東京五輪 競技会場マップ 最新情報 膨張する開催経費 どこへいった“世界一コンパクトな大会”

東京五輪 競技会場マップ 最新情報 膨張する開催経費 どこへいった“世界一コンパクトな大会”
 2020東京オリンピック・パラリンピックの競技は、1964年の東京オリンピックでも使用された代々木競技場や日本武道館など過去の遺産を活かした「ヘリテッジゾーン」と、有明・お台場・夢の島・海の森など東京湾に面した「東京ベイゾーン」を中心開催する計画である。
 選手村から半径8キロメートルの圏内に85%の競技会場を配置するという「世界一コンパクトな大会」がキャッチフレーズだったが、相次ぐ「建設中止」や「会場変更」で、「世界一コンパクトな大会」は完全に消え去った。
 競技会場は、「既存施設」と「新設」があり、「既存施設」については改修や増設工事が伴う場合があり、「新規建設」は「恒久施設」と「仮設施設」に分けられている。
 2018年5月2日、国際オリンピック委員会(IOC)は、スイス・ローザンヌで開いた理事会で最後に残ったサッカー7会場を一括承認し、43競技会場がすべて決まった。
 この内、オリンピッックは42会場、パラリンピックは21会場(ボッチャ競技のみ幕張メッセCをパラリンピック単独会場として使用 その他はオリンピックと共通競技会場を使用)である。
 オリンピックで開催される競技数は、東京大会組織委員会が提案した追加種目、5競技18種目を加え、合計競技数は33競技、種目数は339種目で、選手数の上限を11,900人とすることが決定されている。一方、パラリンピックは22の競技が開催される。
 今回承認されたサッカー会場は、札幌ドーム、宮城スタジアム、茨城カシマスタジアム、埼玉スタジアム、横浜国際総合競技場、新国立競技場、東京スタジアムの7会場で、決勝は男子が横浜国際総合競技場、女子は新国立競技場で開催する。
 また復興五輪のシンボルとなる野球・ソフトボールの福島あづま球場での開催も承認され、野球とソフトボールそれぞれ1試合(日本戦)を行う。
 43の競技会場の内、新設施設は18か所(恒久施設8/仮設施設10)、既設施設は25か所(内改修17)、既設施設の利用率は約58%となり、大会組織委員会では既存施設を最大限利用したと胸を張る。
 しかし、競技会場の決定に至る経過は、相次いだ迷走と混迷繰り返した結果であった。
* 2019年11月、四者協議で、暑さ対策によりIOCの要請によりマラソンと競歩の札幌開催が決まった。
(注)
緑色 恒久施設(新設)
赤色 仮設施設
青色 既設施設
(注) マラソン・競歩は札幌会場に変更
(注) 武蔵野の森公園は自転車競技(ロード)のスタート地点、富士スピードウェイはゴール地点
出典 Tokyo2020
恒久施設(新設)の競技会場
 2020東京大会競技場の「新設」(恒久施設)は、6万8000人収容可能なスタジアムへ建て替えられる「新国立競技場」(オリンピックスタジアム)を始め、東京アクアティックセンター(水泳・飛び込み・アーティスティクスイミング)、有明アリーナ(バレーボール)、海の森水上競技場(ボート、カヌー)、大井ホッケー競技場、夢の島公園アーチェリー場、カヌー・スラロームセンター、武蔵野の森総合スポーツプラザ(バドミントン 近代五種[フェンシング])の8施設である。
 国が建設するのは新国立競技場だけで、7か所の施設整備は東京都が担当し約1828億円で整備を行う。但し、新国立競技場については東京都も整備費総計約1849億円(本体工事と関連経費を含む)の内、約448億円を負担することが決まっている。

迷走を重ねた新国立競技場  オリンピック・スタジアム ((開会式 閉会式 陸上競技 サッカー))
出典 日本スポーツ振興センター(JSC) 2019年11月撮影
 競技場の整備経費については、新国立競技場は国(主管は日本スポーツ振興センター[JSC])、その他の恒久施設は東京都、仮設施設は東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織員会が責任を持つことが決められていた。
 「新国立競技場」は、2012年にデザイン競技公募を開始した際は、総工費は「1300億円を目途」としていたが、斬新な流線型のデザインのザハ・ハディド案が採用され、施工予定者のゼネコンが総工費を見積もると「3088億円」に膨張することが判明し、世論から激しい批判を浴びた。
 2015年7月、開閉式の屋根の設置の先送りなど設計見直しを行い「2520」億円に圧縮したが、それでも当初予定の倍近い額となり批判は一向に収まらず、ザハ・ハディド案の白紙撤回に追い込まれた。最終的に、安倍首相が収拾に乗り出し、2015年8月、屋根の設置を止めたり観客席の規模を見直すなどして総工費を「1550億円」(上限)とすることで決着した。迷走に迷走を繰り返して醜態を演じたのは記憶に新しい。
 2015年9月、新たな整備計画に基づき、総工費と工期を重視した入札事業者向けの募集要項を公開し、公募を開始した。
 新整備計画では、開閉式の屋根は止めてコンサートやイベントなども開催する「多目的利用」は放棄され、陸上競技やサッカー、ラグビーなどの競技スタジアムへ転換することを打ち出した。
 観客席は五輪開催時には約6万8000席(旧国立競技場 約54000席)とし、五輪後にはFIFA ワールドカップの開催も可能にするために観客席を陸上トラック上部に増設して8万席以上確保する。屋根は観客席全体(8万席拡張時を想定)を覆う固定式とした。建物の最高高さは70メートル以下、フィールドを含む面積は約19万4500平方メートル(同7万2000平方メートル)で、旧整備計画の約22万4500平方メートルから約3万平方メートル削減するとした。
 公募には、大成建設を中心に梓設計、建築家の隈研吾氏で構成するグループと、竹中工務店、清水建設、大林組の3社の共同企業体と日本設計、建築家の伊東豊雄氏で構成するグループが応募した。
 2015年12月22日、審査の結果が公表され、「木と緑のスタジアム」をコンセプトにした大成建設、梓設計、建築家の隈研吾氏で構成するグループが選ばれた。
 木材と鉄骨を組み合わせた屋根で「伝統的な和を創出する」としているのが特徴のデザインで、地上5階、地下2階建て、スタンドはすり鉢状の3層にして観客の見やすさに配慮する。高さは49・2メートルと、これまでの案の70メートルに比べて低く抑え、周辺地域への圧迫感を低減させた。
 総工費は約1490億円、完成は2019年11月末としている。当初目指したラグビーワールドカップ2019の開催は断念した。
出典 Tokyo2020
国立競技場竣工 最終的工費 1569億円
 迷走に迷走を重ねた新国立競技場が、全体工期36か月を経て、工事計画通り11月30日に竣工した。
 新国立競技場の整備経費については、1590億円を上限として、賃金や物価変動が発生した場合のスライド、消費税10%の反映、設計変更に伴う修正などを行う契約で工事が開始されたが、最終的に21億円下回る1569億円となった。
 問題は、「陸上の聖地」として存続させるのか、陸上トラックなどを撤去して、サッカーやラグビーなどの球技専用スタジアムにするのか、五輪大会開催後の後利用の計画が未だに示されていないことである。
 収益性の確保のカギとなる「多機能スタジアム」化は、経費削減で、屋根の設置が取りやめになり挫折した。
 「木と緑のスタジアム」、新国立競技場は、五輪のレガシーどころか大会後は赤字を背負ってのスタートとなるのは避けられない。
 負の遺産になる懸念は拭えない竣工した国立競技場「杜のスタジアム」 出典 JSC
日本の伝統建築の技法、「軒庇」を取り入れる。縦格子には全国47都道府県の木材を使用 筆者撮影 2019年12月15日
筆者撮影 2019年12月15日
国産木材を使用した巨大屋根 観客席を覆う 筆者撮影 2019年12月15日
南北の3層に設置された大型スクリーン 南/9.7m×32.3m 北9.7m×36.2m フルHD画質 筆者撮影 2019年12月15日
五色に塗り分けられた観客席 木漏れ日を表現 約6万席(五輪大会開催時) 筆者撮影 2019年12月15日
トラック、ピッチの芝生工事は完了 日照不足に対応する芝生養生用の投光器に照らされて芝生の一部がオレンジ色に 筆者撮影 2019年12月15日

「新国立競技場」はサッカーやラグビーなどの球技専用スタジアムに 「陸上競技の聖地」の夢は無残にも消えた
 2017年11月14日、「新国立競技場」の整備計画を検討する政府の関係閣僚会議(議長・鈴木俊一五輪担当相)は14日、五輪大会後はサッカーやラグビーなどの球技専用スタジアムに改修する計画案を了承した。22年後半の供用開始をめざす。
 計画案では、大会後に陸上競技のトラックをなくし、収益性を確保するため、観客席を6万8千席から国内最大規模の8万席に増設する。
 運営方針として、(1)サッカーのワールドカップ(W杯)の招致にも対応できる規模の球技専用スタジアムに改修し、サッカーやラグビーなどの日本代表戦や全国大会の主会場とするともに、国際大会を誘致する。(2)イベントやコンサート、子供向けスポーツ教室、市民スポーツ大会等を積極的に開催する(3)運営権を民間に売却する「コンセッション方式」の導入し、契約期間は10~30年間を想定して、20年秋頃に優先交渉権者を選定する。(4)収益を確保するためにJSCが管理する秩父宮ラグビー場と代々木競技場と合わせて運営することや命名権の導入も今後検討するなど掲げた。
 新国立競技場の維持管理費は長期修繕費を含めて年間約24億円とされている。収入が確保できなければ、50年、100年、延々と赤字を背負うことになる。
 結局、「新国立競技場」が“負のレガシー”(負の遺産)になるのは避けられそうもない。 出典 IOC

新国立競技場迷走 「陸上の聖地」復活か? 球技専用撤回へ
 2019年11月末に完成する新国立競技場について、大会後に改修して球技専用とする方針を変更し、陸上トラックを残して陸上と球技の兼用にする方向で調整が進んでいることが明らかになった。
 これを受けて、小池百合子都知事は会見で、「国から変更したとはまだ聞いていないが、球技、陸上、エンタメの3つで使えることになれば、国の施設として有効に利用できるのではないか」と話した。「球技専用になると世界大会並みの国際標準の大会ができないと、陸上ファンの方からいろんな声を聞いていた」とも述べた。(日刊スポーツ 7月6日)

 新国立の後利用については、文科省が「大会後の運営管理に関する検討ワーキングチーム」を設立して、文部科学副大臣が座長となり、スポーツ庁、内閣官房、日本スポーツ振興センター(JSC)、東京都で議論を重ね、2017年11月に「基本的な考え方」を取りまとめ、政府の関係閣僚会議(議長・鈴木俊一五輪担当相)で了承された。
 基本運営方針として、(1)ラグビーW杯の招致にも対応できる規模の球技専用スタジアムに改修し、サッカーやラグビーなどの日本代表戦や全国大会の主会場とするともに、国際大会を誘致する。(2)イベントやコンサート、子供向けスポーツ教室、市民スポーツ大会等を積極的に開催する(3)運営権を民間に売却する「コンセッション方式」の導入し、契約期間は10~30年間を想定して、20年秋頃に優先交渉権者を選定する。(4)収益を確保するためにJSCが管理する秩父宮ラグビー場と代々木競技場と合わせて運営することや命名権の導入も今後検討するなど掲げ、大会後に陸上トラックなどを撤去して、観客席を増設して国内最大規模の8万人が収容可能な球技専用スタジアム改修してサッカーやラグビーの大規模な大会を誘致するとともに、コンサートやイベントも開催して収益性を確保するとした。陸上競技のトラックを撤去し、収益性を確保するため観客席を6万8千席から国内最大規模の8万席に増設する。改修後の供用開始は2022年を目指すとしている。
 しかし、その後の検討で、陸上トラックなどを撤去して客席を増設する改修工事には、100億円程度が必要な上に、サッカーの試合の開催は天皇杯や日本代表戦などに極めて限定され、頼みにしていたJリーグの公式試合の開催は絶望となり、利用効率の改善が期待できないことが明らかになった。
 またFIFA ワールドカップの開催を目指すとしてもまだまったく目途がたっていない。ラグビーW杯は今年開催され新国立競技場は完成が間に合わず、決勝トーナメントは横浜国際総合競技場と東京スタジアムで開催されることになっていて、また開催される可能性は遠い先である。
 日本スポーツ振興センター(JSC)は、民間事業化に向けて行った民間事業者へのヒアリング(マーケットサウンディング)を行ったが、球技専用に改修してもあまり収益が見込めないことが明らかになってきた。
 また収益性を高める柱となるコンサートやイベントの開催については、経費節減で屋根の設置が取りやめになり、観客席の冷房装置も設置されなかったことが大きなマイナス要素となる。
 屋根がない新国立競技場では天候に左右される上に、近隣への騒音も問題になる。8万人の大観衆を集めることができる集客力のあるイベントは自ずから限定されるのは明らかだ。
 また、コンサートなどイベント開催は、傷みやすい天然芝の上にステージや観客席を設置しなければならないことで開催回数は増やせない。イベント関係者はむしろトラックを存続した方が芝生へのダメージは防げるとしている。
 一方、陸上関係者からは、2020東京五輪大会のレガシーとして新国立競技場は陸上競技場として存続して欲しいという声は根強い。
 旧国立霞ヶ丘競技場は、「陸上の聖地」として歴史あるナショナル・スタジアムとして国民の評価を受けてきた。「陸上の聖地」が消えるのは余りにも無念ということだろう。
 陸上トラックを残しておけば、陸上競技大会開催だけでなく、イベントのない日などに市民にトラックを開放したり、市民スポーツ大会を開催したりして市民が利用できる機会が生まれて、2020東京五輪大会のレガシーにもなるだろう。
 国際的にも最高クラスの9レーンの陸上トラックを、2020東京五輪大会だけのため整備するのでは余りにももったいない。
 しかし、国立霞ヶ丘競技場の陸上トラックを存続させ、陸上競技大会や市民スポーツ大会開催を目指しても、収益性の改善にはほとんどつながらないし、そもそも陸上競技では、6万人規模のスタジアムは大きすぎて、観客席はガラガラだろう。全国大会クラスでも数万人収容規模のスタジアムで十分である。
 日本スポーツ振興センター(JSC)は、新国立競技場の長期修繕費を含む維持管理を年間約24億円としている。大会開催後の新国立競技場の収支を黒字にするのは簡単ではない。
 日本スポーツ振興センター(JSC)では、事業スキームに民間の創意工夫を最大限反映させるため、民間事業者へのヒアリング(マーケットサウンディング)を進めながら、文科省と協議して新国立競技場の大会後の在り方の検討を進め、指定管理者を公募して新国立競技場の運営管理を委託するとしている。
 新国立競技場は球技専用スタジアムになるのか、陸上競技場として存続するのか、新国立競技場の迷走は、まだまだ終わらない。
 12月21日は、「国立競技場オープニングイベント~HELLO, OUR STADIUM~」を開催することが決まった。そして2019年元旦の天皇杯JFA全日本サッカー選手権大会が「こけら落とし」の大会となる。

オリンピック・アクアティクスセンター  (競泳 飛込 アーティスティックスイミング)
 オリンピック・アクアティクスセンターは、「競泳」、「シンクロナイズド・スイミング」、「飛び込み」の競技会場として、大規模な国際大会が開催可能な国際水準の水泳場として整備計画が立てられた。整備費は招致計画では総工費321億円としていたが、その後の見直しで683億円と約倍以上経費が膨れ上がった。
 整備計画では、建設時には延床面積5万7850平方㍍、約2万席の観客席とするが、大会後は屋根を低くして3階席を撤去するなどして観客席を5000席まで減らし、延床面積を3万2920平方㍍まで縮小する減築を行うとした。減築後も国際大会開催時には観客席を1万席から最大1万5000席(仮設席を含む)に拡張可能とした。メインプール(50m×25m)、サブプール(50m×25m)、飛込プール(25m×25m)が整備される。
 その後、2016年の「四者協議」トップ級会合で、座席数を2万から1万5000席に減らし、大会後の「減築」は取りやめて建設することで、683億円から567億円に削減する方針を明らかにした。
 五輪開催後は都民のための水泳場としても活用するとしている。メーンプールとサブプールの床や壁を可動式にすることで多様な目的に使えるようにした。
 2016年1月、本体工事については、大林・東光・エルゴ・東熱異業種特定建設共同企業体が、469億8000万円(税込価格)で設計・施工工事を落札した。予定価格は538億円(本体工事)で落札率は87%だった。
 しかし、約300メートルほどの近接した場所に東京辰巳国際水泳場があるのに、なぜ巨額の税金を投じて「二つ」も整備するのか、当初から過剰施設の象徴だとして批判にさらされていた。
 東京辰巳国際水泳場は1993年に開館し、世界水泳や五輪選考会など国内外の主要大会が開かれてきた水泳競技の「聖地」。50メートルのメインとサブのプール、飛び込みのプールがあり、一般にも開放している。整備費は181億円、維持費は年間4億7000万円である。2008年には五輪競泳の金メダリスト北島康介選手が、200メートル平泳ぎで世界新記録を出したことで有名な水泳競技場である。
 ところが、辰巳水泳場は、観客席は固定席が約3600席、仮設席が約1400席、合わせて約5000席が限界である。国際オリンピック委員会(IOC)の要求基準は観客席1万2000席、この基準を満たすためには、大幅な拡張工事が必要だが、建物の北側が運河に面していて工事は不可能とされていた。またこの水泳場は、水深が両サイドの約半分は2メートルしかなく、国際オリンピック委員会(IOC)の要求基準「水深2メートル」は満たしているが、推奨基準「水深3メートル」は満たしていない。「水深2メートル」の部分があるとシンクロナイズドスイミングの競技開催では支障が生じるとされている。さらに辰巳水泳場は、国際オリンピック委員会(IOC)の要求基準、コース幅2.5メートルも満たしていない。
 このため東京都は、一回り大きい国際水準の水泳場として辰巳の森海浜公園内にオリンピックアクアティクスセンターを新設することとし、東京辰巳国際水泳場は水球競技場として使うことにした。当初は水球競技場をオリンピックアクアティクスセンターに併設してウォーターポロアリーナを建設する計画だったが建設は中止された。

東京アクアティクスセンター  出典 IOC NEWS
都政改革本部調査チーム オリンピックアクアティクスセンターの大幅な見直しを提言
 調査チームは、国際水泳連盟や国際オリンピック委員会(IOC)の要求水準から見ると五輪開催時の観客席2万席という整備計画は過剰ではないかとし、大会開催後は減築するにしても、レガシーが十分に検討されているとは言えず、「国際大会ができる大規模な施設が必要」以上の意義が見出しづらいとした。
 「5000席」に減築するにしても、水泳競技の大規模な国際大会は、年に1回、開催されるかどうかで、国内大会では、観客数は2700人程度(平均)とされている。(都政改革本部調査チーム)
 また「2万席」から「5000席」に減築する工事費も問題視されている。現状の整備計画では総額683億円の内、74億円が減築費としている。
 施設の維持費の想定は、減築前は7億9100円、減築後は5億9700万円と、減築による削減額はわずか年間2億円程度としている。(都政改革本部調査チーム) 減築費を償却するためにはなんと37年も必要ということになる。批判が起きるのも当然だろう。
 施設維持費の後年度負担は、深刻な問題で、辰巳水泳場だけでも年5億円弱が必要で、新設されるオリンピックアクアティクスセンターの年6億円弱を加えると約11億円程度が毎年必要となる。国際水泳競技場は赤字経営が必至で、巨額の維持費が、毎年税金で補てんされることになるのだろう。
 大会開催後のレガシーについては、「辰巳国際水泳場を引き継ぐ施設」とするだけで検討が十分ではなく、何をレガシーにしたいのか示すことができていない。大会後の利用計画が示されず、まだ検討中であること点も問題した。
 辰巳国際水泳場の観客席を増築する選択肢は「北側に運河があるから」との理由だけで最初から排除されており、検討が十分とは言えないとし、オリンピックアクアティクスセンターは、恒久席で見ると一席あたりの建設費が1000万円近くも上りコストが高すぎると批判を浴びた。
 結論として、代替地も含めてすべての可能性を検証すべきで、オリンピックアクアティクスセンターの現行計画で整備する場合でも、さらなる大幅コスト削減のプランを再考することが必要だと指摘した。
 2016年11月29日、競技会場見直しや開催費削減などを協議する国際オリンピック委員会(IOC)、東京都、大会組織委員会、政府の4者のトップ級会合が東京都内で開かれ、アクアティクスセンターは観客席2万席から1万5000席に縮減して、大会後の「減築」は止めて、683億円から514~529億円程度に削減して建設することで決着した。
筆者 撮影
出典 Tokyo2020
出典 Tokyo2020
有明アリーナ  (バレーボール)
 有明アリーナは、地上5階建てで、延べ面積約4万5600平方メートル。座席数は仮設席を含めて大会開催時には仮設を含めて約1万5000席を確保するが、五輪開催後は、約1万2700席に縮小する。メインアリーナはバレーボールコート4面又はハンドボールコート3面で競技可能な規模に、サブアリーナ はバスケットボールコート2面が配置可能な規模とする。整備費は、招致計画では、総工費約176億円としていたが、見直し後は約404億円に膨れ上がった。
 五輪開催後は、ワールドカップや日本選手権といった国内外の主要な大会の会場として利用するほか、コンサートなどの各種イベント会場としても活用するとした。そのためメーンアリーナの床はコンクリート製とし、機材搬入用の大型車が通れるようになっている。 またショップやレストランを充実させたりすることで、五輪開催後は、首都圏での新たな多目的施設を目指す。
 2016年1月、本体工事は、竹中・東光・朝日・高砂異業種特定建設共同企業体が360億2880万円(税込価格)で設計・施工工事を落札した。有明アリーナ  出典 Tokyo2020
都政改革本部調査チーム 有明アリーナ建設中止も
 都政改革本部調査チームでは、バレーボール会場は既存のアリーナや大規模展示場を改修するなどして開催は可能とし、まず競技開催計画の変更を検討すべきと提言した。
 既存の会場変更する場合の候補として、「横浜アリーナ」を改修して使用する案を有力視した。
 また新設する場合でも、五輪開催後は他の既存施設でバレーボール競技大会の開催は十分運用可能なことから、有明アリーナの利用があまり見込めないとし、イベントやコンサートなど多目的展示会場の施設を目指すべきだとした。関東圏ではコンサートなどの利用に関しては、数万人を収容するアリーナクラスへの需要は高い水準が続くと見込まれているとしている。
 しかしイベント会場を目指すにしても、建設費については類似施設に比べ高く、404億円からさらにコストダウンの努力が必要とし、大会後の適切な座席数を見積もる必要や、コンサート会場として施設整備など民間事業者を巻き込んだ事業計画の詰めが必要と指摘した。
 既存施設を利用する開催計画の変更や、新設の場合にもイベント利用に向けた計画の詰めやコストの見直しが求めた。
 これに対し、日本バレーボール協会の木村憲治会長は、都政改革本部の調査チームのヒアリングに出席し、「国際基準である1万5000人を収容できる体育館が欲しい」と述べ、計画通り有明アリーナの建設を求めた。
 有明アリーナ建設用地については、約183億円の用地取得費を有明アリーナの整備費とは別枠で処理していることから、「五輪経費隠し」として批判されている。
 2016年12月21日、東京大会の会場見直しや開催費削減などを協議する国際オリンピック委員会(IOC)、東京都、大会組織委員会、政府の4者のトップ級会合が東京都内で開かれ、前回結論を先送りしたバレーボール会場は小池都知事が「有明アリーナ」を計画通り建設する方針を表明した。
 “ARIAKE LEGACY AREA”と名付けて、その拠点に「有明アリーナ」に据えて、有明地区を再開発して“五輪のレガシー”にする計画を示した。
 計画では、「有明アリーナ」はスポーツ・音楽などのイベント会場、展示場として活用し、周辺には商業施設や「有明体操競技場」も整備するとした。
 焦点の整備費は404億円を339億円に圧縮し、民間企業に運営権を売却する「コンセッション方式」を導入して、民間資金を活用し経費圧縮に努める計画だ。
海の森水上競技場 (ボート カヌー[スプリント])
海の森水上競技場  提供 東京都オリンピック・パラリンピック準備局
 海の森水上競技場(ボート、カヌー)は、防波堤内の埋立地の間を締め切る形で競技施設を建設するが、会場レイアウトの変更や護岸延長の縮小などにより整備費を大幅に圧縮し、延床面積3万2170平方メートル規模とする。建設費については、招致ファイルでは、約69億円としたが、地盤強化や潮流を遮る堤防の追加工事が必要とわかり、五輪開催決定後、改めて試算すると、約1038億円の膨れ上がることが明らかになり、世論から激しい批判を浴び、“無駄遣い”の象徴となった。舛添元都知事は防波堤工事などを見直して約491億円に縮減した。
 五輪開催後は、国際大会開催可能なボート、カヌー場として活用するとともに、海の森公園と連携した緑のネットワークを構成し、サイクリングコースや整備都民のレクリエーションの場、憩いの場とする計画だ。水辺を生かした水上イベントなどのイベントも開催して、多目的に活用するとしている。
 海の森水上競技場の本体工事については、大成・東洋・水ing・日立造船異業種特定建設共同企業体が248億9832万円(税込価格)で設計・施工を落札し着工した。
 しかし、その後も、整備費が巨額に上る上に、埋め立て地の先端に立地するた強風や波の影響を受けやすく、海水によるボートへの塩害の懸念や航空機の騒音問題などでも批判が止まず、小池都知事が設立した都改革本部の五輪調査チームは宮城県の長沼ボート場に会場変更をして建設中止をする提案をした。
 2016年11月29日、国際オリンピック委員会(IOC)、東京都、大会組織委員会、政府の4者のトップ級会合が東京都内で開かれ、小池都知事海の森水上競技場を20年程度存続の「スマート施設」(仮設レベル)として、整備費は当初の491億円から298億円に縮減して建設することを明らかにした。都の調査チームがボート・カヌー会場に提案していた長沼ボート場は事前合宿地とすることをコーツIOC副会長が確約し、小池都知事も歓迎した。
海の森水上競技場、完成披露式典開催
2019年6月16日、2020東京五輪大会でボート・カヌー会場となる海の森水上競技場の完成披露式典が行われた。小池百合子都知事が「(五輪では)世界最高峰の試合が繰り広げられ、連日、世界中の多くの方々に感動を与えると確信している。大会後も、様々なイベントで活用していきたい」とあいさつした。
 ボート・カヌー会場はもともと新設予定だったが、小池知事が見直しを表明し、大会コスト削減のため、宮城県の長沼ボート場への変更が検討したが、施設の一部を仮設にするなどして、試算段階で約490億円だった整備費を約310億円に削減して新設された。
 大会後は、国際大会や国内大会など年間30大会や水上スポーツ体験や水上レジャーのイベントを開き、来場者数を年間約35万人と見込むが、収支は約1億6千万円の赤字としている。
筆者 撮影
READY STEADY TOKYO(テストイベント) 筆者撮影
艇庫棟 筆者 撮影
海の森水上競技場 背景は東京ゲート・ブリッジ 筆者撮影 (左) グランドスタンド棟  約半分は建設経費削減で屋根なしになり、炎天下で観戦する観客の熱中症対策が大きな課題として残った。 (右) フィニッシュタワー 筆者撮影  筆者が訪れた日は、真夏の快晴の日だったが、常にかなりの海風が吹いていた。コースの水面には常にさざ波が絶えない。 世界ジュニアボート選手権 2019年8月 READY STEADY TOKYO(テストイベント) 筆者撮影
護岸に設置された消波装置 筆者 撮影
羽田空港への着陸進入路にあるため、5~6分に一度、大型旅客機が低空を通過する 筆者撮影海の森水上競技場 全景 出典 IOC
“迷走”海の森水上競技場 負の遺産シンボル
カヌー・スラロームセンター(葛西臨海公園隣接地) (カヌー[スラローム])
 カヌー(スラローム)の競技場は、水路に人工的に流れを作り出し、競技を実施することができる国内で初めてのカヌー・スラロームコースである。葛西臨海公園に建設する計画だったが、隣接地の都有地(下水道処理施設用地)に建設地を変更した。葛西臨海公園は貴重な自然環境を後世に残すという目的で整備された施設であることを配慮した。 大会後は、葛西臨海公園と一体となったラフティングも楽しめるレジャー・レクリエーション施設となるように計画を練り直した。整備経費、約73億円は東京都が負担する。 出典 IOC
カヌー・スラロームセンター  出典 IOC
 
筆者撮影
筆者撮影
大井ホッケー競技場  (ホッケー)
 大井ホッケー競技場は、大井ふ頭中央海浜公園内のサッカー用の第一球技場敷地にメーンピッチ(決勝など)を新設、サッカーやアメフト用の第二球技場敷地にサブピッチ(予選)を改修整備する計画である。
 座席数は、メーンピッチが大会時には仮設を含めて約1万席、大会後は約2600席、サブピッチは仮設を含めて大会時5000席、大会後は536席とする。
 立候補ファイルでは、公園内の球技場と野球場、6面をつぶしてメーンピッチ、サブピッチを整備する計画でいたが、地元の軟式野球連盟などから3万8千人分の反対署名が出され、東京都は見直し作業を進めた。野球場は残し、五輪開催時は大会運営に使うが、大会後はこれまでどおり4面の野球場が利用が可能となった。
 総事業費は約48億円を見込んでいる。
READY STEADY TOKYO(テストイベント) 筆者撮影
READY STEADY TOKYO(テストイベント) 筆者撮影
 
高温になったピッチの放水して冷却 筆者撮影
大井ホッケー競技場  出典 IOC

夢の島公園アーチェリー場 (アーチェリー)
 夢の島公園内(新木場)に建設するアーチェリー場は、当初計画では緑地エリアを潰して建設する計画だったが、批判を浴びて、緑地を極力減らさない方向で会場計画を見直して整備することになった。
 予選会場は円形広場(多目的コロシアム)に、決勝会場は公園内にある陸上競技場にスタンドを仮設するなどして整備をする計画に変更し、緑地を極力残すことになった。また取り壊す予定だった「東京スポーツ文化館」も選手控室などで活用する。整備費は約24億円。
 夢の島公園は、運河と水路に囲まれた43ヘクタールの総合公園、ごみの最終処分場であった東京港埋立地夢の島を整備して作られた。熱帯植物館や競技場や野球場などのスポーツ施設やバーベキュー広場などが整備され、四季折々の花が咲き乱れる緑のオアシスに生まれ変わっている。せっかく整備した緑地を潰して五輪施設を建設することに対しては都民から強い批判を受けていた。出典 IOC
手前が決勝会場 奥が予選会場 完成予想図 提供 TOKYO2020READY STEADY TOKYO(テストイベント) 筆者撮影 
READY STEADY TOKYO(テストイベント) 練習場 筆者撮影
READY STEADY TOKYO(テストイベント) 練習場 筆者撮影
武蔵野の森総合スポーツプラザ  (バドミントン 近代五種[フェンシング(ランキングラウンド RR)])
 武蔵野の森総合スポーツ施設(仮称)は、東京都調布市の東京スタジアムの隣接地の約3万3500平方メートルの敷地にメインアリーナとサブアリーナを建設する。
 メインアリーナは、バレーボール4面、バスケットボール4面が可能な競技フロアを備え、観客席は固定席で6662席、仮設席対応も含めると約11000席が収容可能である。大規模なスポーツ大会やイベントの開催も可能である。
 サブアリーナは、バレーボール2面、バスケットボール2面が設営可能なフロアが整備され、可動畳で武道競技の開催も可能である。屋内プールも設置し、50m、8コースの国際公認プールとなる。さらにトレーニングルームやフィットネススタジオ、カフェ等も設ける。 隣接地には東京スタジアムや「西競技場[陸上トラック]」がある。
 整備費は351億円。 バドミントンと近代五種[フェンシング(ランキングラウンド)]の競技場となる。
武蔵野の森総合スポーツプラザ 完成予想図  出典:東京都
筆者撮影
READY STEADY TOKYO(テストイベント) 筆者撮影
READY STEADY TOKYO(テストイベント) 筆者撮影
READY STEADY TOKYO(テストイベント) 筆者撮影
有明テニスの森公園  (テニス)
 有明テニスの森公園は、当初計画では既存の屋内外のコート計49面を、35面のコートや観客席などに再整備し、ショーコートを2面(観客席5000席と3000席付きコート)やインドアコートを建設するとしていた。しかし、日本プロテニス協会などから「コートの減少を最小限にとどめてほしい」といった要望や、ショーコートを整備予定のイベント広場についても、近隣住民らから存続を希望する声が寄せられていた。こうした要望を受けてコートの配置を変更することで、大会開催時には37面を整備し、大会終了後には元の49面に復元。また、2面整備予定のショーコートは1面を大会後撤去し、イベント広場に戻すとした。また観客席を仮設とすることで34億円縮減し、改修費は約110億円となった。
有明テニスの森公園  提供TOKYO2020
有明テニスの森公園  提供TOKYO2020
センターコート 筆者撮影
センターコート 筆者撮影
建設中止や会場変更をする競技施設
 恒久施設では、「夢の島ユースプラザ・アリーナA(バトミントン)」、「夢の島ユースプラザ・アリーナB(バスケット)」、「若洲オリンピックマリーナ(セーリング)」、仮設施設では、「ウォーターポロアリーナ(水球)」、「有明ベロドローム(自転車・トラック)」、「有明MTBコース(マウンテンバイク)」、「夢の島競技場(障害馬術、馬場馬術、総合馬術)」は建設中止となり、他の既存施設に振り替える。
 「夢の島ユースプラザ・アリーナA(バトミントン)」と「夢の島ユースプラザ・アリーナB(バスケット)」は、招致計画では、建設費を364億円としたが、見直しの結果、683億に膨張し建設中止に追い込まれた。
 バトミントンは、武蔵野森総合スポーツ施設(東京都調布市)、バスケットはさいたまスーパーアリーナ(さいたま市)に会場変更された。
 「若洲オリンピックマリーナ(セーリング [ヨット・ウンドサーフィン])」は、招致計画では建設費を92億円としたが、見直しの結果、土手の造成費が新たに必要となることが明らかになり、417億円に膨れ上がり建設は取りやめられた。会場は江の島ヨットハーバー[藤沢市]に変更となった。
 水球は「東京辰巳国際水泳場」で開催する。
 自転車(トラック)は、日本サイクルスポーツセンター内の「伊豆ベロドローム」に会場変更し、マウンテンバイク(MTB)は同じ日本サイクルスポーツセンター内のMTBコースを改修して開催することが決まった。
 また馬術(障害馬術、馬場馬術、総合馬術)は馬事公苑(世田谷区)に会場を変更し、カヌー・スラローム会場は、葛西臨海公園から公園に隣接する都有地に建設地が変更された。
仮設施設の競技場
 「仮設施設」では、皇居外苑コース(自転車・ロードレース)、お台場海浜公園(トライアスロン・マラソン水泳)、潮風公園(ビーチバレー)、海の森クロスカントリーコース(馬術・クロスカントリー)、有明アーバンスポーツパーク(自転車[BMX]、スケートボード)、青海アーバンスポーツパーク(バスケットボール[3×3]、スケートボード)、陸上自衛隊朝霞訓練場(射撃)が整備される。当初計画では整備にかかる経費は原則として五輪組織員会が負担するとしていたが、結局、大会組織員会が約950億円を負担し、東京都が2100億円を負担することになった。 これとは別に東京都は周辺整備費や道路などの交通基盤整備費の負担も背負うことになる。
 馬術(障害馬術、馬場馬術、総合馬術)は夢の島競技場内に仮設施設を建設する予定だったが、建設を中止し馬事公苑に会場を変更した。
 一方、馬術(クロスカントリー)については、計画通り、「海の森クロスカントリーコース」が仮設施設として整備される。
 マラソンは、スタート、ゴール共に新国立競技場で、競歩は、皇居外苑の周回コースで行う計画だったが、2019年12月、暑さ対策で札幌に会場が変更された。
 そのほかの「仮設施設」では、お台場海浜公園(トライアスロン[水泳]、マラソン水泳)、潮風公園(ビーチバレー)、青海アーバンスポーツ会場(バスケットボール3×3、スポーツクライミング)が整備される。
 自転車(ロードレース)は、当初計画ではスタート地点が皇居、ゴール地点が武蔵野の森公園としていたが、テレビ映りや景観を重視した国際自転車連合(UCI)から富士山を背景に走るコースを強く要請され、スタート地点を武蔵野の森公園、ゴール地点を富士スピードウェイ(静岡県小山町)とすることが決まった。

有明体操競技場 (体操)
 有明体操競技場は鉄骨造・一部木造の地上3階建てで、敷地面積は約9万6400平方メートル(都有地)、延べ面積約3万9300平方メートル、観客席1万2000席の計画で整備される。3万2000平方メートルの体操競技場と約5000平方メートルのウオームアップ施設などが建設される。
 大会後は、敷地面積を3万6500平方メートル、延べ面積を約2万7600平方メートルに縮小し、面積は約1万平方メートルの展示場とする。ウオームアップ施設は撤去され、バックスペースは駐車場となる。
 有明体操競技場は当初計画では、「仮設施設」として、組織委員会が総工費約89億円で整備し、大会後は取り壊す方針だったが、「大会後に有効活用せずに取り壊すのはもったいない」との意見が出ていた。その後、資材の高騰などでさらに総工費が膨れ上がり、「恒久施設」として建設する場合と比較してもあまり経費に大きな差がなくなったが判明し、大会終了後、10年間をメドに存続させ、再活用する「半恒久」施設として整備することになった。 展示場やイベント会場などで10年程度利用され、都の関連企業の「東京ビッグサイト」が管理運営を行う。
 東京都では、組織委員会が管理する「仮設施設」として仕分けしているので、「五輪開催費用」に計上していない。
 整備費の総額は「約253億円」とし、「後利用に相当する部分」を「193億円」、「大会時のみ使用する部分」を「60億円」に仕分けすることで東京都と組織委員会で合意している。「193億円」は東京都が負担することが決まったが、「60億円」の負担の割合は調整がついていない。
 2016年11月、清水建設が本体工事を205億2000万円で落札した。
有明体操競技場  筆者撮影
出典 Tokyo2020
READY STEADY TOKYO(テストイベント) 筆者撮影
READY STEADY TOKYO(テストイベント) 筆者撮影
座席はすべて木製 木のぬくもりは感じられるが長時間座っているとお尻が痛くなる 出典 IOC
海の森クロスカントリーコース
 海の森クロスカントリーコースは、東京湾の最先端にある中央防波堤の埋め立て地に建設される。この埋め立て地では緑化事業が進められ、海の森公園が整備され、公園内に馬術のクロスカントリーコースが仮設施設で整備され、総合馬術(クロスカントリー)が開催される。
 海の森公園からは東京ゲートブリッジなど東京湾と巨大都市、東京の景観が一望に見渡すことができ、大会開催後は、「海の森」として、都民のレクレーション・エリアにしたいとしている。
 ボートとカヌー競技が開催される海の森水上競技場が隣接している。
海の森クロスカントリーコース完成予想図  出典 TOKYO2020READY STEADY TOKYO(テストイベント) 筆者撮影
READY STEADY TOKYO(テストイベント) 筆者撮影
READY STEADY TOKYO(テストイベント) 筆者撮影
出典 Tokyo2020
青海アーバンスポーツ会場
 選手村からも近い青海エリアの敷地に、仮設で整備される競技会場。東京湾が見える場所に位置し、都市型スポーツ競技のバスケットボールの3×3やスポーツクライミングが開催され、世界各国の若者のアスリートが集う東京2020大会を象徴する会場のひとつとなる。
 パラリンピックでは、5人制サッカーの競技会場となる。
3×3 バスケットボール 会場 出典 IOC
READY STEADY TOKYO(テストイベント) スポーツ・クライミング会場 筆者撮影READY STEADY TOKYO(テストイベント) スポーツ・クライミング会場 筆者撮影
潮風公園
 潮風公園の前身は、東京港改造計画に基づいて造成された13号埋立地の一画の「13号地公園」で、この地域が臨海副都心として整備されるに伴い、全面改修工事が行われ「潮風公園」として生まれ変わった。臨海副都心内では最大の海辺の公園で、レインボーブリッジを背景とした東京湾の景観も素晴らしい。お台場海浜公園と隣接している。
 潮風公園の中心にある「太陽の広場」にビーチバレーボールの競技会場が仮設で建設される。
潮風公園 ビーチバレー競技会場 提供 TOKYO2020潮風公園 ビーチバレー競技会場 提供 TOKYO2020
コートの砂はベトナムのビーチの砂を輸入 FIVBビーチバレーボールワールドツアー2019 4-star 東京大会(2020東京五輪大会テストイベント) 筆者撮影
FIVBビーチバレーボールワールドツアー2019 4-star 東京大会(2020東京五輪大会テストイベント) 筆者撮影
有明アーバンスポーツパーク(自転車[BMX] スケートボード)
 若者に人気のあるBMX競技については、江東区有明地区に仮設会場を整備する計画だったが、大会組織員会は自転車(トラック・MTB)と共に既設施設の「日本サイクルスーツセンター」に会場を変更したいとした。しかし国際自転車連合は観客が集まりやすい首都圏での開催にこだわって難色を示し、結局、有明地区で開催することが決まった。約5000席の観客席を備えたBMXコースを、ゆりかめめ・有明テニスの森駅の隣接地に仮設で建設する。さらにスケートボードの競技会場も建設し、周辺を「都市型スポーツ」の拠点、アーバンスポーツパークとして整備する
有明アーバンスポーツパーク 完成予想図  提供 TOKYO2020
BMXコース 完成予想図  提供 TOKYO2020
READY STEADY TOKYO(テストイベント) 筆者撮影 BMXレーシング 筆者撮影BMXフリースタイル会場 筆者撮影
READY STEADY TOKYO(テストイベント) 筆者撮影 BMXフリースタイル会場 筆者撮影
スケートボード(パーク・ストリート)会場 出典 Tokyo2020
スケートボード(パーク・ストリート)会場 筆者撮影
陸上自衛隊朝霞訓練場 (射撃)
 陸上自衛隊朝霞訓練場は、陸上自衛隊朝霞駐屯地に隣接して設置された施設で、訓練場内は自動車教習所、屋内射撃場、弾薬庫等が設置されており、一部の区域で陣地構築等の小規模な訓練も可能である。3年に一度、自衛隊記念日に中央観閲式が実施されことで知られている。
 屋内射撃場は、射撃の競技場・練習場として使用され、1964年東京五輪大会では射撃競技の会場となった。
 2020東京五輪大会時には訓練場内に仮設施設が整備され、オリンピックとパラリンピックの射撃競技が開催される。
陸上自衛隊朝霞訓練場  出典 東京2020大会招致委員会READY STEADY TOKYO(テストイベント) 10メートルエアピストル 筆者撮影 
READY STEADY TOKYO(テストイベント) 10メートルエアピストル 筆者撮影
READY STEADY TOKYO(テストイベント) クレー射撃 Shotgun Range 筆者撮影
READY STEADY TOKYO(テストイベント) 50メートルライフル射撃 Final Hall 筆者撮影
武蔵野の森公園(自転車[ロードレース] スタート地点)
 ロードレースのコースは、当初は、スタートとゴール共に、観客の集まりやすい皇居外苑としていた。  しかし、ロードレースのコースは選手の実力差が出るように勾配のある難しいコース設定が求められ、リオ五輪では終盤は高低差約500メートルの山岳ルートを周回するコースが選ばれている。競技団体から、こうした条件を満たす富士山麓のコースが求められた。しかもテレビ映りの絶好な富士山を背景にすることができることも大きな要因だった。ゴールは富士スピードウェイ(静岡県小山町)が決まり、出発点は武蔵の森公園となった。  組織委員会としても、都内の周回コースは一般交通への影響や警備の負担が大きく、富士山コースを受け入れた。  それにしても「テレビ五輪」を象徴する計画変更である。READY STEADY TOKYO(テストイベント) 出典 TOKYO2020
READY STEADY TOKYO(テストイベント) 出典 TOKYO2020
READY STEADY TOKYO(テストイベント) 出典 TOKYO2020
既存施設の競技場

東京辰巳国際水泳場  (水球
 水球の競技会場となる東京辰巳国際水泳場は、東京都の水泳競技場の代表的な施設として建設され、1993年にオープンした。
 50m×25mで公認8レーンで、水深を1.4mから3mまで変えられる可動床が設置されているメインプールや50m×15mで7レーンのサブプール、25m×25mで水深5mの国際公認ダイビングプールを備え、全国規模の大会などが多数開催されている。観覧席は固定で3,600席、仮設で1,400席、あわせて5,000席がある。ダイビングプールの観客席はメインプールと共通である。
 このメインプールは2008年に北島康介選手が世界新記録を樹立したり、2017年には渡辺一平選手がその記録を塗り替えるなどの舞台となった。
東京辰巳国際水泳場  出典 東京2020大会組織委
幕張メッセ A・Bホール(テコンドー・レスリング・フェンシング)
幕張メッセ(国際見本市会場 11のホール[総展示場面積75000平方メートル)、国際会議場、イベントホール)  出典 Tokyo2020
 2020東京五輪大会の立候補ファイルの当初計画では、東京ビックサイトは、競技会場としても利用することになっており、「東展示棟」の約半分の3ホール、合わせて約2万6000平方メートルは、レスリングやフェンシング、テコンドーの競技場として利用する予定だった。
 国際放送センター(IBC)は「東展示棟」の残りの3ホールと「西展示場」、それに「東展示棟」脇に新設する「東新展示場」を利用して、施設整備をする計画だった。
  しかしその後、IBCの設営・運営の責任を持つOBS(Olympic Broadcasting Service)から、当初計画のIBCのスペースでは手狭だとの指摘を受けたため、大会組織委は東京ビックサイトに整備予定のレスリングやフェンシング、テコンドーの競技場を幕張メッセ(千葉市)に移し、「東展示場」の6ホール(約5万2000平方メートル)はすべてIBCで使用することに変更した。
 ホールAでは、テコンドーとレスリング、ホールBでは、フェンシングが開催される。ホールA レスリング会場 READY STEADY TOKYO(テストイベント) 筆者撮影
ホールA テコンドー会場 READY STEADY TOKYO(テストイベント) 筆者撮影
馬事公苑 ((馬術 [障害馬術・馬場馬術・総合馬術(クロスカントリーを除く)])
 馬術(障害馬術、馬場馬術、総合馬術)は夢の島競技場内に仮設施設を建設する予定だったが、建設を中止し馬事公苑に会場を変更した。馬事公苑は東京1964大会時に馬術が行われ、1964年大会のレガシーを有する施設の1つである。国内最大の馬事普及拠点になっている。
 一方、馬術(クロスカントリー)については、計画通り、「海の森クロスカントリーコース」が仮設施設として整備される。
約18万平方メートルの敷地には、メインアリーナ(FOP)、インドアアリーナ(室内練習場)とその上部階にあるオブザーベイション・デッキや、厩舎、仮設スタンドが整備された。大会の馬術競技は、夏の暑さ対策のため、主にナイターで開催された。新たに整備されたメイン・アリーナ(FOP)とメイン・オフイス 出典 馬事公苑
新たに整備されたメイン・アリーナ(FOP)とメイン・オフイス X投稿画像
障害馬術 出典 馬事公苑
新たに建設されたインドアアリーナとオブザーベーション・デッキ 筆者撮影
新たに建設された厩舎 筆者撮影
馬術競技は、夏の暑さ対策のため、主にナイターで開催 出典 馬事公苑
東京スタジアム (7人制ラグビー サッカー[予選] 近代五種(水泳200m自由形・フェンシング[ボーナスラウンド]・馬術・レーザーラン)

東京スタジアム  出典 Tokyo2020
東京スタジアム  出典 Tokyo2020
READY STEADY TOKYO(テストイベント) 近代五種  馬術  出典 Tokyo2020
READY STEADY TOKYO(テストイベント) 近代五種 フェンシング(ボーナスラウンド) 出典 Tokyo2020
お台場海浜公園 (トライアスロン・マラソンスイミング)
マラソン水泳・トライアスロン 深刻な東京湾の水質汚染問題を抱える
 2017年10月、2020東京大会組織員会は、マラソンの水泳とトライアスロンの会場で、大腸菌(Coli)が水質許容基準の上限の20倍、便大腸菌(faecal coliform bacteria)が上限の7倍も検出されたと公表した。
 組織委では、雨期に海岸から流出する細菌の量を抑制するために、お台場マリンパークに水中スクリーンを設置するなど多数の実験を行い、水質改善に努めているとした。
 コーツ副会長は「トライアスロン競技連盟は依然として水質を懸念している。大会組織委から水のスクリーニング・カーテンの入れ方などの実験について説明を受けが、この姿勢には非常に満足している」としたが、水質問題に依然として懸念が残るとして改善を求めた。
お台場海浜公園  提供 TOKYO2020
トライアスロン・スイム  出典 Tokyo2020
トライアスロン・スイム  出典 Tokyo2020
READY STEADY TOKYO(テストイベント) トライアスロン・バイク 筆者撮影
READY STEADY TOKYO(テストイベント) トライアスロン・バイク 筆者撮影
READY STEADY TOKYO(テストイベント) トライアスロン・ラン 筆者撮影
トライアスロン・コース  出典 Tokyo2020
さいたまスーパーアリーナ (バスケットボール)
 バスケットボールの競技会場は、招致計画では、夢の島に「夢の島ユースプラザ・アリーナB」を建設して開催する予定だったが、建設計画を見直し結果、経費が大幅に膨らむことが判明したため、新設計画を止めて、既存施設のさいたまスーパーアリーナで開催することに変更した。さいたまスーパーアリーナは、建築面積約4万3000平方メートルの多目的アリーナで、スポーツイベントを始め、コンサート、見本市、大規模会議なで利用されている。最大座席数は3万7000席、メインアリーナではバスケットボール、バレーボール、フィギアスケートなどを開催する。さいたまスーパーアリーナ 出典 Tokyo2020
江ノ島ヨットハーバー
 江の島ヨットハーバーは神奈川県藤沢市の沖にある「江の島」の中にある。
 1964東京オリンピックのヨット競技の会場となり、江の島の北東側海岸にあった岩場を埋め立てて、ヨットハーバーを整備した。
 埋め立て地の内、約330平方メートルにヨット係留施設を建設し、鉄筋3階建クラブハウスや約500台駐車可能の駐車場なども整備された。また2000t級の観光船なども発着できる岸壁も建設した。
 2020東京五輪大会ではセーリング(ヨット ウインドサーフィン)の競技会場となる。

シラス漁に影響 江の島セーリング会場
 セーリング競技については、国際セーリング連盟は、バンコクの会議で、「準備が1年遅れている」と指摘し、地元の漁業者との交渉が進まず、レース海面決定が遅れていることや津波対策や警備対策に懸念を持っているとした。
 コーツ副会長も、記者会見で、2020東京大会組織委員会に対し、地元の漁業者へ与える影響について懸念を表明したと付け加えた。
 江の島で開催されるセーリング競技では、ディンギー5艇種によるヨットとウインドサーフィンが行われる。海上に設置された3つのブイ(三角形のコース)を周回して争われる競技である。
 レース海面は、鎌倉市沖から葉山町沖の海域に、直径1852メートルと1574メートルの円形の5つのエリアの設定が計画されている。
 一方この海域は、古くから湘南名物のシラス漁の好漁場として知られている。
 セーリング競技団体はレース海面をなるべく沿岸に近い浅瀬に設定することを求めているのに対し、漁業者はシラス漁への影響を懸念してなるべく沖合にしたいとして調整が継続されていて、未だにレース海面が決まっていない。
 シラス漁の操業海域は、5市1町の8漁業組合に独占的に認めている「共同漁業権」エリアが設定され、さらにその沖合にはどの漁協も操業できる海域が広がっている。
 シラス漁は、元旦から3月10日までは禁漁だが、五輪セーリング競技の公式練習や大会開催期間はシラス漁の漁期と重なり、漁業者への影響は必至である。
 そこで浮上するのが漁業補償の問題だが、神奈川県と関連漁協の間の具体的な協議は始まっていない。
 漁業補償がからんでレース海面の決定は難航が予想され、セーリング開催準備も難問を抱えている。
江の島セーリング会場  提供 TOKYO2020
江の島沖のセーリング会場  提供 TOKYO2020  
セーリング会場に津波対策で建設された避難所 筆者撮影
釣ヶ崎海岸サーフィンビーチ
 釣ヶ崎海岸(通称志田下ポイント)は九十九里浜(千葉県一宮町)の南端の海岸で、「世界最高レベル」ともいわれる良質な波が、年間を通じて打ち寄せる海岸として知られ、多くのサーファーが訪れる。
 プロサーファーやハイレベルなサーファーが集まることから「波乗り道場」とも呼ばれ、地元出身の多くの有力選手が活躍している。
ハイレベルな大会も多数開催されており、平成28年5月と平成29年5月にはこれまで国内で開催された国際大会の中でも最高レベルにあたる「QS6000 ICHINOMIYA CHIBA OPEN」が開催され、世界トップレベルの選手達がライディイグを披露した。
 2020東京五輪大会ではサーフィン競技の会場になる。
釣ヶ崎海岸サーフィンビーチ  提供 TOKYO2020
釣ヶ崎海岸 サーフィン  提供 TOKYO2020

迷走 霞ケ関カンツリー倶楽部
 2017年1月4日、森喜朗組織委会長は、ゴルフ会場の霞ケ関カンツリー倶楽部(埼玉県川越市)について「輸送を計画通りにできるのかどうか。選手の疲労なども考えると、運営側としては心配だ」と述べ、アクセス面の懸念を示した。
 東京晴海の選手村から会場までは40キロ以上も離れている上に、渋滞の激しい関越自動車道を通るため、期間中に設置される五輪専用レーンを設置しなければならない。専用レーンを利用しても1時間半程度かかるとし、「強い(上位)選手ほど帰るのが遅くなる。遅ければ選手村に午後10時ごろ。翌朝6時(始動)となれば大変だ」と述べ、4日間の日程で選手の疲労度を懸念した上で、輸送計画の精査を求めた。 
さらに、内陸部で真夏には気温が40度近くになることもあり暑さ対策の懸念も指摘した。
 森会長は、問題の解決が難しい場合、2012年招致計画の会場だった江東区の若洲ゴルフリンクス(都営パブリックコース)や、千葉県などにゴルフ場があることも指摘し、会場変更の検討にも言及した。
 一方、小池都知事は、「21世紀に女性が正会員になれないということに違和感がある」と述べ。男女平等をうたう五輪憲章に反するという懸念を示した。国際オリンピック委員会(IOC)は日本ゴルフ協会(JGA)など4団体で構成する五輪ゴルフ対策本部や大会組織委員会に対応を求めた。
また2013年の立候補ファイルでは、若洲から霞ケ浦へ変更されたが、なぜ変更されたのか、その経緯が不明朗だという批判がこれまでも巻き起こっていた。「誰がどう考えても若洲の方が良い」とする意見も強い。
 2017年3月20日、「霞ヶ関カンツリー倶楽部」は、臨時の理事会を開き、規則を改定し、女性正会員を容認することを出席した理事が全員一致で議決した。
 これまで霞ヶ関カンツリー倶楽部は、女性がすべての営業日を通じて利用できる正会員になることを認めていなかった。
 「霞ヶ関カンツリー倶楽部」は「時代に沿った対応をすすめるため、自主的に改定の判断をした」とのコメントを出した。
霞ヶ関カンツリー倶楽部  出典 TOKYO2020
伊豆ベロドローム  自転車(トラック)
 伊豆ベロドロームは、国際自転車競技連合(UCI)規格の周長250m木製走路を有する屋内型自転車トラック競技施設として2011年に開業した。観客席は、常設で1,800席、仮設で1,200席。全日本選手権自転車競技大会トラック・レースなど多くの国内主要大会で使用されている。また ナショナルトレーニングセンターとしての役割を果たすとともに、広く一般の方も利用できる施設になっている。
 自転車(トラック)は当初計画では、「有明ベロドローム」(仮設施設)を建設する予定だったが、建設費の高騰で、計画見直しを大会組織委員会が提案し、伊豆・修善寺にある「日本サイクルスポーツセンター」内にある「伊豆ベロドローム」に変更することが承認された。「伊豆ベロドローム」では、パラリンピックの自転車競技(トラック)も開催する。
 またマウンテンバイク(MTB)も、「海の森マウンテンバイクコース」(仮設)の建設を中止して、「日本サイクルスポーツセンター」内の既存の「伊豆MTBコース」を改修して使用することが決まった。
 このコースは全長2,500m、高低差85mのオフロードコースで全日本選手権大会なども開催され、初級者から上級者までが利用できるようにエリアやルートが分かれている。コースの途中には、富士山を望むことができるビューポイントもある。
 五輪大会のマウンテンバイク(MTB)競技は、クロスカントリーで行われ、起伏に富む山岳コースを舞台に全選手が一斉にスタートして着順を競うものでパワーとテクニックが必要となる。
 1周5km以上のコースを使用し、周回数は予想競技時間(男子2時間)にあわせた周回数となる。

* 「ベロドローム」とは自転車競技場の意味で、『Velo(ベロ)』はラテン語が語源のフランス語で自転車、『drome(ドローム)』はラテン語で競技場を意味する。
伊豆ベロドローム 筆者撮影
伊豆ベロドローム Tokyo2020
伊豆ベロドローム 筆者撮影
READY STEADY TOKYO(テストイベント) 伊豆ベロドローム 筆者撮影
日本サイクルスーツセンター全景 出典 日本サイクルスーツセンター
(伊豆ベロドローム[自転車」トラック・伊豆MTBコース[マウンテンバイク])
伊豆MTBコース  自転車競技(マウンテンバイク)
 サイクルスポーツセンター内にあるMTB(マウンテンバイク)専用コース。
コースは1周約4km、高低差は約150mほど。コンパクトな敷地内に作られた激坂上りと岩場下りが印象的な、世界最高のMTBコースされる。見渡す限り土、石、草が広がる荒れた道を、ブロックタイヤを装着したMTBで駆け巡る。
高い走りの技術が求められる8か所の、セクションは、日本の伝統文化と伊豆の景観がデザインされた厳しくも美しいもので、『天城越え』、『枯山水』、『桜吹雪からのウェーブ』などがある
大会イメージ図 出典 Tokyo2020
出典 日本サイクルスポーツセンター
出典 日本サイクルスポーツセンター
富士スピードウェイ 自転車競技(ロード) ゴール
 ロードレースのコースは、当初は、スタートとゴール共に、観客の集まりやすい皇居外苑としていた。
 しかし、ロードレースのコースは選手の実力差が出るように勾配のある難しいコース設定が求められ、リオ五輪では終盤は高低差約500メートルの山岳ルートを周回するコースが選ばれている。競技団体から、こうした条件を満たす富士山麓のコースが求められた。しかもテレビ映りの絶好な富士山を背景にすることができることも大きな要因だった。ゴールは富士スピードウェイ(静岡県小山町)が決まり、出発点は武蔵の森公園となった。
 組織委員会としても、都内の周回コースは一般交通への影響や警備の負担が大きく、富士山コースを受け入れた。
 それにしても「テレビ五輪」を象徴する計画変更である。
富士スピードウェイ  提供 TOKYO2020出典 USI
出典 USI
横浜スタジアム (野球・ソフトボール)
出典 NBC
出典 Tokyo2020
福島あづま球場 復興五輪のシンボルとなる野球・ソフトボールがそれぞれ1試合(日本戦)開催
 2016年10月、来日したバッハIOC会長は、総理官邸で安倍総理と会談し、東京オリンピック・パラリンピックの複数の種目を東日本大震災の被災地で行う構想を突然、提案した。 会談後、バッハIOC会長は、記者団の質問に答え、「イベントの中のいくつかを被災地でやるアイデアを持っているという話をした」と語り、東京オリンピック・パラリンピックの複数の種目を東日本大震災の被災地で行う構想を安倍総理に提案したことを明らかにした。これに対し安倍総理は、「そのアイデアを歓迎する」と応じたという。 大会組織委員会が福島市での開催を検討している追加種目の野球・ソフトボールが、候補に挙がった。野球・ソフトボールの開催地を巡っては、福島県の福島、郡山、いわきの3市が招致した。  森喜朗組織委会長がバッハ会長に野球・ソフトボールの被災地開催を安倍首相の提案するように進言したとされている。最終的に福島あづま球場が開催地に選ばれ、復興五輪のシンボルとなる野球・ソフトボールがそれぞれ1試合(日本戦)を行うことが決まった。福島あづま球場を訪れたバッハ会長 震災五輪をアピール 出典 IOC
出典 Tokyo2020
出典 Tokyo2020
出典 Tokyo2020
サッカーの予選開催競技場
 サッカーの予選開催競技場は、札幌ドーム(札幌市)、宮城スタジアム(宮城県利府町)、埼玉スタジアム2002(さいたま市)、横浜国際総合競技場(横浜市)の4か所がすでに決まっていた。組織員会では、茨城県立カシマサッカースタジアム(茨城県鹿嶋市)、豊田スタジアム(愛知県豊田市)、吹田市立スタジアム(大阪府吹田市)の3か所を追加したいとして国際サッカー連盟と調整したが、最終的に、茨城立カシマサッカースタジアム(茨城県鹿嶋市)、新国立競技場、東京スタジアムの4か所が追加開催競技場として決まり、全国7カ所で開催されることになった。
 決勝は男子が横浜国際総合競技場、女子は新国立競技場」で開催する。
 
選手村
 中央区晴海の東京ドーム3個分に及ぶ広大な都有地、約13万4000ヘクタールの敷地に、14~17階建ての21棟のマンション型の選手村と商業施設が建設される。工事費は約954億円。選手村の居住ゾーンは3街区に分けて、約1万7000人の五輪関係者が宿泊可能な施設となる。各住戸は、東京湾の風景が望めるつくり。周辺環境、海からのスカイラインを考慮し、様々な高さの建物を配置するとしている。
 大会終了後は分譲マンションとして販売する計画で、超高層住宅棟2棟を建設し、住宅棟21棟、商業棟1棟に整備して、5650戸のニュータウンに衣替えする。2016年7月、三井レジデンスなど11社で構成する民間事業者グループが開発事業を受注し、2017年1月には着工する。基本的に国や都の財政負担なしに整備する方針だ。日本の気候に応じた伝統的な建築技術と最先端の環境設備と融合した環境負荷の少ない街づくりを体現する1つのモデルとなることを目指す。
 しかし、東京都は選手村用地の盛り土や防潮堤の建設を始め、上下水道や周辺道路の整備に410億円を投入する計画だ。大会後は臨海ニュータウンになるので、社会資本整備投資経費として理解できるが、東京都の五輪開催経費、選手村整備費にはまったく算入していない。
 また都有地約13万4000ヘクタールを、周辺価格の約10分の1という「破格の優遇措置」で事業者グループに売却したという疑念が生まれて批判が集まった。
選手村  提供 TOKYO2020

IBC/MPC
 東京オリンピックの世界の報道機関の拠点、国際放送センター(IBC International Broadcasting Center)とメインプレスセンター(MPC Main Press Center)は東京ビッグサイト(江東区有明地区)に設置される。
 国際放送センター(IBC / International Broadcasting Center)は、世界各国。の放送機関等のオペレーションの拠点となる施設である。IBCの設営・運営は五輪大会のホスト・ブロードキャスター(Host Broadcaster)であるOBS(Olympic Broadcasting Services )が行う。
 IBCには、国際映像・音声信号のコントロール(Contribution)、分配(Distribution)、伝送(Transmission)、ストレージ(VTR Logging)など行うシステムが設置されるOBSエリアや各放送機関等がサテライト・スタジオや放送機材、ワーキング・ブースなどを設置する放送機関エリアなどが整備される。
 メインプレスセンター(MPC / Main Press Center)は、新聞、通信社、雑誌等の取材、編集拠点である。共用プレス席、専用ワーキングスペース、フォト・ワーキングルーム、会見室・ブリーフィングルームなどが整備される。
 IBCとMPCには、約2万人のジャーナリストやカメラマン、放送関係者などのメディア関係者が参加する。
 
 東京ビックサイトは、江東区有明地区の東京湾ベイエリアにある国際展示場で、敷地面積24万平方メートル、延べ床面積23万平方メートル、会議棟、西展示棟、東展示棟からなる日本で最大のコンベンションセンターで、毎年さまざな業種の約230の見本市・展示会が開催されている。
 五輪大会開催のために、西展示棟南側に、延床面積約6万5000平方メートルの5層階の「拡張棟」を、約228億円の整備費で建設している。展示ホールや会議施設、事務所などが設けられる。さらに床面積約1万平方メートルの東展示棟の「増設棟」を約100億円で建設した。
 東京ビッグサイトは、当初はフェンシングなど3つの競技場として使用する予定だったが、その後の調整で、IBCのスペースが狭隘なことから、3競技会場を幕張メッセに変更して、IBCは東展示棟に集約して配置することになった。また、MPCの配置については、ICの配置変更に伴って余裕が生まれた会議棟と西展示棟のスペースで配置が可能になり、「拡張棟」は、MPCとしては使用しないことが決まった。
 東京ビックサイトにIBC/MPCに設置すると、最大20カ月に渡って占有されるため、見本市・展示関連企業から約2兆円の売り上げを失うとして反発を受けている。国際放送センター・IBC/MPC  筆者撮影
何処へ行った「世界一コンパクトな大会」
 新規に競技場を建設すると、建設費はもとより、維持管理費、補修修繕費などの後年度負担が確実に生まれる。施設利用料などの収入で賄えるのであれば問題ないが、巨額の赤字が毎年生まれるのでは、“レガシー”(未来への遺産)どころか次世代への“負の遺産”になる懸念が大きい。五輪開催期間は、オリンピックが17日、パラリンピックが13日、合わせてわずか30日間である。新規の施設整備は極力止めるのが基本だろう。
 また忘れてはならないのは、2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致計画のキャッチフレーズは、「世界一コンパクトな大会」、ヘリテッジゾーンと東京ベイゾーンの選手村から半径8キロメートル圏内に85%の競技場を配置して開催するとしていた。「世界一コンパクトな大会」の公約は消え去ってしまった。

 それにしても東京五輪の「招致ファイル」は一体、なんだったのだろうか?
 舛添要一前都知事は、「とにかく誘致合戦を勝ち抜くため、都合のいい数字を使ったということは否めない」と述べている。結局、杜撰な招致計画のツケを負担させられるのは都民であり国民である。