白紙撤回された2520億円の見直し縮小案 当初案のキールアーチ構造を守る 出典 JSC
ザハ・ハディド案(当初案) 国際デザインコンクールで最優勝 工費が3000億円超になることが明るみ出て工費削減を目指した縮減案(上記)に 出典 Zaha Hadid Architekuct

- 迷走 新国立競技場(2) “負のレガシー”(負の遺産)になるのか? 白紙撤回ザハ・ハディド案 破綻した“多機能スタジアム” 疑問山積 “混迷”はまだ続く
- 「2520億円」の見直し整備計画も、世論の激しい批判を浴びて、ついに白紙撤回に追い込まれた。
“迷走”と“混乱”を重ねた上で、ついにザハ・ハディド案は撤回され、新国立競技場の整備計画は振り出しに戻った。
2015年8月28日、政府は関係閣僚会議を開き、総工費を「1550億円」とする新しい整備計画を決定した。- ▽総工費の上限は、「2520億円」に、これまで別枠にしていた工事費の未公表分「131億円」を加えた「2651億円」と比べて、約「1100億」円余り削減して「1550億円」(本体1350億円、周辺整備200億円)とする。
▽未公表分「131億円」は、芝育成システム(16億円)、連絡デッキ(37億円)、インフラ施設移設(18億円)などや組織員会新規要望(50億円)
▽設計・監理費用は40億円以下(「2520億円」の旧計画では98億円)で、「1550億円」には含めない。
▽基本理念は、「アスリート第一」、「世界最高のユニバーサルデザイン」、「周辺環境等との調和や日本らしさ」。
▽観客席は6万8000程度とする。
▽サッカーのワールドカップも開催できるように、陸上トラック部分に1万2千席を設置し、8万席への増設を可能にする。
▽屋根は観客席の上部のみで「幕」製とする。
▽「キールアーチ」は取りやめる。
▽観客席の冷暖房施設は設置しない。
観客の熱中症対策として休憩所や救護室を増設する。
▽陸上競技で使用するサブトラックは競技場の近辺に仮設で設置する。
▽総面積は旧計画の22万4500平方メートルから約13%減の19万4500平方メートルに縮小する。
▽VIP席やVIP専用エリアの設置は“最小限”にする。
▽スポーツ博物館や屋外展望通路の設置は取りやめて、地下駐車場も縮小する。
▽競技場は原則として陸上競技、サッカー、ラグビーなどのスポーツ専用の施設とする。但し、イベントでの利用も可能にする。
▽災害時に住民らが避難できる防災機能を整備する。
▽工期は、2020年4月末とする。 2020年1月末を目標とした技術提案を求める。
▽設計・施工業者を公募する際に2020年1月末を目標とした技術提案を求め、審査にあたって、工期を目標内に達成する提案に評価点を与えて優遇し、工期を極力圧縮することに努める。
▽財源については、“先送り”をして、多様な財源の確保に努め、具体的な財源負担の在り方は、今後、政府が東京都などと協議を行い、早期に結論を出す。
▽9月初めをめどに、設計から施工を一貫して行う「デザインビルト」方式を採用して、入札方式は「公募型プロポーザル方式」とし、応募の資格要件を課した上で、事業者を「公募」で募集する。
- ▽総工費の上限は、「2520億円」に、これまで別枠にしていた工事費の未公表分「131億円」を加えた「2651億円」と比べて、約「1100億」円余り削減して「1550億円」(本体1350億円、周辺整備200億円)とする。
- 白紙撤回を決断した安倍首相 「ゼロベースで計画見直す」
安倍晋三首相(当時) 出典 首相官邸
- 「白紙撤回」を決断したのは安倍晋三首相だった。迷走していた新国立競技場の建設問題を終息させようとした「大英断」だった。。
2015年7月17日、安倍晋三首相は、2020年東京五輪・パラリンピックの開会式や閉会式、陸上競技の会場となる新国立競技場について「現在の計画を白紙に戻し、ゼロベースで見直すと決断した」と正式表明した。計画を大幅に上回る2520億円に膨らんだ整備費を縮減する。秋までに整備費の上限などを盛り込んだ新整備計画をまとめ、再度、国際コンペをして施工業者を選定。20年春までに完成をめざす。東京五輪組織委員会会長を務める森喜朗元首相と官邸で会談後、記者団に「現在の計画を白紙に戻し、ゼロベースで計画を見直す。そう決断した」と語った。
2019年5月としてきた新競技場の完成予定時期も「20年春までが目安」(下村博文文部科学相)と大幅にずれ込む。想定していた2019年9月に開幕するラグビーワールドカップ(W杯)での使用は断念する。
首相は遠藤利明五輪相と下村博文文部科学相に新たな計画づくりに着手するよう指示した。これを受け下村氏は「コンペをやり直す。半年以内にデザインを決める」と述べた。総工費は2000億円以下を目指すとしている。
政府は秋口までにまとめる新たな整備計画で、整備費の上限や新競技場に求める条件などを提示する。デザインと設計・施工を一体にした国際コンペを実施して施工業者などを選ぶ。設計から工事、完成まで約50カ月かかるとみている。菅義偉官房長官は17日の記者会見で、7月中が「(五輪前の完成に)間に合わせるのにギリギリ」の時期だったと強調した。
現行の新国立競技場のデザインは、建築家、ザハ・ハディド氏によるもので、計画は「キールアーチ」と呼ばれる2本の巨大な鋼鉄製アーチが屋根を支える特殊な構造。これが総工費を押し上げ、当初計画の2倍近い2520億円に膨らんだことから、批判が強まっていた。
- 「白紙撤回」を決断したのは安倍晋三首相だった。迷走していた新国立競技場の建設問題を終息させようとした「大英断」だった。。
- 「1000億円」の削減にこだわった安倍首相
- “迷走”を続けた新国立競技場の建設費問題で、世論の激しい批判を収めるには建設費の大幅な削減が必須だった。安倍政権が重視したのは、建設費の「1千億円」を超える削減幅だった。
新国立競技場整備の責任者を下村博文文部科学相から、遠藤利明五輪担当相へと責任者を交代させ、新たに設けた再検討推進室に予算査定に慣れた財務省や大型公共事業にノウハウのある国土交通省の出身者を集めた。
まず、最後までこだわっていた可動式屋根の設置は完全にあきらめて、「700億円超」という巨額の建設費が必要で批判を浴びていた長さ400メートル、重さ1万トンの2本の「キールアーチ」の建設を止めた。屋根は観客席上部の固定式屋根のみとなった。これで、屋根の経費は「950億円」から75%削減し「238億円」とし、「700億円超」を削減するなどで、総額「1600億円台」が視野に入った。
観客席の上部の固定式の屋根は、安価な「幕」製にするとした。
さらに、述べ床面積を、豪華で広大な広さで批判に強かったVIP専用席やVIPエリアを縮小したり、スポーツ博物館や図書館、屋外展望通路をとり止めたりして前の計画から13%削減した。
最終段階で、遠藤氏が官邸を訪れた際、資料に記載されていた建設費は「1640億円」と伝えられていたとされている。この案では客席の下から冷風が吹き出す冷房設置の設置が含まれていた。冷房装置は真夏に開催するオリンピックの観客サービスとして、関係者が最後まで設置にこだわった設備である。これを外せば、さらに「100億円」の削減が見込めた。
「暑さ対策なら『かち割り氷』だってある」。首相は夏の甲子園名物を挙げ、遠藤氏に冷房施設の断念を指示。「首相主導の政治決着」を演出し、1500億円台の「大台」を達成したとされている。
安倍首相は「約1千億円の削減幅」をアピールして、国民の理解を取り戻す作戦であった。
しかし、「1550億円」でも、これまでに海外で建設されたオリンピック・スタジアムの建設費に比べて破格に高額である。
2000シドニー五輪では、収容人数11万人という五輪史上最大のオリンピック・スタジアムを建設したが、総工費は「483億円」(6億9000万豪ドル)、2008北京五輪では、ユニークなデザインで話題を呼んだ「鳥の巣」は、収容人数9万1000人で、「540億円」(4億2300万ドル)2012ロンドン五輪では、収容人数8万人のスタジアムで、「827億円」(4億8000万ポンド)で整備された。
(当時の為替レートで換算 ロンドン五輪のみ2015年6月の為替レートで換算 出典 毎日新聞 2015年6月25日)
国内で建設されたスタジアムの建設費に比べても飛びぬけて高額だ。国内で最大のスタジアム、日産スタジアム(横浜スタジアム)は、1997年に完成したが、収容人数は7万2327人で、総工費は「603億円」、資材費や労務費などの物価上昇率を加味しても、新国立競技場の「2.5倍」の建設費は余りにも異常である。現在の物価水準でも、新国立競技場は「1000億円」程度が妥当な水準と指摘する建設専門家も多い。
はたして、本当に「1550億円」のスタジアムは必要なのだろうか。
また、削減幅にこだわったことで、基礎工事や周辺工事などで、算定から抜け落ちた経費が浮上したり、労務費や資材費が値上がりするなどして、実際には「1550億円」が更に膨らむ懸念がどうしても残る。
総工費は「1550億円」の上限は維持できるのだろうか、不安材料は依然として残り、国民の批判が収まるかどうか不透明である。縮小見直し案 出典 JSC
- 飛びぬけて高額の建設単価 新国立競技場「1550億円」
- 安倍首相の決断で、「2520億円」から「約1100億円」削減して「1550億円」になったと聞くと、かなり建設費が削減されて適切になったと誤解する人が多いが、実はこれは大間違いである。
大規模な建造物の建設費が適正であるかどうかを全体として把握する最良の手法は、「坪単価」で見るとというのが常識である。
新国立競技場を他のスタジアムと「坪単価」で比較してみよう。
新国立競技場は、最終案の「1550億円」(延べ床面積19万4500平方メートル)とザハ・ハディド案を踏襲してゼネコン2社が積算した「3088億円」(延べ床面積22万4500平方メートル)の「坪単価」を計算した。 「1550億円」では、265.5万円、「3088億円」では、なんと453・9万円となった。スタジアム建設の「坪単価」では、唖然とする高額だ。
現在では国内最大規模の日産スタジアムの「坪単価」は155.7万円、サッカー専用スタジアムとては東アジアで最大規模のさんたまスタジアムは105.5万円、屋根を備えている京セラドーム大阪は122・8万円である。
可動式屋根や「キール・アーチ」を取り止め、電動式可動席や観客席冷房装置も設置を止めても、「坪単価」は破格の265.5万円、あきれるほどの高額なスタジアムである。
一体、どんなコスト管理をしたのだろうか?
「1550億円」やはっぱり納得できない。
筆者作成
新国立競技場は、2020年東京オリンピック・パラリンピックのシンボルとして、開会式、閉会式、陸上競技、サッカーの競技会場となると共に、2019年に開催されるワールドカップサッカーの競技会場とすることで計画された。またFIFAワールドカップの誘致も視野に入れている。
さらに、東京の新たな“文化の拠点”にしようと、イベントのコンサートも開催でできるようにする“多機能スタジアム”を目指し、東京五輪開催の“レガシー”(未来への遺産)として次世代に残す目論見だった。
“多機能スタジアム”は、素晴らしい構想ではあるが、“多機能”を実現しようとすると建設計画への要求水準がとにかく膨れ上がるを忘れてはならない。
2015年8月2日、総額305億円にのぼる茨城県つくば市の総合運動公園計画の賛否を問う住民投票が行われた。開票結果は反対が63,482票(80.88%)、賛成が15,101票(19.2%)、反対派が圧倒、80%を占めた。市原健一市長は白紙撤回も検討する考えを表明した。
総合運動公園計画は、つくば駅の北8キロの45・6ヘクタールに1万5千席の陸上競技場や体育館といった11スポーツ施設などを今年度から10年間かけて整備するという計画である。
反対派は、「この事業を進めた場合、用地購入費、建設費、施設管理運営費などの支出によって、将来の財政を圧迫し、高齢者対策、子育て支援、生活環境整備、産業振興など、本来必要な事業が困難になる可能性があります」と訴えた。
1964年東京オリンピックの時代とは明らかに激変している。住民の意識も一変しているだろう。2020年東京オリンピック・パラリンピックの準備には、その変化を敏感にくみ取る感性が求められている。
“白紙撤回”され“仕切り直し”された新国立競技場の建設計画、果たして国民の支持は得られるだろうか? 2020東京大会関係者の“時代感覚”がまさに問われている。
新国立競技場の完成予想図(縮小案)。環境に配慮して高さが当初案より5メートル低い70メートルになった 出典 日本スポーツ振興センター
- まだまだ残されている新国立競技場の問題点
- ▽ 観客席の“冷房システム”は必須!
五輪の開催時期は真夏で“酷暑”が想定されるなかで、観客席の“冷房システム”の設置は取りやめられた。「1000億円超」の削減を実現するために、整備費「100億円」とされている“冷房システム”は、最終調整で落とされた。
しかし、“冷房システム”は経費節約の対象とする設備ではなく、優先順位の高い設備だろう。 真夏開催の競技大会の場合、選手や観客の熱中症対策が必須である。
酷暑対策の“ホスピタリティ”は、“冷房システム”だ。
「開会式」やサッカーなどは、夜間に開催するから不要というのは余りにも“ホスピタリティ”重視の姿勢を欠いていると言わざるを得ない。東京の真夏は、「熱帯夜」が続く。
安倍首相は「冷却効果が少ないなら、別な形にしてもいい。『かち割り氷』もある」と発言したとされているが、「世界で最高のホスピタリティ」を目指すスタジアムという理念はどこへ行ったのか?
新国立競技場は50年後、100年後を見据えた「レガシー」(未来への遺産)を目指したのでないか?
▽ 天然芝は維持管理システムが重要!
天然芝の維持のために必要な“芝生育成補助システム”をどうするのか?
天然芝の大敵、夏場の高温多湿から芝生を保護するためや、ピッチ上部の可動式“屋根”は設置しなくても観客席の屋根は設置するので日照時間は制約されるので、“芝生育成補助システム”は、必須である。荒れた芝生のピッチは、“スポーツの聖地”に相応しくない。
「1550億円」の建設計画では、十分な“芝生育成補助システム”が含まれているのだろうか?
▽ “ホスピタリティ施設”の削減は充分か?
建設経費増の原因となっている広大なエリアを占める「世界水準のホスピタリティ施設」を謳っているVIP専用席、プレアム席やラウンジはどうなっているか。各国のVIPが勢揃いするのは、五輪大会位なもので、通常の大会では、広大なVIP施設は不要だ。
「世界水準のホスピタリティ施設」を謳うなら、観客席の“冷房システム”の方がはるかに重要だろう。
- 未解決 陸上競技場に必須のサブトラック
- 世界選手権などの国際的大会や、日本選手権などが開催できる最上位クラスの『第一種』陸上競技場は、は補助競技場(サブトラック)に『全天候舗装』400メートル『第3種』公認競技場が必要』と定められている。しかも『第3種相当』の競技場には400メートルトラックが8レーンが必要だ。この補助競技場がなければ、『第一種』と認められず、主要大会を開催できない。
旧国立競技場も、併設のサブトラックはなかったが、隣接の東京体育館の付属陸上競技場(1周200メートルが5レーン)と、代々木公園陸上競技場(1周400メートルが8レーン・第三種公認)を事実上のサブトラックとすることで、「第一種」として認定されていた。
現在「第一種競技場」として認められている「味の素スタジアム」には「西競技場」が、「日産スタジアム」には「日産小机フィールド」が補助競技場として整備されている。補助競技場は、サブトラックとして使用されるだけでなく、単独で陸上競技としても利用されている。
新国立競技場の整備計画では、当初は、神宮第二球場に常設するとの案があったが、スペースが足りないということでこの計画は立ち消えになり、神宮外苑の軟式野球場に設けることに決まった。しかし、この土地を所有する明治神宮が常設に反対したため仮設として整備し、大会後は取り壊すことで折り合った。
五輪開催後の新国立競技場のサブトラックどうするのか未だに目途が立っていない。 新国立競技場で国際競技会や公式競技会の開催を目指すならサブトラックの整備は必須となる。
またサブトラックの整備経費は、当初は「38億円程度」としていたが、当初の見積もりの甘さや旧計画が白紙撤回されたことや建設費の高騰が原因で、仮設で整備しても「100億円」に上るといわれている。恒久施設として整備すれば建設費は「100億円超」は必至である。さらに用地の確保の目途もまったくない。
五輪開催後にサブトラックが設置できなないのなら、公式の国際競技大会や日本選手権の開催が不可能となり、9レーンの国際標準のトラックなど陸上競技場としての設備は“無用の長物”となる。
そもそも、新国立競技場を「陸上競技の聖地」とするのは、現状では、不可能なのである。なんともお粗末な整備計画である。
- 「五輪便乗」 日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟建設 16階建の高層ビルの無駄遣い
- 2015年8月10日、参議院予算員会で、新国立競技場の建設問題が取り上げられ、民主党は“白紙撤回”されたにもかかわらず、現在も進められている関連工事の総額が約320億円あるとして、政府を追及した。この中で、問題視したのが、「JSC本部棟・日本青年館新営設計・工事・管理等」業務である。
政府内で、密かに新国立競技場の建設計画の“白紙撤回”に向けて検討が進められている最中、6月30日に、この建設工事で「165億円」契約が、文科省とJSCで交わされた。「165億円」の内、「47億円」はJSCが負担するが、その財源は、税金とtotoでまかなうとしている。
計画では、現在の日本青年館の南側にある西テニス場の敷地約6800㎡に、地上16階地下2階、延べ床面積約3万2000平方メートルのビル、「日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟」を新築し、JSC本部の事務機能や日本青年館の宿泊施設・ホールなどの機能を集約した施設を整備する。JSCは、この内、4フロア、6000平方メートル、これまでの1・4倍の面積を使用して、本部機能を移転する計画である。
2015年6月14日、競争入札で、安藤ハザマが落札、落札額は152億5000万円(予定価格は164億9626万円)だった。
「日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟」建設は、文科省の新国立競技場整備に関する「予算の上限」をJSCに示した時にすでに「174億円」(内JSC本部関連は28億円)を入れ込んでいる。 膨れ上がる新国立競技場の建設費を“抑制”するために「232億円」は別枠にしたのであろう。
それにしても「152億5000万円」使って。「日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟」を建設する必要があるかどうか、しっかり検証したのだろうか。 神宮外苑に、新たに1240席の大ホール、客室数約220室のホテルを、税金を投入して建設する必要があるのだろうか?
日本青年館は、全国の青年団活動の拠点にするため、「1人1円」の建設資金募金活動を繰り広げ、 大正14年9月に総工費162万円をかけて地上4階地下1階建ての旧日本青年館が完成した。
昭和54年2月には、青年団募金5億円が集められ、政府、経済界、各界の支援を受けて総工費54億円をかけて地上9階地下3階建ての現在の日本青年館が完成した。そして約30年、首都圏には、ホテルやホールの施設は十分に整っている。“時代”は変わっているのである。「五輪便乗」と批判されても止む得ないのではない。新国立競技場の建設計画は白紙撤回して見直したが、「16階建ての高層ビル」は見直しをしなかった。
(新日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟完成予想図 出典 日本青年館ホームページ)
- 財源問題深刻 誰が負担する「1550億円」
- 旧整備計画では、新国立競技場の建設財源を国、都、スポーツ振興くじtotoなどでまかなう方針だった。
しかし、2015年5月、下村五輪相が舛添要一都知事に都側の負担分として「500億円」の拠出を要請したが、舛添氏は、「1550億円」の情報開示不足などを理由にが難色を示し、宙に浮いたままとなっている。政府は9月上旬、財源を検討する国と都によるワーキングチーム(WT)を発足。年内に結論を出す方向だが、具体的な議論は始まったばかりで、合意には難航が予想される。
下村文科相は、新国立競技場のネーミングライツ(命名権)を売却して、約200億円の収入を上げるという目論見を明らかにしたが、ネーミングライツ(命名権)で得られる収入は、味の素スタジアム(調布)で約2億円(年)、日産スタジアム(横浜)で約1億5000万円(年)とされている。
一体、「200億円」という数字はどこから出てきたのだろうか?
- 五輪開催後、新国立競技場を何に使用するのか?
- 五輪開催後、新国立競技場は主としてどんな競技を開催する目論見なのか?
ポイントは、陸上競技場として残すかである。五輪開催後も陸上競技場として機能させて成算があるとのだろうか? 横浜市の「日産スタジアム」、調布市の「味の素スタジアム」、また駒沢オリンピック総合運動場で陸上競技の開催は十分可能だろう。そもそも陸上競技では「6万8000人」のスタジアムは大きすぎて、観客が集められない。
集客力のあるサッカーを中心にラグビーなどの球技場専用を目指すのがまだ現実的だろう。球技専用にするなら、観客サービスを充実させるために、陸上競技用の9レーンのトラックは取り払い、「ピッチサイド席」を設置するのが適当だろう。 サッカーやラグビーには、9レーンのトラックの空間が“邪魔”になる。さらにサッカーでも「6万8000人」を集客するのはかなりハードルが高い。
最大の問題は、年間365日の内、スポーツ競技大会で利用されるのはわずか36日、イベント利用で最大12日程度の利用を想定し、残りの300日以上の利用計画が立たないことである。子供スポーツ教室や市民スポーツでの利用を促進するとしているが、「6万8000人」の観客席を備えた巨大スタジアムは子供スポーツ教室や市民スポーツにはまったく不用だろう。
一体何にこの巨大なスタジアムを使うのだろうか。
出典 Tokyo2020
- 新国立競技場は五輪大会終了後の利用計画を前提にして整備計画策定を
- 「6万人」規模の巨大スタジアムの維持は、五輪開催後は絶望的だろう。観客席の縮小や競技場の設備の再整理など改築前提にして、整備計画を策定する方が現実的なのではないか。そのためには、五輪開催後、数十年に渡って、新国立競技場をどう維持していくのか、デッサンを描かなればならない。
「1550億円」の建設計画で、新国立競技場の“五輪後”の姿は明確に視野に入れているのだろうか。負の遺産になる可能性が強まった。