新国立競技場 建設費 建設単価 坪単価 破格に高額 1550億円

国立競技場   出典 JSC

新国立競技場竣工 破格に高額 「1550億円」
 迷走に迷走を重ねた新国立競技場が、全体工期36か月を経て、計画通りに11月30日に予定通り竣工した。
 新国立競技場の整備経費については、1590億円を上限として、賃金や物価変動が発生した場合のスライド、消費税10%の反映、設計変更に伴う修正などを行う契約で工事が開始されたが、最終的に21億円下回る1569億円となった。
 厳しいとされていた36カ月の工期は悠々達成し、工費も上限を下回ることで、日本の建築技術の高さが実証されてといっても良い。
 計画段階の唖然とした迷走ぶりに比べて、一転して見事な施工管理で完了した。
 問題は、五輪大会開催後の後利用の計画が未だに示されていないことである。
 計画では、今年中に後利用の計画を策定して大会後の改修工事の方向を決めて、指定管理者の選定を開始する予定だった。
 新国立競技場の後利用については、文科省が「大会後の運営管理に関する検討ワーキングチーム」を設立して、文部科学副大臣が座長となり、スポーツ庁、内閣官房、日本スポーツ振興センター(JSC)、東京都で議論を重ね、2017年11月に「基本的な考え方」を取りまとめ、政府の関係閣僚会議(議長・鈴木俊一五輪担当相)で了承された。
 これによると、陸上トラックなどを撤去して、観客席を増設して国内最大規模の8万人が収容可能な球技専用スタジアム改修してサッカーやラグビーの大規模な大会を誘致するとともに、コンサートやイベントも開催して収益性を確保する。観客席は6万8千席から国内最大規模の8万席に増設し、改修後の供用開始は2022年を目指すとした。
 しかし、陸上競技関係者などから、陸上トラックを残して、新国立競技場を「陸上競技の聖地」として存続するべきだという声が強く出され、陸上トラックは残して陸上と球技の兼用にする方向で調整も進んでいることが明らかになった。
 新国立競技場の後利用の方向性が再び混迷を始めている。
 こうした中で、11月19日、萩生田光一文部科学相は、新国立競技場の後利用について、民営化の計画策定時期を大会後の2020年秋以降に先送りし、その後に公募を行うと明らかにした。今年半ばごろに計画を固める予定はあっさり放棄した。
 先送りした理由については、大会の保安上の理由で現時点では詳細な図面を開示できず、運営権取得に関心を持つ民間事業者側から採算性などを判断できないとの声が上がったためだと説明した。
 また萩生田氏は、焦点となっている陸上トラックの存続可否については「民間の方の意見を聞いた上で最終方向は決めるが、基本的には球技専用スタジアムに改修する方向性で継続して検討を続けていきたいと思っている」と述べた。
 一方、橋本聖子五輪相は後利用について「トラックを残すべきだという意見もあるというのは承知している。新国立にふさわしい運営をしていただけるような検討をお願いしたい」と語った。(11月19日 共同通信)
 新国立競技場の改修後の供用開始、2022年は大幅に遅れることは必至である。その間も、新国立競技場は、年間24億円の維持管理費が必要となるとされている。当面、所有者の日本スポーツ振興センター(JSC)は赤字を背負うことになる。
 陸上トラックを存続して「陸上競技の聖地」として出発しても、陸上トラックを撤去くしてサッカーなどの球技専用のスタジアムになるにしても、6万人収容の巨大スタジアムを維持するのは至難の業である。フランチャイズチームがないスタジアムの経営はなりたたないというのが常識である。
 「木と緑のスタジアム」、新国立競技場は、五輪のレガシーどころか大会後は赤字を背負ってのスタートとなるのは避けられない。
 負の遺産になる懸念は拭えない。
竣工した国立競技場 「杜のスタジアム」 提供 JSC

筆者撮影 2019年12月15日
日本の伝統建築の技法、「軒庇」を取り入れる。縦格子には全国47都道府県の木材を使用

筆者撮影 2019年12月15日

筆者撮影 2019年12月15日
国産木材を使用した巨大屋根 観客席を覆う

筆者撮影 2019年12月15日
南北の3層に設置された大型スクリーン 南/9.7m×32.3m 北9.7m×36.2m フルHD画質

筆者撮影 2019年12月15日
五色に塗り分けられた観客席 木漏れ日を表現 約6万席(五輪大会開催時)

筆者撮影 2019年12月15日
9レーンの最新鋭の「高速トラック」
 大会組織委員会はイタリアのモンド社とソールサプライヤー契約を結び、陸上競技トラックなどの陸上競技の備品の独占的供給を受ける契約を結んだ。モンド社は11大会連続で陸上競技トラックの公式サプライヤーとなった。トラックは二層の合成ゴム製で、表層はノンチップエンボス仕上げ、下層はハニカム構造のエアクッション層となっている。

提供 JSC
 芝生は鳥取県の天然の砂丘の砂地で生産された「北条砂丘芝」を採用。2019年7月、暖地型芝草(バミューダグラス系)の「ティフトン」を敷き詰めて、秋には冬芝の種をまいて冬期間の芝生の緑も保つ。トラック、ピッチの芝生工事は完了 日照不足に対応する芝生養生用の投光器に照らされて芝生の一部がオレンジ色に 筆者撮影 2019年12月15日

安倍首相の最終決断、ザハ・ハディド案を白紙撤回して、を約「1000億円」削減して、「1550億円
 2015年8月、“迷走”を繰り返した新国立競技場の建設計画は、安倍首相の最終決断で、ザハ・ハディド案を白紙撤回して、総工費「2520億円」を約「1000億円」削減して、「1550億円」とすることでようやく終息した。
 当初案で試算された「3000億円超」と比べると約半分、「2520億円」からは「1000億円」削減したとし、新国立競技場の建設費の削減は大きな成果を上げたと関係者は胸をはる。この削減額を聞いて、「見直しで大きな成果を上げたのでは」と感じる人も多いと思うが、これは“大いなる誤解”だ。
 「1550億円」は、スタジアムの建設費として本当に妥当な水準なのろうか、疑念は深まるばかりだ。

海外の五輪スタジアム建設費比較 断トツに高額「1550億円」
 「1550億円」でも、これまでに海外で建設されたオリンピック・スタジアムの建設費に比べて群を抜いて高額の建設経費だ。
 2000シドニー五輪では、収容人数11万人という五輪史上最大のオリンピック・スタジアムを建設した。総工費は「483億円」(6億9000万豪ドル)で、蝶々が羽を広げたようなデザインで注目を浴びた。大会後は、収容人数8万3500席に減築され、陸上トラックを取り外して球技専用スタジアムとなった。オーストラリアで最も人気のあるスポーツ、ラグビーのナショナルラグビーリーグ(オーストラリアとニュージーランド)の本拠地となり、”ラグビーの聖地”に衣替えをした。
またラグビーリーグの2チームをはじめ、サッカー、フットボール、クリケットなど12のプロチームのホームスタジアムになっている。

 2008北京五輪では、中国が五輪開催で世界に威信を誇示するためにオリンピックスタジアム、「北京国家体育場」を建設した。全長36キロ・総重量4万5000トンの膨大な鋼鉄を組み込んだユニークなデザインを採用し、「鳥の巣」(Big Nest)と呼ばれて世界から注目された。収容人数9万1000人で、総工費は35億元(約518億円)。
 大会後は、収容人数8万に減築し、マラソン、サッカー、馬術などのスポーツ競技会や自動車ショーなどイベント、コンサートなどで利用されている。大会開催直後は年間8万人の観光客でにぎわったが、その後は来場者も消えて閑古鳥が鳴くようになった。年間維持費は約3億元(約30億円)とされ、収支は赤字と思われる。
 * 為替レート 元=14.81円(2008年平均)
 2018年は年間26件のイベントが開催された。ユニークなのは冬期間はスノーパークとなり、スノボー・ビックエアの競技会も開催されている。しかし、8万人収容のスタジアムは、どんなイベントを開催するにしても巨大過ぎて、敬遠されているという。
 ビックイベントでは、2015年世界陸上競技大会の会場となり、2022北京冬季五輪の開会式・閉会式も開催される予定である。
北京国家体育場 鳥の巣 出典 COCOG
 2012ロンドン五輪では、イギリスのロンドン東部、オリンピック・パークの一角に、収容人数8万人のスタジアムを、4億2900万ポンド(約733億円)で建設した。大会後は、観客席を約5万4000席に減築する一方で、「格納式」可動席や全座席を覆う屋根を増築するなど改修工事を行い、その改修費は3億2300万ポンド(約493億円)に上った。 陸上トラックは残し、夏季期間は陸上競技、サッカーシーズンはサッカー場として利用することで、英プレミアムリーグのウェストハム・ユナイテッドのホームスタジアムとなった。しかし改修費が余りにも巨額になったことで、世論から激しい批判を浴びた。
 スタジアムの整備費は、建設費の4億2900万ポンド(約733億円)に改修費は3億2300万ポンド(約493億円)を加えると、総額は7億5200万ポンドという巨額の経費に膨れ上がった。
 * 為替レート £=152.70円(2013年平均)
 こうした事態を受けて、ロンドン市長は、スタジアムの運営スキームの徹底調査を指示し、このままでは年間2000万ポンド(約29億5000万円)の赤字が予想され、投資額の回収は不可能になるとして計画の見直しを表明した。
 ロンドンスタジアムでは、2015年にはラグビーW杯が開催され、2017年には世界陸上大会を開催し、陸上競技場としても利用された。また2019年には米大リーグ、MLBのヤンキース対レッドソックス戦を開催し話題になった。

ロンドン五輪スタジアム 出典 LOCOG

 2016リオデジャネイロ五輪は、2度に渡ってサッカーW杯のブラジル大会の決勝戦が行われた“サッカーの聖地”、マラカナン・スタジアムを、13億レアル(約585億6000万円)かけて、収容人数約9万人のオリンピック・スタジアムに改修して、開会式、閉会式、サッカーと開催するオリンピック・スタジアムとして使用した。
 マラカナン・スタジアムの所有者はリオデジャネイロ州、州はスタジアムを管理する民間の会社を公募し、ブラジルの大手建設会社、オデブレヒト社が率いる「コンソルシオ・マラカナン 」が約1億8,000万レアル(約81億7000万円)で2013年5月より35年間の運営権を獲得した。
 リオデジャネイロ州は、リオ五輪開催を前提にして、2014FIFAワールドカップ開催に合わせて、約13億レアル(約585億6000万円)をかけて収容人数9万人のスタジアムに全面改修を行った。
 2016年3月からは、コンソルシオは、リオ五輪大会2016開催のためにコンソルシオは大会組織委員会へスタジアムを貸与した。しかし、大会終了後、大会組織委員会がコンソルシオにスタジアムを返還したところ、五輪大会のために改修された部分が元通りになっておらず、「契約違反」としてコンソルシオ側は受け取りを拒否した。組織委員会は約2億レアル(約72億円)の負債を抱えており、スタジアムの改修費用を捻出できなかったのが原因とされている。この結果、管理者不在の状況に陥り、ピッチの芝は枯れて茶色になり、不法侵入者によってスタンドの座席が約7,000席壊されたり、事務所の備品などが盗まれるなどの問題が起きて、スタジアムは荒廃した。また、コンソルシオも、過去3年足らずの間に多額の損失を計上しており、スタジアムの運営権を他の会社に譲渡するこになった。2017年5月、フランスのコングロマリット、ラガルデール(Lagardère)が約5億レアル(約175億8000万円)で運営権を取得して、緊急課題としてエネルギー関連の改修工事を1500万レアル(約5億2000万円)投入して行うとした。

Maracanã Stadium 出典 リオデジャネイロ五輪招致ファイル

筆者作成 出典 海外スタジアムの事例 JSC(2017年)等各種資料を参照

 国内で建設されたスタジアムの建設費に比べても飛びぬけて高額だ。国内で最大のスタジアム、日産スタジアム(横浜スタジアム)は、1997年に完成したが、収容人数は7万2327人で、総工費は「603億円」、資材費や労務費などの物価上昇率を加味しても、新国立競技場の「2.5倍」の建設費は余りにも異常である。現在の物価水準でも、新国立競技場は「1000億円」程度が妥当な水準と指摘する建設専門家も多い。
 はたして、本当に「1550億円」のスタジアムは必要なのだろうか。
 さらに、削減幅にこだわったことで、基礎工事や周辺工事などで、算定から“抜け落ちた”経費が浮上したり、労務費や資材費が値上がりするなどして、実際には「1550億円」が更に膨らむ懸念がどうしても残る。
 総工費は「1550億円」の上限は維持できるのだろうか、不安材料は依然として残り、国民の批判が収まるかどうか不透明である。

 とにかく、「1550億円」のオリンピック・スタジアムは破格の高額スタジアムなのは明らかである。“世界一コンパクトな大会”を掲げた2020東京五輪の精神は何処へいったのだろうか。

建設単価 飛びぬけて高額 新国立競技場
 安倍首相の決断で、「2520億円」から「約1100億円」削減して「1550億円」になったと聞くと、かなり建設費が削減されて適切になったと誤解する人が多いが、実はこれは“大間違い”である。
 大規模な建造物の建設費が適正であるかどうかを全体として把握する最良の手法は、「坪単価」で見るのが常識である。
 新国立競技場を他のスタジアムと「坪単価」で比較してみよう。
 新国立競技場は、最終案の「1550億円」(延べ床面積19万4500平方メートル)とザハ・ハディド案を踏襲してゼネコン2社が積算した「3088億円」(延べ床面積22万4500平方メートル)の「坪単価」(3.3平方メートル)を計算した。 「1550億円」では、265.5万円、「3088億円」では、なんと453・9万円となった。スタジアム建設の「坪単価」では、唖然とする高額だ。
 現在では国内最大規模の日産スタジアムの「坪単価」は155.7万円、サッカー専用スタジアムとては東アジアで最大規模のさいたまスタジアムは105.5万円、屋根を備えている京セラドーム大阪は122・8万円である。
 新国立競技場は、可動式屋根や「キール・アーチ」を取り止めて電動式可動席や観客席冷房装置も設置を止めても、「坪単価」は破格の265.5万円、あきれるほどの高額なスタジアムである。
 建設費の高騰の理由として、労務費や建設資材費の値上がりを挙げるが、国土交通省が公表している建設工事費の指標となる「建設工事デフレーター」によれば、2015年度(平成27年度)を100として、2019年度(平成31年度)は、109.6となっている。東日本大震災の復興需要が発生して建設工事費が値上がりする前の2000年度頃と比較しても、値上がりは約20%程度と見ることができる。なぜ倍近くに高騰したのか、建設工事費の値上がりでは説明がつかない。
 一体、どんなコスト管理を行ったのだろうか?
 「1550億円」やはっぱり納得できない。