策定する。
 「アジェンダ2020」は、合計40の提案を掲げた中長期改革である。
 そのポイントは以下の通りだ。
* 開催費用を削減して運営の柔軟性を高める
* 既存の施設を最大限活用する
* 一時的(仮設)会場活用を促進する
* 開催都市以外、さらに例外的な場合は開催国以外で競技を行うことを認める
* 開催都市に複数の追加種目を認める 

 2016年10月20日、都内でバッハIOC会長の来日記念式典が開かれ、東洋の文化、書道を体験してもらうイベントが行われ、バッハIOC会長は、一筆入れて下さいという要請に答え、「五輪精神」の「神」の字に筆を入れて、「五輪精神」の四文字の書を完成させ喝采を浴びた。
 その後にスピーチで「オリンピックの運営という観点での『アジェンダ2020』の目標は、経費削減と競技運営の柔軟性を再強化することだ。これは大きな転換点だ」と強調した。
 今回バッハIOC会長と共に来日したコーツ副会長も、2000年シドニー五輪で大会運営に加わり、経費削減に辣腕をふるって、大会を成功に結び付けた立役者とされている。
 国際オリンピック委員会(IOC)にとっても、肥大化の歯止めや開催費用の削減は、オリンピックの存亡を賭けた至上命題なのだ。持続可能なオリンピック改革ができるかどうか、瀬戸際に追い込まれているのである。
世界に恥をかいた東京五輪 “ガバナンス”の欠如
 「大山鳴動鼠一匹」、「0勝3敗」、小池都知事の“見直し”に対してメディアの見出しが躍り始めた。しかし会場変更は手段であって目的はない。目的は“青天井”のままで膨れ上がり、“闇”に包まれたままの開催経費の削減と透明化だ。
 海の森水上競技場については、11月30日放送の報道ステーションに出演した小池都知事は、「仮設というと安っぽい響きがあるので、“スマート”に名前を変えたらどうか。名前を変えるだけで随分スマートになる」とし、20年程度使用する「仮設レベル」の“スマート”施設として、建設費297億円で整備することを明らかにした。これまでの計画では約491億円とされていたのが約200億円も圧縮されたのである。
 海の森水上競技場の整備問題は、2020年東京オリンピック・パラリンピックの準備体制の“杜撰さ”を象徴している。唖然とする“お粗末”としか言いようがない。整備費の変遷を見るとその“杜撰さ”は明快だ。  招致段階の「69億円」、見直し後の「1038億円」、舛添前都知事の見直しの「491億円」、最終案の「298億円」、その余りにも変わる整備費には唖然とする。「69億円」は杜撰を極めるし、「1038億円」をそのまま計画に上げた組織の良識を疑う。そして小池都知事が「長沼ボート場案」を掲げたら、一気に300億円台に削減されたのも唖然というほかない。
 やはり東京大会の運営組織のガバナンスの欠如が露呈している。海の森水上競技場以外に同様に“杜撰”に処理されている案件が随所にある懸念が生まれる。事態は、予想以上に深刻だ。
4者協議のトップ級会談で、組織委員会の武藤事務総長は“2兆円”を切る”と言明したが、コーツIOC副会長に「“2兆円“の上限だが、それでも高い。節約の余地が残っている。2兆円よりずっと下でできる。IOCは、それをはっきりさせたい」と明快に否定された。
 実は、“2兆円”の中で、新国立競技場や東京都が建設する競技場施設の整備費は20%程度で、大半は、組織委員会が予算管理する仮設施設やオーバーレイ、貸料、要員費などの大会運営費を始め、暴騰した警備費や輸送費などで占められているのである。IOCからはオーバーレイや施設の貸料が高すぎると指摘され、“2兆円”を大幅に削減した開催経費を年内にIOCに提出しなければならない。勿論、経費の内訳も明らかにするのは必須、都民や国民の理解を得るための条件だ。  組織委員の収入は約5千億程度とされている。開催経費の残りの1兆円3000億円以上を、国、都、関係地方自治体が負担しなければならない。一体、誰が、何を、いくら負担するのか調整しなければならない。しかし未だに実は何もできていないことが明らかになっている。
ガバナンスの欠如が指摘されている今の組織委員会の体制で調整が可能なのだろうか?  国際オリンピック委員会(IOC)にも危機感が生まれているだろう。世界は東京大会の運営をじっと見つめているに違いない。  2020年まで4年を切った。
会見終了後、自ら進んで笑顔で握手して報道陣に“親密さ”アピール 2016年12月2日 筆者撮影

四者協議トップ級会合 東京・台場 2016年11月29日 筆者撮影
上山都政改革本部調査チーム座長と小池都知事 四者協議トップ級会合
海の森水上競技場建設予定地  出典 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

東京五輪開催経費 最大1兆8000億円を提示 バレーボール会場として有明アリーナ建設が決まる 四者協議のトップ級会合
四者協議トップ級会合 メディアに公開 2016年12月21日 出典 Tokyo 2020 / Shugo TAKEMI 
森喜朗組織委会長
小池東京都知事
丸山珠代五輪担当相 コーツIOC副会長はシドニーからテレビ電話で参加 

 2016年12月21日、東京都、組織委員会、政府、国際オリンピック委員会(IOC)の四者協議のトップ級会合が開かれ、組織委員会が大会全体の経費について、最大1兆8000億円になると説明した。組織委員会が大会全体の経費を示したのは今回が初めてである。
 会議には、テレビ会議システムを使用され、コーツIOC副会長がシドニーで、クリストフ・デュビ五輪統括部長がジュネーブで参加した。
 冒頭に、小池都知事が、先月の会議で結論が先送りされたバレーボールの会場について、当初の計画どおり「有明アリーナ」の新設を決めたとした。「有明アリーナ」は、五輪開催後はスポーツ・音楽などのイベント会場、展示場として活用すると共に、有明地区に商業施設やスポーツ施設も整備し、地区内に建設される「有明体操競技場」も加えて、“ARIAKE LEGACY AREA”と名付けた複合再開発を推進して五輪のレガシーしたいと報告し了承された。
 「有明アリーナ」の整備費は約404億円を約339億円に圧縮し、東京都、民間企業に運営権を売却する「コンセッション方式」を導入して、民間資金を活用する。競技場見直しを巡る経緯について、小池都知事は「あっちだ、こっちだと言って、時間を浪費したとも思っていない」と述べた。
 これに対して、コーツIOC副会長は「協議を通して3つの会場に関して予算が削減できたし、有明アリーナの周りのレガシープランについても意見が一致した。こうした進展を喜ばしく思っている」と称賛した。

 一方、組織委員会は大会全体の経費について、1兆6000億円から1兆8000億円となる試算をまとめたことを報告し、組織委員会が5000億円、組織委員会以外が最大1兆3000億円を負担する案を明らかにした。
 小池都知事は「IOCが示していたコスト縮減が十分に反映されたものということで、大事な「通過点」に至ったと認識している」と述べた。
 これに対して森組織委会長は「小池都知事は『通過点』と行ったが、むしろ『出発点』だと思っている。今回の件に一番感心を持っているのは、近県の知事の皆さんである」とした。
 一方、コーツIOC副会長は、「1兆8000億円にまで削減することができて、うれしく思っている。IOC、東京都、組織委員会、政府の4者はこれからも協力してさらなる経費削減に努めて欲しい」と「1兆8000億円」の開催予算を評価した。
 また開催経費分担について、小池都知事は、「コストシェアリングというのは極めてインターナルというかドメスティックな話なので、この点については、4者ではなく3者でもって協議を積み重ねていくことが必要だ」とし、「東京都がリーダーシップをとって、各地域でどのような形で分担ができるのか、早期に検討を行っていきたい」と述べ、年明けにも都と組織委員会、国の3者による協議を開き、検討を進める考えを示した。




小池都知事が主導権か 四者協議トップ級会合
 四者協議トップ級会合は当初、一部非公開で議論される予定だったが、小池百合子都知事の意向で完全公開となった。会合後に記者団に対して、小池知事は、「フルオープンでない部分があると聞いて、だったら最初から結論を言ったほうがいいと思って、そのようにした」と述べ、変更した理由を明らかにした。まずは異例の“全面公開”の会合にすることで小池都知事のペースで始まった。
 小池都知事は、議論を後回しにして、冒頭で「ボート・カヌー会場は海の森水上競技場、オリンピック アクアティクスセンターは予定通り建設、バレーボール会場は先送り」の東京都案を明らかにした。これに対して組織委員会は不満の意を唱えたが、進行役のコーツIOC副会長が引き取って、IOCとして東京都案を支持すると表明し、東京都案はあっさり承認された。
 小池都知事は会合開始直前に、コーツ副会長に“直談判”をして、“全面公開”と“バレーボール会場の先送り”を承諾してもらったことを、報道ステーション(11月30日)に出演して、明らかにしている。小池都知事は、ボート・カヌー会場を海の森水上競技場することの“見返りに”、バレーボール会場の先送りをIOCに認めさせたのであろう。IOCは、渋々認めたというニュアンスが、「(横浜アリーナの検証作業は)大変な作業になる。野心のレベルが高い作業だ」(コーツ氏)という発言から伺える。
 また小池都知事は、「日常的にメールでコーツ副会長とは連絡を取り合っている」(報道ステーション)と、コーツ副会長とのホットラインが築かれていることを明らかにした。どうやらIOCとのパイプは、森氏だけではなくなったようである。会合が終わって、真っ先に小池都知事がコーツ副会長に近づいて笑顔で握手をしていた。
 森組織委会長は、東京都のバレーボル会場の横浜アリーナ案について強く反発し、「クリスマスまで何を検証するのか」とか「僕の知りうる情報では横浜の方が迷惑していると聞いている」としたが、これに対して小池都知事は「横浜市にも賛同してもらったところで、お決め頂いたら是非やりたいという言葉を(横浜市から)もらっていた」と反論した。
 双方、言い分がまった違うので、一体どうなっているのかと思ったら、会合終了後、組織委員会から記者団に対して、「先ほどの森組織委会長の発言は、“迷惑”としているのは事前に何の相談もなかった競技団体で、『横浜』ではありません」と訂正要請がされた。森組織委会長は小池都知事にボート・カヌー会場の見直しや横浜アリーナ案に対して、たびたび強い口調で批判をし、両者の間に“火花”が散っていた。  ちなみに林横浜市長は「困惑はしていない。要請があればそこからスタートする。ちなみに林横浜市長は「困惑はしていない。要請があればそこからスタートする。積極的に是非やってほしいという言い方はとてもできない」と微妙な立場を述べている。  また横浜市は東京都と組織委員会に対して、書面(11月25日付)で「国際、国内の競技団体、さらにIOCの意向が一致していることが重要」とか「(民有地を利用する際の住民理解や周辺の道路封鎖などは)一義的に東京都や組織委員会が対応すべき」と事実上難色を示しているこが明らかになった。横浜市は、四者協議の資料として提出したもので、具体的な内容は「配慮のお願い」で新たな意思決定ではないとした。
 さらに開催費用の議論については、東京五輪大会をめぐる“迷走”ぶりを象徴している。
 森組織委会長は、「“3兆円”を国民に言われるとはなはだ迷惑だ」と都政改革本部を批判した。これに対して小池都知事は「“3兆円”は予算ではなく、大会終了後、結果として総額でいくらかかったかを試算するものだ。予算段階では公にできないものもある」と反論した。また森組織委会長は、「警備費や輸送費などは国が持つことを検討してほしい」と述べたのに対し、丸川五輪相は「平成23年の閣議了解で大会運営費は入場料収入や放送権収入でまかなうとしている」と述べ、否定的な姿勢を示した。IOCのメンバーを前に、開催費用や費用負担を巡って、組織委員会、国、都がバトルを繰り広げたのである。コーツIOC副会長は、「関心を持って聞いた」としたが、本音、何ともお粗末な東京五輪の運営体制と唖然としたに間違いないだろう。東京大会の招致で高らかに世界各国に訴えた“マネージメント力の卓越さ”は一体、どこへいったのか?
 組織委員会は、開催費用の総額を“2兆円”とトップ級会合で明らかにして四者協議でコンセンサスを得たいという思惑があったと思える。しかし、IOCから“2兆円”は高額過ぎると批判を浴び、結局、“2兆円を切る”というおおまかなことしか明らかにできなかった。組織委員会は東京五輪の開催経費の総額と詳細を今回も示せなかった。その“2兆円”もIOCから否定され、さらに大幅に削減するように求められた。組織委員会の面目はまるつぶれ、お粗末さを露呈した。IOCにとって、“経費削減”、“肥大化の歯止め”は、五輪大会の持続性を確保するために至上命題なのである。“2兆円”を1兆円以上切り込む必要が迫られている。その対象は競技場の建設費ではなく、組織委員会が管理する大会運営費である。瀬戸際に立たされたのは組織委員会だ。  一体の東京五輪の開催経費の総額は、いつ明らかにされるのだろうか? 個々の競技場の建設費問題よりはるかに重要だ。
 東京五輪の“迷走”と“混乱”はまだまだ続きそうだ。
コーツIOC調整委員長と小池東京都知事 筆者撮影
開催経費「1兆8千億円」は納得できるか?
 2016年12月21日開催された4者協議で、武藤事務総長は「組織委員会の予算が、膨れ上がったのではないかいという報道があったが、そのようなものではない。ただ今申し上げた通り、IOCと協議をしつつ、立候補ファイルでは盛り込まれてはいなかった経費(輸送費やセキュリティ費)を計上して今回初めて全体像を示したものだ」と胸を張った。
 “膨れ上がってはいない”と責任回避をする認識を示す組織委員会に、さらに“信頼感を喪失した。
 東京大会の開催経費は、立候補ファイル(2012年)では、「大会組織予算」(組織委員会予算)と「非大会組織予算」(「その他」予算)の合計で7340億円(2012年価格)、8299億円(2020年価格)とした。これが、最大「1兆8千億円」、約2.25倍に膨れ上がったのは明白だ。組織委員会は“膨れ上がった”ことを認めて、その原因を説明する義務がある。
 さらに最大の問題は「1兆8千億円」の開催経費の総額が妥当かどうかである。
 海の森水上競技場の整備費の経緯を見ると大会準備体制のガバナンスの“お粗末さ”が明快にわかる。
 招致段階では、「約69億円」、準備段階の見直しで「約1038億円」、世論から強い批判を浴びると、約半分の「491億円」に縮減、小池都知事の誕生し、長沼ボート場への変更案を掲げると、「300億円台」、最終的に「仮設レベル」なら「298億円」で決着した。
やはり東京五輪大会の運営組織のガバナンスの欠如が露呈している。
 海の森水上競技場以外に、同様に“杜撰”に処理されている案件が随所にある懸念が生まれる。「1兆8千億円」の開催経費の中に、縮減可能な経費が潜り込んでいると見るのが適切だろう。組織委員会の予算管理に対する“信用”は失墜している。「1兆8千億円」の徹底した精査と検証が必須である。
 「1兆8千億円」という総額は明らかにしたが、その詳細な内訳については、公表していない。「1兆8千億円」が妥当な経費総額なのかどうか、このままでは検証できない。まず詳細な経費内訳を公表する必要があるだろう。
 その上で、東京都、国、開催自治体の間で、誰が、いくら負担するかの議論をすべきだ。

「開催費用1兆8千億円」だったら東京五輪招致を世論は支持したか?
 組織委員会は「開催経費は決して膨れ上がっていない」と胸を張っているが、当時想定できなかった経費がその後加わったのか、想定はしていたが大会開催経費をなるべく少なく見せるために意識的に加えなかったのかはよく分からない。しかし、森喜朗会長自らTBSのニュース番組(2016年5月16日)に出演し、当初の大会予算について「最初から計画に無理があったんです。「3000億でできるはずないんですよ」と述べていた。
 舛添前都知事も「舛添要一東京都知事は、「『目の子勘定』で(予算を作り)、『まさか来る』とは思わなかったが『本当に来てしまった』という感じ」とした上で、「とにかく誘致合戦を勝ち抜くため、都合のいい数字を使ったということは否めない」とテレビ番組に出演して話している。
 あっさり「1兆8000億円」と言ってもらいたくない。
開催費用を巡ってはまさに“無責任体制”のまま進められていたのである。
 2020東京五輪大会に立候補する際に、「開催費用 1兆8千億円」としたら、都民や国民は招致を支持しただろうか。招致の責任者の説明責任が問われてもやむを得ないだろう。

「組織委員会5000億円」 収支支均は帳尻合わせ
 12月21日に開催された4者協議で、森組織委会長は「決して組織委員会のお金が5000億で、それより大きくなったので、その負担をなにか東京都と国に押し付けているのではないかいという報道がよくあるが、これはまったく違う」と述べた。
 組織委員会の提示した予算は、「組織委員会」が「5000億円」で「収支均衡予算」、東京都や国、開催自治体が「1兆3000億円」とした。
しかし、実態は、組織委員会の収入は「約5000億円」、収入から逆算して組織委員会の負担を「5000億円」に“調整”して、残りの「1兆3000億円」を、組織委員会以外の東京都、国、開催地方自治体の負担としたのであろう。なりふり構わず苦し紛れの“帳尻合わせ”予算と見るのが合理的である。
組織委員会が負担すべき経費は、精査して積み上げたとしているが、どの経費を、いくらを合理的に積算したかは明らかでされていない。
 その象徴が、仮設関連経費だ。予算書では、「組織委員会」が「800億円」、「その他」が「2000億円」としたが、どんな根拠で、どのように仕分けしたのか明らかにしていない。その他、「ソフト[大会関係]」の輸送、セキュリティ、テクノロジー、オペレーションもどうようだ。「予備費」を全額「その他」に計上するのも、組織委員会の予算管理の責任を曖昧にすることにつながりかねない。
新国立競技場や海の森水上競技場、オリンピック アクアティクスセンター、有明アリーナなどの東京都が整備する恒久施設の経費は、すでに整備費が見直され、誰がどれだけ負担するか明らかになっている。同様のプロセスが必須だ。
 組織委員会の予算を、なにがなんでもなりふり構わず“均衡予算”にしないと、IOCの了解が得られなかったからであるからであろう。“みせかけ”の“均衡予算”になった。その“矛盾”は直ちに露呈するだろう。
 組織委員会が本来負担すべき経費を適正に積算して、総額がいくらなのかをまず明らかにするべきだろう。その上で、立候補ファイルの「3013億円」と比較して、経費が膨れ上った原因を明らかにすべきだ。
その上で、“帳尻”合わせの“操作”をしないで、“組織委員会の“赤字”は一体、どのくらいになるのかを明らかにし、責任の所在を明確にすることが必要だ。東京都や国、開催自治体に負担を要請するのはその後である。
 このままでは、組織委員会の開催予算管理の“杜撰”な体質が一向に改まらない懸念が大きい。
五輪開催経費 大会組織委、東京都、国の負担割合は不明瞭
 そもそも「1兆8千億円」には、大会組織委員会が負担する経費だけではなく、東京都や国が負担する経費も含まれている。立候補ファイル(2012年)でも、「大会組織予算」(組織委員会予算)と「非大会組織予算」(「その他」予算 東京都や国、地方自治体が負担する予算)に分けて開催予算を提示している。

 「警備費」は、「組織委員会」が「200億円」、「その他」が「1400億円」とした。 競技会場や選村、IBC/MPCなどの施設内や施設周辺の警備費は、組織委員会が負担するのは当然で、「200億円」の負担は少なすぎる。大会組織委員会の負担をなるべく少なく見せかけ、帳尻合わせをしたと思える。
 一方VIP関連の輸送、交通機関や主要道路、成田空港や羽田空港、さらに霞が関の政府機関、東京都庁や主要公共機関、電力・通信などの主要インフラ施設など警備まで組織委員会の経費で負担させるのは合理性を欠く。国の責任が重要となる。伊勢志摩サミットでは国が約340億円の警備費を負担した。東京五輪大会の規模ともなるとこの数倍は楽に超えるだろう。国は五輪に関わる警備費は一体いくらになるのか明らかにする必要がある。

 また「輸送費」ついては、「組織委員会」が「100億円」、「その他」が「1300億円」としたが、選手や大会関係者のシャトルバス運行に伴う経費などは組織委員会が負担するのは当然だろう。地方開催の場合の選手や大会関係者の輸送も大会の責任だろう。これも「100億円」とするのは過少計上である。
 しかし、VIPの選手や大会関係者の輸送に伴うオリンピック専用レーンの設置は、首都高速道路、湾岸道路などに広範囲に必須とされているが、その約200億弱とされている通行制限に伴う高速道路会社への補てん費等は、東京都や国なども応分の負担するのは当然だろう。組織委員会と案分するのが筋である。

 「テクノロジー」や「オペレーション」については、それぞれ総額「1000億円」としたが、 内訳が示されていないため、経費総額の根拠が極めて曖昧になっている。
 「組織委員会」と「その他」の仕分けは、ほぼ折半とされているがこれも不明瞭だ。
しかし今回は、「1000億円」は総額だけが記入されているまったく白紙同様の請求書を組織委員会が国、東京都に出したのである。これでは到底、納得することはできないだろう。
 「その他」の経費、「1150億円」は巨額だが、内訳が明らかでない。精査する必要が必須である。
 また「3000億円」としている予備費を国や東京都などの「その他」に計上していることは納得できない。組織委員会の予算管理責任を曖昧にするからである。
 森組織委会長は「そして運営だとか場所の設定だとかその他もろもろのことがこれからある。改装の問題、エネルギーの問題、セキュリティの問題、いろいろある。セキュリティひとつにしてもどこが持つのか、やってみなければわからない。何が起きるのか不確定要素は多い。この東京大会は、特に夏だし、あるいは台風の多い時だ。何があるかこれからわからない。まだ3年、4年先の話だ」と述べている。
自然災害や不測の事態が発生して、開催経費が膨れ上がり、予備費で補填するのはやむを得ないだろう。一方、組織委員会の予算管理を厳重に監視する必要がある。東京五輪大会の開催経費を巡る“混迷”を振り返ると、新国立競技場や海の森水上競技場など、その“青天井”体質への歯止めが必須だ。






地方自治体は開催経費の負担に抵抗 “混迷”はさらに深刻化
 四者協議トップ級会合で競技会場整備計画の見直しは結論がでたが、「1兆8千億円」にも上る開催経費の負担を巡っては、“混迷”を極めている。
 「あくまでも主催は東京都」(森組織委会長)、「都と国の負担を注視する」(小池都知事)、「なぜ国でなければならないのか」(丸川珠代五輪担当相)、「開催経費は組織委員会が負担すべき」など、組織委員会、東京都、国の三者間で互いを牽制する発言が飛びかい、費用負担を巡って険悪な雰囲気が立ち込めている。さらに、東京都以外で競技を開催する自治体は、経費を押し付けられるのではと不信感が強まり、混迷は深刻化していた。
 12月26日、東京都以外で競技を開催する自治体の知事などが東京都を訪れ、関係する自治体のトップらが東京都の小池知事に対し、計画どおり組織委員会が全額負担するように要請した。
 これに対して、小池都知事は「年明けから関係自治体との連絡体制を強化する協議会を立ち上げる。東京都・国・組織委員会で協議を本格化させ費用分担の役割について年度内に大枠を決める」とした。
 2020東京大会では、東京都以外の競技会場が現時点で合わせて6つの道と県の13施設・15会場に及ぶ。
 その後、組織委員会を訪れ、森組織委会長と会談した。
 会議の冒頭、黒岩神奈川県知事が「費用負担は、立候補ファイルを確認して欲しい」と口火を切った。立候補ファイルには「恒久施設は自治体負担、仮設施設は組織委員会」と記載されている。
 これに対して、森組織委会長は費用分担の話し合いが遅れたことを謝罪した上で、「小池さんが当選された翌日ここに挨拶に来られた。早くリオオリンピックが終わったら会議を始めて下さいとお願いした。待つこと何カ月、東京都が始めない、それが遅れた原因だ」とその責任は会場見直し問題を優先させた東京都にあるとした。
 さらに「(開催費用分担の原則を記載した)立候補ファイルは、明確に申し上げておきますが、私でも遠藤大臣でもなく東京都が作った。もちろん組織委員会さえなかったこれで組織委員会と怒られてもね。僕らがあの資料をつくったわけではないんです。私が(会長)になった時は、あれができていた」と述べた。
 サッカー競技の開催が決まっている村井宮城県知事に対しては、「村井さんの場合はサッカーのことでお見えになったんですよね。これは実は組織委員会ができる前に決まっていたんです。村井さんの立場はよく分かるけれども私どもに文句を言われるのはちょっと筋が違う」とした。
そしてボート・カヌー会場の見直しで宮城県の「長沼ボート場」が浮上した際に、村井氏が受け入れる姿勢を示したことにも触れ、「(長沼に決まっても)東京都がその分の費用を出せるはずがない。だからあなたに(当時)注意した」と牽制した。
 これに対して、村井宮城県知事は、「あの言い方ちょっと失礼な言い方ですね。組織委員会ができる前に決まったことは、僕は知らないというのは無責任な言い方ですね。オリンピックのためだけに使うものというのは当然でききますのでそれについては宮城県が負担するというのは筋が通らない」と反論した。
 12月21日の4者協議で、組織委員会、東京都、国の開催費用分担を巡って対立する雰囲気を感じ取ったコーツIOC副委員長は、組織委員会、東京都、国、開催自治体で「“経費責任分担のマトリクス”」を次の4者協議までに示して欲しい。これはクリティカルだ」と強調した。IOCからも東京五輪大会のガバナンスの“お粗末”さを、またまた印象づける結果となった。
 「準備が半年は遅れたのは東京都の責任」(森組織委会長)などと“無責任”な発言を繰り返しているようでは、東京五輪大会の“混迷”は一向に収まること知らない。

“青天井”? 五輪開催経費
 2020東京五輪大会の開催経費については、「1兆3850億円」では、到底、収まらないと思われる。
国が負担するセキュリティーやドーピング対策費は「1兆3850億円」には含まれてはいない。経費が膨張するのは必至とされているが、見通しもまったく示されていない。唖然とするような高額の経費が示される懸念はないのだろうか。
また今後、計画を詰めるに従って、輸送費や交通対策費、周辺整備費、要員費等は膨れ上がる可能性がある。
 「予備費3000億円」はあっという間に、使い果たす懸念がある。
組織委員会の収入も、2016年12月の試算から1000億円増で「6000億円」を目論んでいるが、本当に確保できるのであろうか。
 五輪関係経費は、国は各関連省庁の政府予算に振り分ける。各省庁のさまざまな予算項目に潜り込むため、国民の眼からは見えにくくなる。大会経費の本当の総額はさらに不透明となる。東京都の五輪関係経費も同様であろう。
また大会開催関連経費、周辺整備費、交通対策費などは、通常のインフラ整備費として計上し、五輪関連経費の項目から除外し、総額を低く見せる“操作”が横行するだろう。
 あと3年、2020東京五輪大会に、一体、どんな経費が、いくら投入されるのか監視を続けなければならいない。ビックプロジェクトの経費は、“大会成功”という大義名分が先行して、“青天井”になることが往々にして起きる。

2020東京大会のキャッチフレーズ、“世界一コンパクな大会”はどこへ行ったのか。

2016年12月22日  初稿
2017年7月1日   改訂
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